魔人の子-3
「ふぅ……あらかた片付いたか……」
俺のバッグは大きく膨らみ、もう何も入らないような状態になっている。
一階、二階、それにその他の部屋と探索し、これ以上の探索は無理だと判断しフェリスを呼び戻す。
「フェリス、そろそろ帰るぞ」
「わかったのん」
俺達は下の階へと行く途中、正面玄関にまーちゃんとシロ、そして疲労困憊しきったリスティがいる事に気付く。
「よぉ、もうこっちはあらかた探索しきったぞ?」
「えええ!」
「今日は帰ろうか」
「そ、そんなぁ……」
「ちょっと待って! なにか変な臭いがするわ」
「なんだよまーちゃん、シロが屁でもこいたんだろ」
「聞き捨てならんな! わしがそんなはしたない行為をするわけがないだろう」
「それじゃリスティの汗の臭いじゃないか?」
「そ、そんな事ありません!」
プンと怒ってみせるリスティとは対照的にまーちゃんが目を瞑りクンクンと鼻を鳴らしながら下の階の壁際にまで歩いて行く。
「お前は犬か? 今度からドッグフード食わしてやろうか?」
「ここよ!」
言うと同時に鉄拳を壁へと放つ。
そして――そこに現れたのは地下への階段だった。
「…………嘘だろ」
「ふふん、臭いですぐわかったわ!」
「す、すごいです! さすがはまーちゃん!」
「もっと褒めて」
「すごい! すごいです!」
「もっとよ! もっと褒めて!」
「あーすごいすごい、でも残念な事にもうバッグが一杯なんだ」
「は? なによそれ! 聞いてないわよ!」
「言ってないしな」
「とにかく! この地下に行きましょう!」
「もうお宝あっても持てないぞ?」
「私は鞄なんて家に置いてきたわよ?」
「見りゃわかる」
「うちの鞄も一杯なのん」
「リスティ……も置いてきたのか」
「ええ……まさかそんなに一杯あるなんて……お宝は一つか二つかと……」
「手つかずの金のネックレスとかその他にも色々とあったぞ」
「それではまるで盗賊ではないですか!」
「現実はこんなもんだよ」
「冒険が! 遺跡探索が! そんな盗みに入ったような戦利品だなんて……」
俺はショックを受けるリスティを尻目に階段を降り地下に続く階段の所に行く。
一度街に荷物を置いてくるか? だが、またここまでくるのも面倒だ。
フェリスに<転移>が使えるか聞いとくべきか……。
いや、ここは――
「よし、入るか」
「さっすがゆーくん!」
「うう……もうなんでもしてください」
「持てるだけ持って帰るぞ!」
盗人猛々しく叫びをあげ松明を持ちつつ階段をゆっくり下りていく。
罠はなさそうだが、なんだか薄気味悪い。
松明とは反対の手で壁に軽くつきながら一歩、また一歩と進んでいく。
そして階段が終わり一直線に伸びる通路に出る。
「この先は湖を抜けて森に出たりしてな」
「それはないわ! 臭いがするもの!」
「なんの臭いだ?」
「忘れたわ! でもこの臭い……なんだか懐かしいわ」
「ふむぅ……引き返すべきか……いや、このまま進むか」
ゆっくりと、そして慎重に進む。
そして……少し大きな部屋へと出る。
「ちょっと待ってろ、そこに燭台がある。蝋燭を点けて燭台に差しておくよ」
「はやくしなさいよね!」
なんでそんなに上から目線で言われなければならないのか……まぁ「臭い」とやらでこの部屋を見つけた功績に免じて今はなにも言わないでおこう。
フェリスに頼み蝋燭に火を点けてもらいそれを燭台へと差していく。
いくつかあった燭台に火を灯すと部屋の全体像が浮き彫りになる。
部屋の中を見回すと、元いた世界の「えいが」の「えすえふほらー」とやらで見た「ぽっど」らしきものが一つあるだけだった。
そしてその手前には台座がありなにか書かれている。
その下には…………やはりというべきか赤く丸いボタンがついていた。
そう、これは決して押してはいけないボタンだ。
俺の脳内警報がカンカンと鳴り響いている。
「なによ! お宝ないじゃない! なにこのへんてこな容器!」
ガツガツと近づくまーちゃんに、
「まーちゃん止まれ! それに近づくな!」
「あん?」
…………すでに時遅しとはよくいったものだ。
まーちゃんの手がボタンを押している。
「ぽっど」らしき容器のドアが上に少し開き、蒸気らしき煙が噴き出す。
そしてその煙の中からドロリと水のような液体が溢れ出てくる。
「汚い!」
まーちゃんがすぐさまその水のようななにかから飛びのく。
俺は松明を既に消し鞄に納めていたため盾を構え聖剣に手を乗せ戦闘態勢に入る。
「みんな離れろ! なんかやばい感じがする!」
俺の言葉に全員が戦闘態勢になる。
そして「ぽっど」らしき容器から足が出てくる。
そして――
「ちょ、ちょっと! これ! 開かないんですけど……」
間抜けな声を出す足の主がいた。
