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世界のために戦った勇者と魔王は転移した世界ではのんびりと暮らしたい!  作者: 月影之命
第六章 ゴブリン、神獣、そして……魔人の子?
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魔人の子-2

「これじゃないわ」


 酒が売っている店で試飲をするまーちゃん。


「これでもないわ」


 今なにをやっているか? もちろんサラマンダーサンドに合うお酒をまーちゃんに選んでもらっているのだ。


「これは……中々、でも違う」


 サラマンダーサンドを一つ与えそれに合う酒を見繕ってもらう。

 酒に関してはまーちゃんは誰よりも真剣で心強い。


「これは……候補の一つね」

「見つかりそうか?」

「見つかるかどうか? ふふっ、見つけるのよ!」


 そう言いながら小さい試飲用機に入れられた酒をクイと飲み干す。


「これでもないわね」


 「ううむ」と唸るように声を喉から出すまーちゃんを見つつ俺も試飲する。

 美味い! これは……ハチミツ酒か、覚えておこう。

 そう言いながら小さな瓶のハチミツ酒を購入しバッグに入れておく。


「どうだ? まーちゃん、いいのは見つかったか?」

「そうね、第一候補はこのパイン酒ね」

「ほぉ、その訳は?」

「パインの甘みと酸味がサラマンダーサンドのピリっと、そして香ばしく甘い味を包み込むのが理由かしら? あと後味ね。サラマンダーサンドの甘みと苦みを残しつつパインの甘い匂いが鼻腔に残るのが最大の理由よ」

「それじゃそれを人数分買うか」

「ふふん、お昼には私の目利きが正しかった事に頭をひれ伏すがいいわ!」

「はいはい」


 俺は人数分のパイン酒とパインジュースを買いバッグへと入れる。

 もう食料と飲み物だけでも俺のバッグは一杯だ。

 そろそろ遠出の事も考え背負い鞄でも買うべきだろうか?

