休日―2
サイレンが街中に鳴り響き、その音により俺の快眠が阻害された。
「くそ、またかよ。この国は一ヵ月に何回この音を鳴り響かせれば気が済むんだ?」
「んーうるさいですねぇ、なんですか? この音は……」
俺の横に寝かせておいた女神も起きる。
「うう、頭が痛い……」
「それは二日酔いだ」
そんな会話をしていると扉がノックもされずに大きな音を立てて開かれる。
「主よ! なんだ! この騒がしい音は! なにかのモンスターの鳴き声か!」
入ってきたのは俺専属メイドのリンだった。
「あ、主よ……なかなかやるな、女と寝ているだなんて……」
「なんの事だ?」
「ほほぉ、この期に及んで「なんの事だ」ときたもんだ、この状況はどうみても事後であろう? ちょっとこの屋敷内の全員に言いふらしてくる!」
そう言い終えるとさっさと出て行くリン、せめて扉くらい――事後? 一体なんの事だ?
俺は横で寝ていた女神を見る、そして理解する。
女神は何故か服を脱ぎ上半身裸で下半身は布団で隠れている、そして俺もいつもの癖でパンツ一丁なこの状態……これはまずい!
俺はすぐさまベッドから下りて服を着ながら叫ぶ。
「リン! リーン! これは違うんだ! 帰ってこーい!」
「なにを騒いでるのですか? 勇者よ」
「お前もいつまでもくつろいでんじゃねぇよ! さっさと服着ろ!」
「ふぇ?」
「だーかーらー服を着ろって言ってんだ!」
「服? …………なんで私裸なの!」
「酔ってたし無意識に暑くて脱いだんじゃないのか?」
「勇者がやったなんて事は……」
「ないない……いいから早く着ろ」
「は、はい」
「「「「ゆーくん」」」」
空いている扉にまーちゃん、フェリスそしてリスティにシロ、その後ろには小悪魔の様な笑顔を覗かせているリンがいた。
「これは…………違うんだ!」
必死の抵抗空しく誰も俺の言葉を信じてはくれなかった。
朝食はとても居心地が悪く始まる。
誰も俺と話そうとしないどころか目も合わせようとしない。
「あーなんだ、この横にいるピンク髪の女は俺の旧友で名前は……なんだっけ?」
「名前を知らない女と寝るなんてさすがゆーくんね! 汚らわしい!」
「まーちゃんは黙ってて」
「なんですって!」
「ゆーくん、見損なったのん」
フェリスの俺を見る目が今までと違い侮蔑の目でとてつもない眼光を放っていた。
「違うんだよ……フェリス、信じてくれ!」
「言い訳はいいのん」
ガツンとフォークを持った手を机に押し付ける。
やばい本気でフェリスが怖い。
俺は横にいる女神の耳に口を近づけ小声で、
「お、おい……お前、名前なんなんだよ? それとも女神ってばらしてもいいのか?」
「それは困ります。名前はルーナです、それで紹介してください」
ゴホンと咳ばらいをし俺は正面に向き直る。
「こちらはルーナ、俺の旧友だ」
「どこで知り合ったの? 言ってみなさいな」
まーちゃんの鋭い突っ込みが今は痛い。
ここで前の世界で魔王であるまーちゃんを倒せと聖剣を与えてくれた女神でーす、なんて言える訳もなく……。
「この前、本屋で……」
「うそなのん! そんな女一度たりとも見た事がないのん!」
「う……違った。ハハッ、俺ももう年かな……」
「まだまだ主は若かろうに」
「こいつら好き放題言いやがって……」
「なんですか? なにか聞こえましたが? ゆーくん?」
リスティの軽蔑するような目も心に突き刺さる。
「ぐぅ……そ、そうだ! こいつとはこの前商店街で会ってな! 意気投合したんだよ」
「ナンパしたの? それで? 何発ヤったの?」
「ヤってねぇし! つうかなんで事後前提なんだよ?」
「そりゃあんな状況……そのルーナって女が裸でゆーくんがパンツ一丁の状態をみれば誰でもそうおもうでしょ? ねぇ? リスティ」
「え、ええ……残念ながら」
「それが誤解なんだって、ルーナが酔い潰れたんで仕方なく連れて帰って寝かせてただけだ」
「それで襲ったと! 泥酔している女を襲ったと! さすがゆーくん! 穀潰し中の穀潰し!」
「まーちゃん本っ当に黙れ!」
「ゆーくん……そんな人だなんて思いませんでした……」
「ゆーくん最低なのん」
「まぁ力ある者、子孫繁栄はごく自然だと思うがいささかやり口が……」
シロにまで軽蔑の眼差しを向けられそろそろどうしようもなくなってきた。
