休日
日が昇り、街の傍にある丘の上で俺はコカサンドを食べていた。
子供がはしゃぎながら小さなスライムを取り囲み、木の棒で殺すという平和な日常の風景を眺めながらリンゴ酒を口へと運ぶ。
「あの、それで……」
「何度も言ってるだろう? 一個につき一千金貨だと」
「それはいくらなんでも高すぎます!」
「聖剣みたいに神の籠を受けた装備なんだろ? 妥当……いや、安いと思うが?」
「そんなお金ありませんよ!」
「ならこの商談はなしだ」
「くっ!」
「それに一千金貨くらいポンと出せるもんじゃないのか? 女神なら……」
そう、俺は今聖剣を与えてくれた女神と二人でピクニックがてらこの世界の事情について真剣に話し合っていた。
「この貧乏女神」
「それを言いますか! 女神は世界にあまり干渉できないんですよ!」
「もうお前盗賊になって盗んで来いよ」
「それはもうすでに別の女神がやっています」
「やってるのかよ! 女神が盗み……最低だな!」
「あなたに言われたくありません!」
横にいるピンクの髪をたれ下げ、軽装で短パンの下にスパッツをはいていると思われるプリースト、彼女こそ俺を勇者と認定し魔王……まーちゃんと戦う様に焚きつけた張本人である。
なぜこのような状況になったのか? 簡単な話だ。
「勇……勇……者よ……目覚めなさい……勇者よ! 目覚めなさい!」
俺は微かに聞き覚えのある声に目を少しだけ開ける。
そこには横になった俺に跨るピンク色の髪の女性がいた。
「……誰だお前」
「おはようございます勇者よ」
「助けてくれー! 知らない女が夜這いに来たー!」
「ちょ、ちょっと! 待ってください! 私です、私」
「あ?」
「…………まさか覚えてないんですか?」
「さっぱり」
「はぁ……この勇者は……聖剣を与えたでしょう」
俺はおおと手をポンと叩き思い出す。
「だが、その恰好はなんだ? もっと女神らしい羽衣とかもあったのに今は冒険者風だが?」
「この格好は下界に来た時用です」
「ふむふむ……それで? なにか用か?」
「その事なんですが、ピクニックでもしながら話を聞いてもらえませんか?」
「聖剣を返せとかぬかすんじゃないだろうな?」
「それはないので安心してください」
「ふむ」
仕方なくベッドから腰を下ろし服を着る。
その間も女神はベッドの上でちょこんと座っていた。
「ここでは話せないのか?」
「事情が事情ですので……少し街から離れて話します」
「仕方ないな」
俺は下に行きメイドに二人分のコカサンドとリンゴ酒を用意させる。
用意させた食料を受け取りまーちゃんやリスティ達の事について尋ねるとまーちゃんはまだ寝ていてフェリスとシロはリンに錬金術の講義を受けているらしい。
シロも錬金術に興味あったんじゃん。
リスティについてはクリスが来て何所かに連れて行ったとかなんとか……。
それを聞いた俺は出かける事を言い屋敷を後にする。
街の外に出て適当な丘にでも出かけることにした。
あまりにも遠すぎると帰るのが面倒なのでコカ牧場の近くでいいかとコカ牧場近くの丘へと向かう。
「そら着いたぞ? ここならいいだろ?」
「確かに……ここなら聞かれる心配もありませんね」
「それで? 何の用なんだ?」
「ええ、その事なんですが……」
女神が腰を下ろすと同時に俺も座り込む。
どうも嫌な予感しかしない。
「この世界には慣れましたか?」
「まぁな……」
「いい世界でしょう?」
「前の世界よりは……」
「そこでお願いがあるのです」
「お断りします」
「ちょ、まだなにも言ってませんよ!」
「どうせお使いクエストだろ? 顔見りゃわかるよ!」
「それは……そうなのですが……」
「はぁ……やっぱりか」
「ですが、これは世界に関わる事ですので!」
「言ってみ」
「はい」
どう話を切り出せばいいのか迷っているのか、しばしの沈黙が流れる。
そして女神が口を開く。
「神器についてどう思います?」
「すげーな、くらい」
「そ、それだけですか?」
「それ以外になにかあるのか?」
「例えばいくらモンスターを倒しても血糊がつかないとか、他にも錆びないとか斬れ味が落ちないとかあるでしょう?」
「ああ、そんな事か……」
「そ……そんな事……」
「それよりも魔王……まーちゃんを倒そうとした時全然役に立たなかったよ、こんな微妙な聖剣よりもっと派手で強い聖剣がよかったな」
「その聖剣は神器の中でも相当強い部類ですよ!」
「なら神器も大した事ないんだな」
「むぐぅ……」
正直言ってこの聖剣だけでは冒険はできない。
他にも盾や防具等装備をある程度揃えていてもまーちゃんと互角だったのだ。
そう考えるとまーちゃんの強さは並大抵ではない。
「神話級」魔王と言われても仕方がない程強いのだ。
それに比べて俺はどうだ? 聖剣あってこその「神話級」勇者ではないのだろうか?
