戦争開幕ー3 私はまーちゃん
私はまーちゃん。魔王よ。昔の名前? そんなの忘れたわ。
それにしても一体ここはどこかしら? なんか真っ白な空間にいるんですけど?
確か私は……なんだっけ?
「あの……まーちゃん」
後ろから誰かが私を呼ぶ。私は面倒くさいが仕方なく振り返る。
そこには羽の生えたちょっと露出が多い服を着ているピンク髪の女が突っ立っていた。
「誰よあんた?」
「え?」
「私に何か用? てかここどよなのよ? あんたの仕業?」
「あの……私のことが分からないんですか?」
私はじっとピンク髪の女を見る……心当たりないわ。
「もしかして私のファン? まぁ私みたいな美人そうそういないからファンの一人や二人いてもおかしくないわね。いえ、三百人くらいいてもおかしくないわ。でもね、こんな部屋に連れ込んで何をするつもりなのかしら? 一ファンがやっていい事と悪い事はあるのよ?」
わかるわよね? という顔をして後ろ髪をサラリとなびかせる。
「あの……私です。ルーナです……言いにくいんですけどファンじゃありませんから……」
「あら? そういえばよく見れば顔だけはルーナね。それじゃなにかしら? これはゆーくんと組んでやった悪戯かなにかかしら?」
「あ、あのですね……私、女神なんですよ」
「はい? なら私は神様ね」
「ちょっと!? どういうことですか!!」
「そういうことよ」
「…………ふぅ、全く。ゆーくんが何故このような魔王と心臓を交換したのか理解できません」
「ちょっと!! どういうことよ!」
「そのままですが何か?」
「意味が分からないわ!! ところでゆーくんは?」
「死にました」
「はぇ?」
予想外の答えに私は変な声になってしまう。
「ですから、あなたが心臓を貫かれた事によって心臓を交換している勇者は心臓を失い死にました」
「ふーん」
「ちょ!! なんですか! その他人事のような反応は!」
正直あまり信じられない。ゆーくんが死ぬなんて。
「あっ! 信じてませんね! 信じてないでしょ!」
「うん、これっぽっちも信じてない。あなたがルーナとかいう女である事もあまり信じてない」
「もう! これを見てください!」
しゃりん、とルーナが持っていた杖で軽く地面を叩く。すると白い地面が円形状に何かを映し出す。
「なにこれ?」
「今のあなたと勇者の状態です。覚えてないのですか?」
「全く。これっぽっちも」
「はぁ……本当にこの人は……」
「一から説明してくれないとわからないわ」
「っ…………。わかりました。わかりましたよ、もう!!」
何を怒っているのかわからないがプンスカと怒りながらルーナが説明しだす。
「あなたは勇者の合図を無視し最強魔王に飛び込んで魔法を打ったのです。ですがあなたの魔法を無効化した最強魔王はカウンター魔法であなたの心臓を貫いたのです。そして心臓を取り換えていたためあなたは死なず勇者が死んだのです」
「ふーん、つまり……私ゆーくんに怒られる!!」
「怒られるどころか死んだんですよ! 勇者は!!」
「やったー!! じゃあ怒られずに済むんだ。ひゃっほい!!」
「な……なにを喜んでいるんですか! このままだと勇者の死が確定するんですよ!」
「へ? もう確定したんじゃないの?」
「っ…………あなたには勇者への恋慕とはいいませんがある程度の親しみとかないのですか?」
「ん~、確かに悲しい事ではありますが、死んだので仕方ないと思います」
「なんでそんなにかしこまった上に他人行儀なんですか? 本当にあなたと勇者は四百年一緒に生活してたんですか?」
「してたわよ! 失礼な!」
「はぁ……ならもう少しなんらかの感情が湧き上がってくるでしょう?」
「これっぽっちも」
「…………本当にあなたという魔王は……」
「これでゆーくんのお金も私のものになっていっぱいお酒飲めるわね!! うひひ」
「さいっっっていな魔王ですね」
「なんだと!! この野郎!」
私はルーナに掴みかかる。
「今はこんなことしている余裕はないんですよ!!」
首元をつかみ上げ宙に浮かせたルーナが叫ぶ。
「どういうことよ」
ルーナをブラブラと前後に動かしながら仕方なく聞く。ああ……早く帰ってお酒が飲みたい!!