「おい、ルーナもなにか言ってくれよ」
「ふふっ、みなさんゆーくんの事が好きなんですね、そんなに焼きもちを焼くなんて」
「「「「なっ」」」」
「おい! なに言ってんだ!」
「でも残念ながらなにもありませんでしたよ、これは本当です」
「ほら! なっ? なっ? 当事者がなにもないって言ってるだろ?」
それでも全員が白い目で俺を見てくる。
「どうすりゃ信じてもらえるんだよ!」
「本当になにもなかったんですけどねぇ……」
はぁとため息をつきリスティが、
「今回だけは信じます」
その言葉と共にみんなの白い目が緩和されていく。
「まぁ寝込みを襲う度胸なんてゆーくんにはないだろうしね」
「人をヘタレみたいに言うのはやめろよ」
「なら襲ったの?」
「…………襲ってません」
「ゆーくん、次は許さないん」
「力ある者なら正面から抱くのが道理だと思うんだがのぉ」
そしてこの原因を作った俺専属のメイドは小悪魔の笑みを浮かべて美味しそうにコカ肉を食べていた。
「そ、それよりさっきから鳴っている緊急時のこのサイレンの音はなんなんだ?」
「そうでした! 忘れる所でした」
「忘れるなよ、今もうるさく鳴っているだろう」
「緊急のサイレンの音よりゆーくんの方に気がいってました」
「それで? このサイレンの音は一体なにを意味しているんだ?」
「戦争です」
「なに?」
「戦争が始まるんです」
「ほぉ……」
俺の横にいるルーナが俺にだけ聞こえる声で、
「戦争の時に恐らく敵国に五人組のパーティがいます。その五人の内三人は神器持ちだと思います」
「なんだと?」
「一応これでも調べてはいるんですよ。色々と……ね」
神器の事より俺は五人組という単語に興味が惹かれる。
「おい、シロ」
「なんじゃ?」
「お前を襲った五人組の中に業物の装備をもった奴がいなかったか?」
「ううむ……確かに装備はかなりよかったがなんでじゃ?」
「どうやら敵国に五人組パーティがいるらしい、そしてその内三人は業物の装備をしているとのことだ」
「なんじゃと!」
バンとテーブルを叩き立ち上がるシロ。
「わしも参加するぞ! その戦争!」
「お、おう。シロはどうする?」
「私か? 私はメイドだからなぁ……」
「主人が戦争に行くのにメイドは来ないのか?」
「言われれば確かに……あまり興味はないが観戦くらいはしてやるか」
「あとは俺とまーちゃん、フェリスだな」
「わ、私もいますよ!」
「ああ、でも別のパーティでよくないか?」
「え? 一緒に戦ってくれるのでは?」
「なんで?」
俺は首を傾げる。
当たり前だ、パーティは基本そんなに大所帯にならない程にするべきだ。
相手も五人組パーティらしいし多すぎると統率がつけられないからだ。
「もしかしてリスティ……パーティの人数は多ければ多い程いいと思ってないか?」
「はい」
そんな純粋無垢に首を縦に振るなよ。
「ええとだな……どう言えばいいのか、パーティにも適正人数というのがあってだな」
「適正……人数ですか?」
「ああ、そんなに大勢で行っても統率が取れずバラバラになるんだよ」
「そ、そうなんですか? ですが軍隊では統率が取れてますよ?」
「あれは訓練してるからだ。軍隊とパーティを一緒にするな」
「そうなのですか?」
「ああ、パーティはクエストをこなし同じ飯を食い連携を深めていくものだ」
「それなら大丈夫ですね!」
「なにが?」
「ゆーくんと私はもう幾度とクエストをこなしましt! 連携も抜群のはずです!」
「いや……まだ数回だけなんだけど?」
「量より質です!」
俺はその言葉にため息しかでなかった。
「それでなのですが……」
「なんだ? まだなにかあるのか?」
「戦争には「王の剣」として参加して頂きたいのです」
「なんで?」
「その方が兵士や冒険者の士気が高まるというものです」
「でも報酬の盾を俺がもらえないじゃん」
「それは「王の剣」に頂いたと言えばいいのではないですか?」
「ふむ……それで他の冒険者に通じるか?」
「大丈夫です! 私がサポートしますよ」
あまり信用できないなぁ……リスティの事だからうっかりを発動させて「王の剣」が俺だとばらすんじゃないだろうか?
まぁその時はその時だな。
「よし、冒険者組合にでも顔を出すか!」
「賛成です」
こうして俺達一行は冒険者組合へと向かう。