「それで? その神器がどうかしたのか?」
「そ、そうなんですよ! この世界にはいくつもの神器が送られてしまったのです」
「なんで?」
「最強の魔王を討伐するためです」
「どういうこった?」
「この前、最強の魔王が世界に対して宣戦布告したのを覚えていますか?」
「ああ、あれは愉快だったな」
「ただの魔王であれば笑い話になったでしょう……ですがあの魔王は名乗った通り最強の魔王なのですよ」
なにをもって「最強」なのかを聞きたいが今はやめておこう。
「それで?」
「はい、しばらく前から……そうですね……最強の魔王誕生の数年前から神々が危機感をお持ちになられまして最強の魔王が誕生するこの世界に神器を大量に送り込んだのです」
「あれか? 俺にしたみたいにいきなり現れて「この聖剣を使って魔王を討ち果たすのです」とかいうのを一人二人じゃなく大勢にやったと?」
「は、はい! その通りです!」
「なんてはた迷惑な……」
「それで……神器の力を引き出せるのはこちらでいう「神話級」勇者や魔王のみですが、なにを考えたのか他の女神や天使は「伝説級」にまで持たせてしまって……」
「それなら害はなくていいんじゃないのか?」
「それが……神器の暴走や悪人に渡ったりして今大変な事になっているのです」
「話が嫌な方向に行ってるな」
「それに一番大変なのが最強の魔王が「神話級」の魔王であり、最強の魔王の元に神器が渡ってしまう事が一番危険と判断されまして……」
「その可能性が一番高いだろ……なんで「伝説級」程度に渡したんだよ」
「神器を一応は扱えますからね……ですが真価を発揮できないので無理に真価を発揮しようとして暴走……という事になり最悪の場合使い手が死んでしまうという事態が今発生してまして……」
「迷惑な装備だな」
「神々の予測では神器を持たせた「伝説級」冒険者達に最強の魔王を討伐してもらい平和な世界の永続を望んだのですがそうはいかず……私利私欲のために神器を使う輩まで出る始末です」
「最悪の状況じゃん」
「そうなんですよ! そこでですね、お願いがありまして」
「ことわーる!」
「まだなにも言ってませんよ!」
「聞きたくない! 聞きたくない!」
俺は咄嗟に耳を両手で塞ぐ。
俺の腕を両手で持ち耳から手を離そうとする女神、俺はそれに必死に抵抗する。
数十分程過ぎただろうか? そろそろ俺も疲れてきて耳から手を離しリンゴ酒を口に含む。
「大体の事情は分かった、つまりこうだな? 馬鹿な神様連中は最強の魔王を恐れて「伝説級」の勇者や魔王に神器を与えて討伐させようとしたと。だが、思う様にはいかず最強の魔王はやりたい放題、神器を持った連中は私利私欲の為に神器を振るっていると?」
「簡単に言えば……で、でも最強の魔王を討伐しようとしている「伝説級」冒険者も少なからずいる訳でして……」
「ふむ」
「そこで私利私欲の為に神器を使っている輩や扱いきれてない方の神器を回収してほしいのです」
「回収?」
「ええ、少し強引な手も使っても構いません、回収してほしいのです」
「ちょっと待て、それはお前達女神の仕事だろう?」
「それが……返してくれなくて……」
「そりゃそうだろうな、俺でも返さないわ」
しゅんとした顔をする女神は少し愛らしかった。
仕方なくコカサンドを渡しそれを口に含むとすぐに顔色が悲しみから喜びに変わる。
さすが魔法のコカサンド、人の心を裕福にしてくれる。
ああ、こいつは女神だったな……。
「回収といっても話し合っても返してはくれんだろう?」
「ええ、ですから強引な手を使っても構わないと言っているのです」
「結構無茶言うな」
「ですがもうこの方法しか……ちなみにダンジョン等にもあるのでそれも取ってきてもらえると助かります」