「勇者を救うんです!」
「はぁ? あんた何言ってんの? ゆーくんは死んだんでしょ?」
「ですから……私が時を戻してゆーくんを救うんです!」
「何言ってんの? この小娘風情が!」
「こ!! 小娘じゃありません! 私は女神です!」
「なら私は神様だって言ってるじゃない!」
「本当なんです! この服装は女神の時の服装で今は本当に女神なんです!」
「証拠が服だけ! なにそれ!」
「とにかく下ろしてください!」
私は仕方なくルーナを下ろす。
ルーナは首元をただし私をじっと見る。喧嘩売ってんの?
「私の本当の名はルナ。月の女神です」
「私は神様。まーちゃんです」
「もう!! 信じてください! 私がゆーくん誕生の際に勇者と認め、聖剣を与えたんです!」
「つまり私を殺せってゆーくんに入れ知恵した張本人じゃないの!」
私は再びルーナの首元を掴み宙に浮かせる。
「ちょ、待ってください! 今はそんな事どうでもいいですから!」
「よくないわよ!! この女神もどきめ!」
「今はこんなことしてる場合じゃないんですってば! 話を聞いてください!」
「あんたの話なんて聞くに堪えないわ!」
「後で高級酒を一本差し上げますから!」
私はピクリと動きが止まる。
「……三本」
「っ……わかりました。三本差し上げますから話を聞いてください!」
私は仕方なくルーナを離す。
「それで? 話ってなによ?」
「これから勇者を救います」
「それは聞いた」
「この神から預かった神器「リターン・オブ・タイム」を使い時を五分巻き戻します」
そんな事を言ってルーナがポケットから砂時計のようなものを取り出し私に見せてくる。
「せめて一日前とかに戻しなさいよ」
「そんなに戻せるわけないでしょ! それができるのは時間の神クロノス様くらいです」
「ならその神様呼んできなさいよ」
「か、神様をそんなぽんぽん呼べる隣人みたいな扱いはやめてください! 神聖な存在なんですよ!」
「しらないわよ。そんなの。それで? 五分巻き戻してどうするの?」
「ふぅ……五分時間を巻き戻してその後は勇者の合図通りに行動してください」
「合図?」
「……もしかしてわからなかったんですか?」
合図……合図、合図……そんな名前の酒ならあったようななかったような?
「もう! 勇者が胸に剣を掲げたらあなたが連携して遠距離で対象の注意を引くって昔に決めたでしょう?」
「ああ……そういえばそんな事したっけ……わすれてたわ。テヘペロ」
「…………あなたは本当にすぐ忘れますね」
「ゆーくんや私より強い存在なんて今までいなかったんだもん。覚えていても仕方ないでしょ」
「覚えておいてくださいよ……」
「それで? 注意を引くだけでいいの?」
「ええ、その後は勇者の指示に従ってください」
「それよりあんたが女神っていうんなら私達にだけ戦わせてないであんたも戦いなさいよ」
「下界では私は力を制限されているんです」
「使えないわね!!」
「仕方ないでしょ! それより戻しますよ! 準備はいいですか?」
「成功報酬は?」
「は?」
「成功報酬よ。高級酒三本追加の合計六本でいいわ」
「っ……あなたの無策で勇者は死んだのですよ? それなのに報酬を要求するのですか?」
「当たり前でしょ? それで? 返事は?」
「わかりました!! わかりましたよ! もう!! それじゃいきますよ!」
ひゃっほい! 高級酒六本獲得ぅ!
そんな事を私が思っているとルーナが砂時計を逆さまにする。
その瞬間砂時計が光り輝きその眩しさに私は目を閉じる。
目を開けると元居た戦場に私は戻されていた。
「いいよ! いいよ、あんた!! この世の中で面白い事言うじゃない! 乗ったわ、その世界征服!」
「交渉成立だな」
ブラックドラゴンの女が最強魔王へと歩み寄る。確かこの後何が起こるんだっけ?
「まーちゃん!!」
私はビクッと体を震わす。ゆーくんをみると胸元に聖剣をかざしている。おおぅと小さく声を上げ私は最強魔王から距離をとる。
確かあの合図は遠距離で魔法打っておけばゆーくんに叱られない……だっけ?
私は恐る恐る魔法を放つ。
「<サンダー>」
「はぁ……それはもう見た。<カウンターアース>」
私の魔法は最強魔王の頭上でパチリと音を立てて球体のような膜の周りに四散し駆け巡ると同時に最強魔王の足元から私にめがけて土が突っ込んでくる。
そう!! 確かこれで心臓を貫かれたはず!!
すぐさま私はつっこんでくる土を避ける。
「ほぉ」
最強魔王が顎に手を当てる。
それを見ていたゆーくんの口元がニヤリと笑みを浮かべる。どうやら正解だったようだ!
もっと魔法を打たなくちゃ!




