魔人の子-1
「お前が僕の主人か?」
「違います」
「だが僕の眠りを妨げたのはお前であろう? 僕の力を欲し目覚めさせたのだろう?」
「事故なんです! ですのでもう一回眠ってください!」
「この魔道具は二度は使えん。お前の所で養ってもらおうか」
「まじ勘弁」
俺は今、自分の身長より長い白髪を地面に垂らしながら裸の恰好をしている幼女を前に懇願していた――
なぜこうなったか?
それは半日前に遡る――
「よう! おはようみんな、元気一杯か?」
「二日酔いよ。ちょっと静かにして……」
まーちゃんが頭を抱えて机にうなだれている。
その横には同じく頭を抱え悲壮感溢れる顔を覗かせるシロがいた。
「これは二日酔いというのか……うぅ、頭が痛い……」
「リンゴ酒を飲むといいぞ。迎え酒と言って頭痛が緩和する」
「ほ、本当か?」
「ああ、まぁ一番は水を飲む事だけどな」
「そこのメイド! リンゴ酒を一杯頼む」
「聞いてねぇな、この神獣」
褐色肌に白いワンピースの神獣――シロはメイドにリンゴ酒を要求しそれを飲み始める。
「シロはその恰好で行くのか?」
「ああ、そのつもりだが?」
「遺跡内部は埃だらけだぞ?」
「この服は鱗ゆえに汚れはせぬよ」
「そうか……それじゃ朝飯食って少し冒険者組合に行ってそこから遺跡に出かけるぞ」
「はい! とうとう私も遺跡探索という大仕事ができるようになったのですね」
元気よく返事をするリスティ、遺跡を荒らすのが大仕事とはリスティの頭の中はどうなっているんだろうか。
俺はそんな事を考えながら席に着き朝食のコカ肉を食べながらリンゴ酒で頭を活性化させる。
「ちょっとメイドさーん」
「はい、なんでしょうか?」
「ムーラは今日来てるか?」
「いえ、今日も休みです」
「まじか……」
ムーラは今日も休みか……盗賊職のスキルである<宝発見>や<宝鑑定>ついでには<罠発見>スキルが欲しい所だったのに……。
まぁ居ないのであれば仕方ない。
「フェリス、お前の魔法で罠とか解除できるか?」
「できると思うのん」
「そっか、やっぱりお前は優秀だな」
「当り前なのん」
フェリスの優秀さを再確認しつつ残った朝食をたいらげる。
そして全員が食べた頃に冒険者組合へと出かける。
冒険者組合のドアを開き受付嬢の所へと出かける。
「おはようございます、勇者様」
「ああ、おはよう」
受付に膝をつきながら受付嬢にだけ聞こえるように、
「今日遺跡に行こうと思うんだ」
「はい、がんばってくださいね」
「そこでなんだが……遺跡荒しとか言われないよな?」
「大丈夫です。手つかずの遺跡でしたので……探索クエスト出しましょうか?」
「お願いできるかな」
「その代わり発見した宝の売却額の三十パーセントを冒険者組合に提供してもらう事になりますが……」
「なんで!」
「正式なクエストになりますと報酬も発生しますので……その分回収もしないといけないわけで」
「ふむ……多ければ多い程冒険者組合に取られるのか」
「そうなりますね。ですが宝が無かった場合でも報酬は支払われますのでそこは安心してください」
「いくらくらい貰えるんだ?」
「そうですね……まだ調べられていない遺跡ですので罠やモンスターの危険性もありますから大体……五十金貨から百金貨でしょうか」
「百金貨!」
俺はまーちゃんの言葉を思い出す。
「人間は狡猾よ、きっとシロの目を盗んでもうすでに散策されてるに違いないわ」
確かに可能性はゼロではない。
誰かがシロの目をかいくぐりすでに遺跡を探索した可能性が捨てきれない。
「保険としてクエストを発行してもらおうか」
「了解しました。発行には暫く時間がかかりますので少しお待ちください」
「ああ、頼む」
俺はまーちゃん達のいる席へと向かう。
「なにを聞いていたんですか?」
リスティの質問にクエストを受けて保険をかけておいたことを説明する。
「なるほど、それは良案ですね」
「ああ、昨日のまーちゃんの言っている事もあながち的外れではないかもしれないからな」
「そうですね……ですがやはり誰も探索していないことを祈る事にします。その方がワクワクしますし!」
「そうだな、宝が手つかずの方が儲かるしな」
「儲かる儲からないではないのです! 誰も見た事のない未知がそこにある! というのが心躍らされるのです!」
「その未知より俺は金だ、金がないとなにもできんからな」
「ゆーくん、前から言おうと思っていたのですが、ちょっと金金と強欲過ぎませんか?」
