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戦争変貌ー1 女神の誤算

 私はルナ、月の女神。

 神の指示に従い数多の人間から魔王を倒せる逸材を発掘し、勇者に聖剣を与えました。

 聖剣の神器開放で魔王は滅ぶはずだった……のですが、ここで一つ目の誤算が生まれた――神様の介入です。

 神様は勇者に魔王と生活を共にしろと言い出したのだ。

 私は成り行きを見守った。約四百年だ――その四百年の間に勇者は変わってしまいました……。

 かつては激しい訓練にも耐え、仲間に信頼されクエストにも自分から出かけ、いつも凛々しく率先して人助けをする人間から自堕落で棚から牡丹餅を狙うような人間に変貌してしまった。

 そして二つ目の誤算――それは神様の導きで勇者と魔王が共に最強魔王が誕生するであろう世界へと転移させられるという事です。

 神様の気まぐれにも困ったものです。せめて事前に私にも話を通してほしいものです。プンスカ。

 まぁそれは置いといてこの勇者に最強魔王を倒してもらったら私の株は急上昇!! それこそ最高神様方のお眼鏡にかなう千載一遇のチャンス!! 逃す手がありますか? いや、ない!!

 そしてファースト・エンカウンター。最初の出会いは果たされる。

 しかし神器の回収を依頼したらなんと一個につき一千金貨を要求する始末!! あり得ません!

 全く……どうしてここまで強欲になってしまったのか……。魔王に毒されすぎではありませんか。

 仕方なく回収した神器の中で使えるものは譲渡し、使えないものはこちらに返却するという妥協点で納得してもらいました。

 そして神器回収の最初のチャンスでとんでもないことが起きました。

 なんと最強魔王が戦場に割り込んできたのです。

 これはチャンス! そう思ったのですが私の考えは甘かったと言わざるおえません。

 なんと勇者と魔王の攻撃がことごとく無効化されているではありませんか!

 私は目を瞬かせました。

 そして魔王が心臓を貫かれ、魔王と心臓を交換していた勇者が死んでしまうという異常事態が発生してしまったのです! とてもピンチです! 私はすぐさま時の狭間を作りそこに魔王を転送しクロノス様から頂いた神器「リターン()オブ()タイム(逆行)」を使い勇者を救いました。

 そこまではよかったのですが……三つ目の誤算が生まれました。

 勇者の神器開放「エクスカリバー」ですら最強魔王に効かなかったのです。あり得ません!! どうなってるんですか!

 「この聖剣は特別製でどんな敵ですら屠る」と神様から聞いていたのにこれでは詐欺ではありませんか!! 神様! どうなってるんですか!

 しかもよく見れば体力を吸い取られ倒れている勇者の片手には折れた聖剣が見てとれました。

 一回の神器開放で壊れる聖剣なんて聞いたことありませんよ! 神様!!

 そして今私の目の前で四つ目の誤算が起きています。

 折れた聖剣から黒い(もや)が勇者を覆うようにして出ているではありませんか!!

 これは聞いてない!! この聖剣を神様にクーリングオフしたいです!!

 そして靄が勇者の体を完全に覆うと――




 勇者の体から天空に伸びる黒い柱が飛び出した。




「ルーナ! ゆーくんどうしちゃったの!」

「わ、わかりません! こ、こんな事聞いてません!」

「あんたがゆーくんに聖剣を渡したんでしょ! なんでわかんないのよ!」


 魔王――まーちゃんの言う通りです。ですが私にもさっぱりわかりません。

 しかし一つだけわかることがあります。




 あの黒い柱はよくないものだ――世界にとっても、神々にとっても……。



 黒い柱が天空に上りそこから暗雲が生み出され景色が晴れから曇りへと変わっていく……いえ、これは闇……とてつもない憎悪を含んだ闇が世界を覆うように景色を塗りつぶしていく……そんな得体も知れない恐怖が私の胸を貫く。

 黒い柱が消え勇者がいた場所には混沌ともいえる物体が残される。黒い靄を纏った人型の何かがムクリと立ち上がる。

 その手には折れたはずの剣が黒い靄で補完され剣の形を取り戻していた。


「なんかやばい!!」


 まーちゃんの言う通り一目で「敵」と認識できる「何か」がそこに立っていた。


「ウォォォォォォ!!」


 黒い靄がのけぞり雄たけびを上げる。よく見ると顔には細い目が六つ、左右対称に三つずつついており鮮血のような赤い光を纏っていた。

 ()()はのけぞったまま首をグルリと回しまーちゃんのところで首が止まる。


「ちょ、なんで私を見るの!!」


 その瞬間のけぞった状態からまーちゃんへとノーモーションで剣が振るわれ、魔力を纏った斬撃がまーちゃんめがけて放たれる。


「ひゃぁ!! <プリズン・シールド>!」


 まーちゃんが咄嗟に守りの防壁を作る……が一撃でほぼ半壊、いや八割方壊されている。


「まーちゃん! 逃げて!」

「言われるまでもないっての!」


 私が叫ぶ前にすでに全力で黒い靄から逃げていた。その背中めがけて――


「キェェェェェェ!!」


 またも事前の動きなしでの斬撃!! しかも今度は二連続!!


「まーちゃん! 後ろ後ろ!!」

「ちょっと! なんで私ばかりなのぉ!」


 半泣きのまーちゃんに迫る魔力の籠った斬撃――まーちゃんが危ない!!


「<シールド・コア>!」


 フェリスさんの声と共にまーちゃんが先程作った防壁よりも強力な盾が斬撃を防ぐ。

 さすがフェリスさん!


「キェ? クゥォォォォォォ!」


 斬撃が止められたことに腹が立ったのか雄たけびを上げる。その体からは膨大な魔力が黒い靄として溢れ出している。


「ギィィィィィィ!」


 今度は全方向に何度も斬撃を繰り出す――無差別攻撃だ。

 斬撃で攻撃され、まーちゃんを見ていた群衆達が自分たちの置かれた状況に気づきパニックに陥る。


「ま、まずいです! このままではここにいる全員に被害が出ます!」


 いや、すでに何人か斬撃に切られ手足が千切れていたり地面に倒れているものもいる。

 まさに地獄絵図……こんなこと誰が予想できたでしょう? 神様――私には神様の考えがもうわかりません。

 誰か……誰でもいいから私を導いて!!

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