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第240話 拮抗

ヒトシは、

自分の内側に渦巻くものを、はっきりと自覚していた。

――多すぎる。

魔力が、身体に収まりきっていない。

血流に沿って流れるというより、

身体そのものが器として試されている感覚だった。

呼吸をするたび、

大気中の魔力が自然と集まり、

皮膚の内側へと染み込んでくる。

拒めない。

止められない。

「……笑えないな」

ヒトシが低く呟くと、

脳裏に、懐かしくも癇に障る声が響いた。

魔剣

「こんな日が来るとはなぁ」

ヒトシ

「……何が言いたい」

魔剣

「力ってのは、溜め込むと必ず形を欲しがる」

「今のお前は、形を持たないまま王冠を被ってる」

その瞬間。

適応進化が、即座に反応した。


【適応進化が反応

高位精神体の侵食を検知

強制分解を開始します】

――――――

「待て!」

ヒトシの声が鋭く跳ねた。

「やめろ!」

「消されたいのか!」

一瞬の静寂。

だが、魔剣は笑った。

魔剣

「消しても消えないぞ」

「俺はもう、“お前の選択の残滓”だ」

空気が、歪む。

適応進化の反応が、

これまでにない不規則さを帯び始めた。


【適応進化が反応

スキル合成を検知

高位精神体との境界を喪失】


ヒトシは、息を呑んだ。

「……何だと?」


【適応進化は高位精神体に合成されます】


「ふざけるな!」

ヒトシは、

即座に全身の魔力を掻き集めた。

理屈ではない。

制御でもない。

ただ、

「今は、それを許さない」という

強烈な拒絶だった。

魔力が奔流となって噴き出す。

「出ていけ!」

押し出す。

押し出す。

押し出す。

魔剣の気配が、

ヒトシの内側から引き剥がされていく。

適応進化が、最後の判断を下した。


【適応進化は抵抗

高位精神体を分解します】


轟音。

ヒトシの視界が、白に染まった。

次の瞬間、

胸の奥にあった“異物”が、

完全に外へと押し出される感覚があった。

空中に、

青白い光が留まる。

それは剣の形でもなく、

言葉を持つ影でもない。

ただ、

意志の名残のような光だった。

魔剣

「……ちっ」

短い舌打ち。

光は、

一瞬だけヒトシを見つめるように揺らぎ――

そのまま、夜空の彼方へと飛び去った。

完全な消失ではない。

だが、ここにはいない。

ヒトシは、

膝に手をついた。

「……立て続けになんなんだ……」

そのとき。

「王!」

「ヒトシ!」

駆け寄ってくる足音。

メイとヨークだった。

だが、

二人の姿を見た瞬間、

ヒトシは言葉を失った。

メイは、

いつもの軽装ではなかった。

落ち着いた色合いの衣。

幾何学的に整えられた装飾。

まるで――賢者と呼ばれる存在のような佇まい。

そして、ヨーク。

一回りどころではない。

明らかに、身体が大きい。

筋肉の隆起が、

皮膚の下で不自然なほど均整を保っている。

力が、

“制御された形”で宿っている。

ヒトシ

「……お前ら、おかしいぞ」

ヨークは、

自分の腕を見て、苦笑した。

「信じられないパワーアップですって」

「力が、抜けないんですよ」

メイは、冷静に周囲を観察しながら言う。

「魔力回路の影響ですね」

「王を中心に、循環が安定している」

一拍、置いて。

「そして……」

メイは、

はっきりと口にした。

「今や、王は“魔王”ですよね」

ヒトシは、

即答しなかった。

しばらく沈黙したあと、

短く吐き捨てる。

「……問題しかない」

魔物たちの方へ、視線を向ける。

力は、明らかに増している。

だが――

暴走はない。

錯乱もない。

彼らは落ち着いていた。

まるで、

自分たちの立ち位置を理解しているかのように。

拮抗。

力と理性。

支配と選択。

進化と抑制。

どれか一つでも崩れれば、

すべてが壊れる。

ヒトシは、

ゆっくりと立ち上がった。

(……まだだ)

(これは、勝利じゃない)

ただ――

均衡が、辛うじて保たれているだけだ。

そして、その均衡は、

いつ崩れてもおかしくない。

空を見上げる。

青い光が消えた方向を、

誰にも気づかれないように。

ヒトシは、

静かに歯を食いしばった。

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