「なぜダンジョン?」
「どうやら真価を発揮できずなまくら認定されて捨てられたと思われます」
「ふむぅ……誰が持ってるとかわかるのか?」
「いえ……管轄違いでそこはわからないんですよ」
「手当たり次第に業物を持って来いと?」
「その通りです! さすが私が勇者と見込んだ人間ですね! 理解力も素晴らしいですが応用力も素晴らしい」
「そんな誉め言葉はいらん、報酬はいくらだ?」
「へ?」
なに間抜けな顔をしてるんだ? この女神は……。
「報酬だよ、ほ・う・しゅ・う」
「あの、これは神々に対しての責務……」
「いやいや報酬次第でしょ」
「そんな……」
「一個一千金貨ってところでどうだ?」
「た、高すぎです! あまりに高い!」
俺は女神から視線を外しコカサンドを食べながら空を仰ぐ。
青くだだっ広い空の向こうにはなにを考えているのかいまいちわからない神々がいるのだろうか?
そんな事を考えていると、
「あの、それで……」
「何度も言ってるだろう? 一個につき一千金貨だと」
「それはいくらなんでも高すぎます!」
「聖剣みたいに神の籠を受けた装備なんだろ? 妥当……いや、安いと思うが?」
「そんなお金ありませんよ!」
「ならこの商談はなしだ」
「くっ!」
「それに一千金貨くらいポンと出せるもんじゃないのか? 女神なら……」
俺ははぁとため息をつきながら、コカサンドをもう一口と含みつつそれをリンゴ酒で流し込む。
「この貧乏女神」
「それを言いますか! 女神は世界にあまり干渉できないんですよ!」
「もうお前盗賊になって盗んで来いよ」
「それはもうすでに別の女神がやっています」
「やってるのかよ! 女神が盗み……最低だな!」
「あなたに言われたくありません!」
この女神は本当にどうしようもない。
自分で言うのもなんだが、むしろ俺を勇者に選んだ時点でこいつはダメな女神だと思う。
「金も出せない、でも神器は取って来いってか?」
「はい!」
「なにか他に報酬は無いのか? さすがに無償でやれといわれてもな……」
「ではこういうのはどうでしょうか? もし発見された神器が勇者に装備できるのであればそれを保持して最強の魔王を打ち滅ぼすと……」
「ほぉ、自分の物にしてもいいのか」
「はい、ですが不要な神器はこちらで回収させて頂きます」
「剣なら何個あってもいいしな」
「できれば二、三本だけでお願いします、それ以上はさすがに……」
「わかってるって。ついでに聞くが仲間に持たせる分も報酬として貰っていいか?」
「…………仕方ありませんね、最強の魔王は相当強いらしいので……」
「仕方ない、それで手を打つよ」
「ありがとうございます、さすがは私が見込んだ勇者です! この世界に誕生した最強の魔王も打ち滅ぼせることでしょう」
女神が胸を張り天を仰ぐ。
「そんな自信満々に言われてもな……」
リンゴ酒を渡すと「なにこれ」といいつつ飲み、その旨さに顔がとろける女神、そして――
「ちょっと聞いれくらさいよー」
「お、おい」
女神が俺に抱きつき肩に手を回しつつ拘束してくる。
「天界っつっれもれすねぇ色々ありまひて」
「こいつ……一口のリンゴ酒で酔ったのか?」
手に持ったリンゴ酒をさらに一口、二口……そして一気に飲み干し、
「もう神々の命令なんれ知った事かぁー! わだしらってがんらってるんらー」
悪酔いした女神の愚痴を夕陽が傾くまで聞かされ続けた。
そして愚痴を吐き終えた女神は眠りにつく。
「どうすんだ……これ」
俺は立ち上がり「ふぅ」とため息をつき酔って眠りについた女神を見下ろす。
「連れて帰るか」
仕方なく女神を背中に乗せ家へと帰路につく。




