戦争開幕ー4 神器開放
「まーちゃん!」
俺は胸元に聖剣をかざし「神器開放」を行うべく力を聖剣へと送り続ける。
まーちゃんは合図通りちゃんとやっているだろうか?
「<サンダー>」
「はぁ……それはもう見た。<カウンターアース>」
まーちゃんのサンダーが最強魔王の頭上でパチリと音を立てて球体のような膜の周りに四散し駆け巡ると同時に最強魔王の足元からまーちゃんめがけて土が突っ込む。
しかしまーちゃんは咄嗟というべきかカウンター魔法が来ることを想定してたかのように軽い身のこなしで避ける。
なんだ……やればできるじゃねぇか。心配して損したぜ、全く。
俺は目を瞑り全力で聖剣へと力を送り続ける。
その間にも魔法の攻防が繰り返される音が聞こえてくる。
「そろそろ行こうか」
最強魔王がボソリと呟く。
「そうね、あなたの行く末見届けさせてもらうわ」
ブラックドラゴンの女の声がする。
「<ゲート>」
逃げる気か? いや、目標を達成したから帰る気なのだろう。もう少し、もう少し時間があれば……。
「封印魔法<レストレイン>!」
フェリスの声が聞こえ「なに?」と最強魔王が呟く。
何か知らんがよくやった! フェリス!
俺は目を開く。
最強魔王がフェリスから伸びている巻物を伸ばしたような物で手足が拘束されている。それを見ているブラックドラゴンの女も驚いた顔をしている。
「少し面倒だな……」
「ゆーくん……まだなのん?」
フェリスの切実な声を聞き俺は、
「待たせたな!」
そう言いながら上段の構えをとる。
息を思い切り吸い、そしてこれでもかというくらい吐く。
「ゆーくん……決めてなのん!」
フェリスの久々の大声。母親に叱られ泣いている時くらいしか聞いたことのないような大声に俺は全神経を研ぎ澄ませ最強魔王へと神器を開放する。
「エクス…………カリバァァァ!!」
パキィィィンという甲高い音と共に天と地が割れる。
その斬撃は後に「神の衝撃と畏怖」と言われるようになる。
地を豆腐の如く切り裂きながら天空にある雲も同時に切り裂いている。
「っ……あれはまずいな」
そんな呟きが最強魔王から飛び出る。
これを食らえばさすがに死ぬだろう。
「ふん!」
最強魔王に俺の神器開放が接触すると同時に最強魔王が腕を大きく横に振るう。
するとフェリスの魔法と共に俺が放った最強の斬撃が微かに軌道を逸れ、地面の裂け目が直線ではなくなる。
「…………嘘だろ?」
「いや、其方はよくやった。余の腕を一本駄目にしたのだからな」
シュウと乾いた音と共に最強魔王の右腕から煙を立てて蒸気として立ち上る。
ブランと垂れ下がった右腕には鎧の形跡はなく、所々に骨が見えている。
「素晴らしい斬撃であった」
そう言いながら骨が見えている部位に肉が再生し皮膚もそれに追随するかの如く再生されていく。
「再生能力も最強かよ」
「直撃していれば危うかった。もう一度誉めよう。其方はよくやった」
「ふん、嬉しくもない」
「其方……名前は?」
「勇者」
「名乗りたくない……と?」
「名前が「勇者」だ。馬鹿野郎」
「ふふっ、おかしな名前だな。だが、覚えておくぞ」
「ふん、勝手にしな」
「では余はこの戦場から消えるとしよう。さらばだ」
そういうと最強魔王は自ら作り出した黒く丸い空間……恐らく「ゲート」へと入り姿を消す。そしてその後を追うようにブラックドラゴンもこちらに手を振りながらその空間へと姿を消す。そして数秒後黒く丸い空間が小さくなり消え去る。
誰も何も言わないシンとした沈黙がこの場を覆う。
そして俺はぶっ倒れる。「神器開放」の代償だ。
「主殿!」
「ゆーくん!」
リンとフェリスの声が聞こえる。
あれ? なんかデジャブってる? そんな事を思いながら「心配すんな」と小さく呟く。
俺の目の前には折れた剣がある。ああ、さっきの甲高い音は俺の聖剣が折れた音か……。
ん? その折れた刃先から黒い靄みたいなのが出ている。それが俺の方へと流れてくる。
そんな事より眠気がひどい……本当に体力も全部持っていかれたようだ。
ああ……眠い。俺は眠気に負けて瞼をゆっくりと閉じる。
戦争がこの後どうなるのか。そんな事をこの時の俺は考えもしなかった。
最強魔王が去り絶望が誕生する事を俺は知らなかった――




