剣を探そうー3 セバスは優秀すぎるよ
俺はふぅとため息を吐きつつベッド上でセバスが入れた紅茶を飲む。そして一緒に添えられた煙草を口にくわえ火を点け大きく息を吸う。
「……生き返る」
すでに自分で持ってきた煙草は切らして久しい。久々のニコチンに俺の全神経が反応する。
「極上の煙草でございます故」
「そのようだな。ほんのり甘い香りが口腔内を漂う」
「さすが勇者様、味がお分かりで」
「ふっ、セバスが選ぶものは全てがパーフェクト。いつも素晴らしい」
「お褒めの言葉ありがたく頂きます」
「それで……さっき説明された少女……神を宿した少女「マリア」か。ややこしいな」
「ええ、実験に使われ可哀そうとは思いますが寝ている今のうちに処分も視野に入れるべきかと……」
「ううむ……やはり可哀そうだしリスティが処分なんて許さないだろうな」
「あの姫君ですか……正義感が強そうで頑張り屋さんなのは認めますが少し世間に疎いかと。それに情に流され現状維持をした結果後々目も当てられない惨状になりえた場合の事も考えるとあのような危険な存在をみすみす放置するのは愚の骨頂」
「セバスの意見は至極真当、しかしリスティのおかげであの魔人のリンも殺せなかったしな」
「勇者様もお優しくなりましたな」
「ああ……昔なら魔人と分かった瞬間殺してたな。四百年の堕落と賢者のじいさんの家で暮らした経験が俺を変えた」
「色々あられましたのですな、勇者様」
俺は煙草を加え口から有害物質を含む二酸化炭素を吐き出す。白くぷかりと吐き出された空気はじきに透明になる。それをチラリとフェリスが見る。
紅茶をグビリと飲み今後どうするかを決める。
「その少女……マリアを入れて結構な大所帯となっているわけだが、生活費が捻出できないとどうしようもないな」
「それは問題ありません」
「ほぉ……何か策があるのか? セバス」
「はい、すでにセバス商会を作りました」
「えっ?」
ちょっと待って! セバス来たの三日前だよね? えっ! どういう事? 意味が分からないよ! こいつはこの世界に来ていきなりなにしてんだ? 商会? 商会ってあれだよな? 物とか売る……。
「す、少し聞くが――商会というのは……物を売る?」
「はい、すでに他の商会とも面識を済ませ受け入れられるために賄賂も済ませてあります。そしてあのリスティ王女の権威も少し利用させてもらいました」
「か……金は? 元手は必要だろ?」
「その件ですが……勇者様の財布から少し頂きました。勝手をして申し訳ありません」
「あ、ああ……そこはいい。つかぬことを聞くが儲かってる?」
「まだ商会を立ち上げ数日なので――」
「そ、そうだよな」
「一千金貨程しか……」
「……一千」
俺は言葉が出なくなる。まだこの世界に来て三日で一千金貨を稼ぐセバスは俺の想像以上の優秀さだ。どこで経営を学んでいたのか……いや、魔王軍の頃からすでに魔王軍の生活費をソロバンをはじき捻出していたのだろう。確か爺さんの家にいた頃にまーちゃんがセバスは大企業の社長とか言ってたっけ。
「セバス……お前本当に優秀だな……」
「お褒めの言葉ありがとうございます。しかし魔王様の事を考えればする事はおのずと決まってくるのでそれをこなしているだけです」
「まさに魔王の片手にふさわしい働きだ……これで魔王がまーちゃんじゃなくもっと優秀だったら俺は魔王城にもいけなかったかもしれないな、ハハッ」
「いえいえ、魔王様も素晴らしく優秀です。ただその片鱗をまだ勇者様が見ていないだけ」
まーちゃんが優秀? そんな素振りなんて一つもないが?
仕方なく俺は一度咳払いして――
「それで? その一千金貨からこの大所帯の食費とかを回してくれるのか?」
とても重要なことだ。聞いておかなければならない。
「ええ、その件に関しては任せていただきます。ですが私は魔王様の従者、故に魔王様を第一に考えますが……」
「ああ、それはいい。できれば俺も特別扱いしてほしいな」
「それは存じております。魔王様と対等に戦える勇者様を軽んじたりしません」
「ッ――さすがセバス! 結婚して!」
「ゆーくんはうちと結婚するのん!」
これまで黙っていたフェリスがセバスより早く反応する。
「ああ、そうだったな。わかってるよフェリス」
「わかればいいのん」
「ところでセバス……商会はどの程度の規模なんだ?」
「まだ三店舗しか拡大していないのでそれほどでは――」
三日で三店舗っておかしくない? 本当にこの執事は優秀すぎる。
「まぁこれでこの大所帯の生活費は気にしなくていいわけだ」
「はい」
「なら実験体の少女も殺さなくてもいいか」
「ですが内に神を秘めている時点で危ないかと――」
「だが殺すと周りからの反応が……な」
「それでしたら私が殺しましょう」
「いや、もうこの時点でフェリスや盗賊の兄貴にばれている。止めなかった時点で俺も同罪になるからやめてほしいな」
「はっ、仕方がありませんね。本当にお優しくなりましたね。勇者様は……」
「まぁ……な。それじゃ今からその少女を一目見に行くか」
「それではお供します」
「うちは本読んどくのん」
「なら私もここに残るでござる。フェリス殿、昔の勇者の話は聞きたくないでござるか?」
「聞くのん!」
さすがは盗賊の兄貴、人見知りのフェリスの心を一瞬で掴みやがった。人心掌握術は昔のままで優秀だ。それとももしかしたら何度か会ってるのか?
「フェリスと盗賊の兄貴は知り合いなのか?」
「生まれた時と七五三、学園の入学式には顔を合わせているでござる」
「そうなのん! たまにくる人なのん! じいちゃんの知り合いなのん」
「東の国に修行に行ってる割には頻繁に会ってるな」
「東の国といってもそこまで遠いわけではないでござるに」
「そうか」
盗賊の兄貴が昔話を始めたので俺とセバスは部屋を出る。
俺はセバスの後をついていき実験体の少女の所へと向かう。
どんな少女なんだろうか? いきなり神降臨! なんて展開にはなってほしくはないな。