 そんな事を思いつつそろそろ遺跡へと歩を進める事にしようと提案する。

 みんなの了承を得て俺達は神獣の森へと向かう。




 神獣の森へ近づき、オークの巣が見えてくる。

 そこにはゴブリン達が引越しをしている真っ最中だった。

 俺達が近づくと一匹のゴブリンがこちらに気付き手を振ってくる。

 そして俺達に駆け寄ってくる。


「どうしたんですかい? 今日も俺になにか用でも?」


 そう、駆け寄ってきたのは昨日知り合ったゴブリンのグーラーだ。


「いや、グーラーに用はないんだ。神獣の森の中にある遺跡を探索するんだ」

「遺跡……ですかい?」

「ああ、なにか問題でも?」

「いえね、村の言い伝えではその遺跡の中には強大ななにかが眠っているって事になってるんですよ」

「強大ななにか?」

「ええ、詳しくはわからないんですがその言い伝えによると近寄るものはその強大ななにかを守護する神獣に食われるであろうって言われてて……」

「だ……そうだが?」


 俺はシロの方に向き直る。


「む? わしゃ知らんぞ。遺跡の中になんて入ろうとも思わんしな」

「ふむ」

「とにかく気をつけてくださいよ? せっかく知り合ったのに今日で永遠のお別れなんて事にならないようにしてくだせぇ」

「ああ、すまないな。それより引っ越しは順調か?」

「ええ、みんな渋々ですけど村の再建ができると聞いて目を輝かせていましたよ」

「そうか、そりゃよかった」

「それでは俺はこれで」

「ああ、ありがとな」

「いえいえ、そちらもお気をつけて」


 グーラーが元いた場所へと戻っていく。

 俺達もゴブリンの群れを通り過ぎ遺跡へと向かう。

 神獣の森へ入ると木々は倒れそこかしこが焼け野原になっていた。


「こいつはひどい有様だな」

「むぅ……忌々しい人間共め……」


 シロを見やると苦汁をなめさせられたような顔をしていた。


「五人組の事は今後考えるとして……まずは遺跡前まで行って少し早い昼飯にするか」

「賛成です」

「「賛成! 酒ぇ」」

「賛成なのん」


 全員の同意を見て遺跡を探す。

 大体の位置は受付嬢が地図に印をつけてくれたが、正確な位置までは行ってみないとわからないからだ。

 焼け野原を探すが遺跡らしい入り口は見つからない。

 仕方なく焼け野原を抜け湖らしい場所に出る。

 すると湖の中央に古い建物が遠目でも見える。

 それはまるで城のような外観でとても美しい。

 そこに通じるように一直線に陸地が伸びていた。


「あそこか?」

「綺麗な場所ですね。こんな所があるなんて……」

「綺麗なのん」

「こんな目立つ場所にあるなんて他の冒険者がもう宝取っていってるんじゃない?」

「確かにな……保険をかけておいて正解か?」


 俺達はその湖の中央にある城らしき所へと歩を進める。

 近づくにつれ遺跡が神々しく見えてくる。

 遺跡の前に立つとその歴史的建造物につい唾を飲みこんでしまう。


「入る……か……いや、まずは食事だな、うん」

「そ、そうですね、湖畔でとる食事はおいしいですもんね」

「はやく出しなさいよ! サラマンダーサンド」

「休憩なのん」


 俺は湖畔にしゃがみ込みバッグから人数分の食事とパイン酒とパインジュースを取り出し渡していく。

 まーちゃんとシロはグビリと歩いた疲れを取るようにパイン酒を飲む。

 それを見つつサラマンダーサンドを一口、二口と口の中に入れる。

 柔らかいさっぱりとした肉に香辛料が良くきいていてとても美味い。

 すかさずパイン酒を口に含む。

 そして――


「ぷぁ……美味い! さすがはまーちゃん」

「でしょ!」


 まーちゃんの酒に関しての目利きは確かに素晴らしい。

 ここまでサラマンダーサンドに合う酒は中々ないだろう。

 飲んだ後の鼻腔に残るかすかなパインの匂いも素晴らしい。


「どう? どう? 見直した?」

「ああ、さすがはまーちゃんだ。酒に関しては凄いな」

「もっと褒めて! もっと褒めて!」

「さすがです! さすがはまーちゃん!」

「ああ、さすがはまーちゃん。凄い凄い」

「ひゃっはー! もっとよ! もっと褒めなさい!」


 興奮したまーちゃんが立ち上がり腰に手を当て満足顔で天を仰ぐ。


「そろそろいいよ、座って食べろよ」

「なんでよ! もっと褒めてよ! がんばったんだから!」

「はいはい、凄い凄い」

「なんで棒読みなのよ! ねぇ! ねぇ!」

「凄いよー凄いよー」

「ねぇ! 棒読みはやめてよ! ちゃんと褒めてよ!」


 そんな会話をしつつゆっくりと俺達は昼食を食べた。

 そして少し休憩する事にする。

 まーちゃんとシロが食べ過ぎて腹を膨らまし横たわっているからだ。

 ついでに荷物の確認もしておく。

 俺は鞄の中をあさりながら必要そうな物を取り出していく。


「ゆーくんはなにをしているんですか?」

「ん? 松明とかを取り出しているんだよ」

「へぇ……凄いですね」

「そういえば今日もクリスは私用か?」

「はい……最近戦争の事で忙しいらしくて」

「へぇ、クリスも参加するのか?」

「ええ、私も参加しますよ?」

「王女のお前が? 冗談だろ?」

「本気ですよ。前線で他の冒険者を鼓舞します!」

「他の冒険者の足を引っ張る……の間違いだろ?」

「そんな事はありません!」

「まぁ期待してるよ」

「任せてください」

「よし、これで装備は整ったかな」

「そろそろ行きますか?」

「ああ、そこに横たわっている二人を起こしてきてくれ」

「はい!」


 リスティの意気込みだけはよし! しかしながら起こせるかどうか……ああなったまーちゃんはまず起こせないだろうな……。


「起きてください! 遺跡内部に行きますよ!」

「ふぇー、もちっと寝かせてぇ」

「ふん、やっぱりな。当分起きないだろうな」

「ゆーくんも手伝ってください」

「俺、先行ってるからよろしく」

「そ、そんなぁ」


 まーちゃんは当分起きない。

 シロもまーちゃんと同じ性分なので起きないだろう。

 俺は腰をあげ遺跡内部に通じる正門のような場所に近づく。


「ゆーくんうちも行くのん」

「ああ、後衛は任せるぞ、最高の魔法使い!」

「任せるのん!」


 フンと鼻息を飛ばすフェリスは実際に頼りになる魔法使いだ。

 俺は松明に小さな<火球(ファイヤーボール)>をかけてもらい点火する。

 城を四角く囲っている城壁の正門を抜け城の正門前に立つ。


「でかいな」

「でかいのん」


 城の正面に立ち城の屋根を見上げるがそのでかさは想像以上で屋根についている旗がヒラヒラと舞っているが正直小さすぎて紋章は見えない。

 紋章自体ついていないのかもしれないが……。

 旗は恐らく人の大きさ程ある筈なのだが遠すぎて小さく見えている。

 そして城の正門もまたでかかった。

 オーガでも軽々入れる大きさで人に換算すると体格のいい男性五人分くらいの高さがある。

 その正門を松明を持った手とは逆の手でゆっくりと開ける。

 罠が張られていていきなり矢が飛んでくる可能性も考慮しての事だ。

 ギィと古めかしい音と共に誇りが降ってくる。

 扉を開け中へと入ると窓から差し込む光で意外と明るかった。

 適当に置かれている燭台に火を灯してもいいが、罠が発動する事を恐れ火は点けないでおこう。

 ゆっくりと慎重に上の階へと進む。

 まずはゆっくりと一つの部屋に入る。

 罠の気配はない。

 適当に物色しつつ金目になりそうな物を鞄へと放り込む。

 フェリスも物色しているが実際どうなのだろうか?

 前に買った杖はかなりいい上物だった。

 値段を見て買ったのかそれとも価値を知って買ったのか……。


「フェリス、いい物あったか?」

「これとかなかなかいいのん」


 手渡されたアクセサリーは埃が被っているものの純金製のいい物だった。

 フェリスはどうやら「見る目」がありそうだ。


「じゃんじゃん探してくれ、そしてこれだ! と思うものは俺のバッグに突っ込んどいてくれ」

「わかったのん」


 まるで城に盗みに入った盗賊(ローグ)の気分だがこれが現実だ。

 所詮遺跡探索なんてこんなもんだ。

 そう思いつつ俺とフェリスは部屋を物色し終え次の部屋へと移動する。

 この後とんでもない物と遭遇するとは知らずに……。

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