27/31
終わりのない物語から
夏になったと思うのは
湿気の多い夜
暑い日差しと曇りの日々
熱帯の雨が追いかけてくるなかで
時計の針は回り続ける
連日の猛暑、時々酷暑
風見鶏は回らない
めまいがする……
ソーダの炭酸の泡を見つめながら
レモンを想う
冷たい爽やかな果実を想う
ひと前は
夏の風物詩といえば
手持ち花火に怪談でしたね
そんな話をしてくださった方がいて
柔らかく微笑んでいらしたので
記憶の底に沈んでいた星をひとつ
時計の砂から掬い取って
手のひらに乗せてみた
夏の夜、お座敷の座布団に
並んで座った子どもたち
語り部の叔父さんは話が上手くて
趣向を凝らした語り口に
暑い夜なのに寒気がして
語りが終わった瞬間
世界から音が消えていた
時計の針の音だけが聞こえる
神棚を縋る気持ち
さっとふすまが開いて
さ、もう遅いから寝なさい
優しい声、柔らかい手
なんとなく笑って、怖いねと口にして
それからのことは
覚えていない
記憶に残っているのは
線香花火が溶け落ちた後の
風の生暖かさ
蝉の声
サンダル履きの草地の感触
水バケツの手に食い込む重さ
一緒に遊んだ子らのこと
大人の横でちいさく手を振った
百物語というものがあって
百話まで話すと
障りがあるとか、ないとか
どれもひとが考えたことなので
きっとどれも正解で、不正解
どちらでも、信じたいように
心の向くままに
見上げた夜空は雲が晴れてきて
星ひとつ