「そうか? まぁ金に困ってない身分の人間から見たら下々の者なんてみんな強欲だわな。この冒険者組合に来ている冒険者全員が強欲の塊みたいなもんだ」
「そ、そこまでは言いませんが……」
困り顔のリスティを横目にリンゴ酒を頼みクエスト発行を待つ。
その間に辺りを見回しスカーレットがいないか確認するが、兄であるガストもいない。
遠征でもしているんだろうか……。
「勇者様」という言葉と共に一枚の紙を持った受付嬢がこちらに駆け寄ってくる。
「クエスト発行完了です。読んで下さい」
渡された一枚の紙に目を通す。
「遺跡探索、報酬百金貨。高いな! やる気が出てくるぜ。あとは……宝の売却額の三十パーセントを冒険者組合に寄付する事、それから遺跡内はあまり破壊しないでほしい……か、当然だな」
「これでいいでしょうか?」
「ああ、頼むよ。ちなみに使えそうな魔道具とかは持って帰っていいのか?」
「はい、後日やっぱりいらないから売ろうとか思わなければいいですよ。装備を整えるのも冒険者として当然の権利ですから」
「もし後日売ったら?」
受付嬢がニヤリと笑うが目が笑っていなかった。
最悪冒険者組合からクエストを受けれなくなるんだろうか……。
「他にご質問は?」
「いえ、今のところないです」
不敵な笑みに俺は少し敬語になってしまう。
「それではクエスト受注完了になります」
「すまないな、色々と……」
「いえ、勇者様のためですから」
受付嬢の笑顔に悪寒を抱きつつその場から動かない受付嬢に、
「他になにか?」
「いえ、勇者様は戦争に参加されないのかなと思いまして……」
「戦争か……参加するつもりだが?」
「ほ、本当ですか! これは今年は我がファルス王国が勝ちますね!」
「おい、俺を戦力として数えているのか?」
「当り前です! 「神話級」冒険者なんてそうそういないのですから!」
「俺は報酬のドワーフ製の盾が欲しいだけなんだが……」
「それじゃ尚更活躍しないといけませんね」
「戦争っていつから始まるんだ?」
「詳細な時期はまだ決まってませんが早ければ明日から冒険者組合の掲示板に張り出されます」
「急だな、おい」
「前から決まっていましたよ?」
「そうなのか……いろいろと準備やらパーティ構成を考えたかったんだが……」
「まぁ明日にならないとわかりませんけどね」
「それに……」と言いながらまーちゃんの方を見る受付嬢。
どうやらまーちゃんも戦力として考えているようだ。
おっと受付嬢の視線がフェリスにまで行っている。
子供を戦争に参加させるつもりか? まぁ参加してもらうけども……。
「それじゃ俺達は行くわ」
「あっ、はい! がんばってくださいね」
「ああ、がんばるよ」
そう言い残し冒険者組合を出る。
酒を飲んでいたまーちゃんとシロを立たせるのには骨が折れたが……。
冒険者組合を出て少し街をぶらつくことにする。
商店街に着き露店を物色し始める。
罠の可能性やモンスターが住み着いている可能性を考え色々と見て回る。
それに昼飯も問題だ。
そんな中珍しい物を見つける。
「これはなんだ?」
「らっしゃい、これはサラマンダーを細切りにしてレタスに挟んでマヨネーズとマスタードで味付けしたサンドウィッチですぜ」
「ほぉ……サラマンダーの子供か? それとも大人のか?」
「ハハッお客さん、大人のサラマンダーの肉なんて貴族くらいしか手に入りませんぜ」
「確かにな」
「それに子供には子供の美味さがあるんですよ。牛も子牛のほうが値が張るでしょ?」
「ううむ、確かにな。騙されたと思って買ってみるか。一つ……いや人数分もらおうか」
「へい、ありがとうございます」
今日はコカサンドよりこちらだな……と思いつつお供の酒を探し始める。
まーちゃんとシロも適当に買ってはその場で食ったり飲んだりしている有様だ。
「まーちゃん」
「なによ! 今忙しいのよ! なによこの市場、結構おいしい食べ物やお酒が揃ってるじゃない!」
「うむうむ! 人の街というのはすごいな! 一つの食材でも色々な調理の仕方で全く別の物ができるとは……感激じゃ! それに酒の種類も多いのぉ……元の姿に戻ってここ一帯を丸のみにしたいくらいじゃ」
「それはやめてくれ、ところでまーちゃん」
「なによ! 今忙しいって言ってるでしょ」
「サラマンダーサンドを買ったんだがこれに合う酒を見繕って欲しいんだが」
「ふふん、なに? この私にソムリエみたいな事させようっていうの?」
「まぁその通りだ」
「ふふん、仕方ないわね。私が協力するからには妥協はなしよ!」
「任せたよ」
胸を張り腰に拳をあてるまーちゃんが少し頼もしく見えた。