「ねぇ! 誰かそこにいない? 出してほしいんですけど……」
俺は戦闘態勢を止め渋々「ぽっど」に近づく。
「お前はなんでこんな所に入れられてたんだ?」
「それは……色々とあって……」
「出してやってもいいが面倒事は起こすなよ?」
「わかった」
「ぽっど」の開いている部分を無理やりこじ開ける。
すると中から裸の幼女が飛び出してきた。
「ふぅ、酷い目に遭った。それで……」
自分の身長より長い白髪を地面に垂らしながら裸の恰好をしている幼女は辺りを見回し俺へと焦点を当てる。
「お前が僕の主人か?」
「違います」
「だが私の眠りを妨げたのはお前であろう? 僕の力を欲し目覚めさせたのだろう?」
「事故なんです! ですのでもう一回眠ってください!」
「この魔道具は二度は使えん。お前の所で養ってもらおうか」
「まじ勘弁」
これ以上居候を増やしたくない。
というかいきなり養えとかどんだけ厚かましいんだ? この僕っ子幼女は……。
「フェリス、ちょっとこの「ぽっど」を調べてくれないか? もう一度眠りにつかせてあげよう」
「わかったのん」
「僕はもう寝飽きた! 外に出る! ということで養ってもらおうか」
「いやいや、お前を養う金なんてないぞ」
「その袋に入っているものはどうせこの城の物だろう?」
「む……そうだが……」
「なら話は早い、この城は僕の物だ。そしてお前は僕の物を盗もうとしているわけだ」
「むぐぐ」
「盗人には罰を与えないといけないな」
「なに?」
「<氷結>!」
いきなりの攻撃に俺は反射的に盾を構え防ぐ。
「いきなりなにしやがる、てめぇ!」
「ふふっ、殺されたくなければ僕を養うのだ」
「ふっ、ふざけんじゃねぇぞ!」
俺は聖剣に手をかけ剣を引き抜こうとした時、フェリスが手で俺を招いている事に気付く。
警戒しながらフェリスの方へとに歩いて行く。
「どうしたフェリス、なにかわかったか?」
「これ見てなのん」
「ん?」
フェリスが指差した物はまーちゃんがボタンを押した台座だった。
そこには文字が彫刻されていた。
「なになに……ここに眠る子は我が子なれど少しやんちゃな気があり、獰猛危険故封印せり。もしこの子を目覚めさせたのであれば優しく接し養ってあげて欲しい…………なにこれ」
「ハハッ、父上も洒落な事をするな」
「いや、これって面倒見きれんから眠らせて起こした奴に責任全部放り投げたって事だろうが!」
「少し隣国を火の海にしたぐらいでこんな所に入れられたんだぞ? 僕の身にもなってみろ!」
「…………なんで隣国を火の海にしたんだ?」
「なんかむしゃくしゃしてつい……テヘペロ」
舌をちょろりと出し拳を頭にコツンと乗せる裸の幼女に怒りが湧くのは俺だけだろうか?
「とにかく僕を養ってもらうぞ!」
「まじかよ……」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ両手に魔力を貯め始める僕っ子幼女……こんなところででかい魔法を放たれればこの狭い部屋が崩れてしまうのは目に見えてるのに躊躇しない……まさか馬鹿なのか?
「ちょっと待て、話し合おう」
「ようやく養う気になったか?」
「とにかく勇者免許を見せろ」
「勇者免許? なんだそれは」
「なに?」
「だから……なんだそれはと言っている」
「勇者免許を知らないのか?」
「知らないな」
「お前いつからここで寝てたんだ?」
そうだ、この建物も相当古い。
こいつがいつからこの地下で寝てたのか? そこが問題だ。
「わからん」
「ふむ……」
「あ、あの……隣国というのは?」
話に割って入ったのはリスティだ。
なにかこいつが寝ている年数を調べる手立てでもあるのだろうか?
「リンドブルグの事だが?」
「リンドブルグの王様は何代目でしたか?」
「さぁな……何代目だったか……二か三あたりだったと思うが?」
「そうなりますと大体二千年前くらいかと……」
「に、二千年?」
「ええ……リンドブルグ王国はとうに没落し、今度我が国ファルス王国と戦争を行うクローゼ王国になっていますよ」
「ふむぅ」
「リンドブルグ王国の二代目、三代目国王といいますと約二千年前程かと」
「二千年も僕は眠らされていたのか! 父上め!」
待てよ? これはチャンスじゃないか? 勇者免許を持っていなければこいつを殺しても俺は冒険者組合に責められる事もない。
ここはこいつを殺して颯爽と帰るべきでは?
「おい、お前なにを考えている? まさか僕を殺そうとでも?」
「くっ、こいつ案外頭が回るな」
「そうはさせない!」
またも両手で魔力を貯め始める。
「やるしかねぇ!」
「待ってください!」
聖剣を抜きかけたその時、リスティが間に割って入る。




