魔人の子ー4
「邪魔だ! どけ、リスティ!」
「ちょっと待ってください、そして考えてください!」
「なにをだ!」
「この子は二千年も寝かされその上起きて初めて出会ったのが私達ですよ? もう少し優しくしてあげませんか?」
「そうだ! 僕に優しくしろ!」
「こいつ……」
「それにゆーくんなら養えるお金も十分あるでしょう」
「それは……」
「シロはよくてなぜこの子はだめなのですか?」
「居候がこれ以上増えても困るんだよ」
「金銭的な問題ですか?」
「ああ、その通りだ」
「それなら安心ですね」
「なにがだ?」
「冒険をこなしてお金を稼げばいいんです」
「俺は働きたくねぇんだよ!」
「メイドとして雇ってはどうでしょう?」
「お前が雇うのか?」
「いえ、ゆーくん専属のメイドですのでゆーくんが雇うのですよ」
「なんで俺が!」
「それでは殺しますか? 二千年眠らされて挙句の果てに起きた途端に殺されるのですか? この子は……」
やめろよ…………その悲壮感たっぷりの顔、卑怯だぞ! リスティ……。
「くそ、くそくそ!」
「ふふっ、やっぱりゆーくんは優しいですね」
俺が抜きかけた聖剣を鞘に納めるのを見てリスティが笑う。
俺はどこまで甘いんだ――
「わかったよ、だがな裕福な生活を望むんじゃないぞ?」
「僕は別に食費と雑費、そして多少の小遣いさえあれば文句は言わないよ!」
「シロと一緒の事言ってんじゃねぇよ」
そんな事を言いながら俺は僕っ子幼女に手を差し出す。
そして僕っ子幼女がその手を握り返す。
「お前名前はなんて言うんだ?」
「僕? 僕はリーン・ローレンス・ブロディウス。リンでいいよ」
「ブロディウス!」
名前を聞いた途端リスティが少し下がる。
「どうしたリスティ」
「ブロディウス家といえば伝説で聞いたことがあります。なんでも魔人の一族で魔人の中でも最強を謳われていたとか……初代アーガスティン家の右腕を担っていたとも聞いています。確か初代アーガスティン家当主と共に戦い討たれたと聞きましたが……」
「父上はもういないのか……」
ふと俯くリン……やはり父親がもういないのが寂しいのだろうか?
「ざまぁみろ! ハハッ、僕をこんな変な容器に入れるから罰が当たったんだ!」
――その顔はさっぱりとシャワーでも浴びた後の様に満面の笑みだった。
「お、お前、そこはせめて演技でも悲しめよ!」
「なんで?」
「――ッ」
「だって全然悲しくないもん。魔人として父上は戦い負けた。それは仕方のない事だよ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんさ、それよりも早くここから出ようよ」
俺は舌打ちしながら渋々帰る事にする。
「そういえばそのかばんに入ってる財宝は僕のだからね!」
「これは俺のだ、俺が探索して見つけたんだよ」
「でも僕の城から盗んだんでしょ? なら僕のじゃないか」
「く……仕方ねぇな、これを売って五分五分にしないか?」
「えー五割しかくれないの? おかしくない?」
「六四でどうだ? これ以上は譲歩できないぞ」
「仕方ないなぁ、その代わり今の時代の情勢やら世界の事を教えて欲しいな」
「情報代か」
「うん、それに勇者免許って言うのも気になるしね」
「また神殿にいかないといけないのか……フェリス、お前<転移>覚えてないの?」
「覚えてるのん」
「さっすがフェリス、お前に任せる」
「わかったのん」
「むしろ今すぐ街まで<転移>してほしいくらいだ。
「街中は無理なのん、検問のおじさんが不用意に<転移>したらダメっていってたのん」
「そうなのか」
「許可をちゃんととって行き先とかも教えて初めて使えるのん」
「…………その申請にお金かかる?」
「もちろんなのん」
「町の外でもいいから<転移>できないか?」
「一応はできるけどコカ牧場とかに飛んだら知らないのん」
「……確かにコカ牧場に飛んだら目撃者が必然的にできるからやめておいたほうがいいな」
「ちなみに無闇に<転移>を使うと王城への攻撃とみなされてその国の敵になるらしいのん」
「あー王様のところに<転移>して暗殺とかもあり得るもんなぁ」
「うちまだ正確な<転移>はできないのん」
「そっか……まぁのんびり帰るか」
そう言いながら来た道を戻る。
暗闇の階段の中を登っている最中、後ろから微かな光がこちらを見ている気配がして後ろを振り向く。
そこにはなにも見えないはずなのに赤い光が二つ浮かんでいた。
俺は少し驚きながら、
「ふぁ? なんで目が光ってんだよお前!」
「僕の事か? 当り前だろ? 魔人なんだからさ」
「ど、どういうこった?」
「ゆーくん知らないの? 魔人は目が光るのよ」
「猫みたいなもんか?」
「失礼だな! 魔力が溢れでていると言ってもらおうか」
「よくわからんが夜とかに目が光ってるお前に会いたくないな、心臓に悪い」
「そうか! なら夜に脅かしに行こう!」
「まじ勘弁」
俺は真剣にリンへと低い声で言う。
埃っぽい城から空気のいい外へと出た俺は背伸びをする。
「さて、帰るまでがクエストだぞ」
後ろを振り返ると疲労困憊のリスティがさらに緊張の糸が切れた事で腰を落とすのをみて少し考える。
「休憩してから帰るか」
「お願いします」
「人間は貧弱だな、僕が抱えてあげようか?」
「遠慮します」
リスティはふぅとため息をつき天を仰ぐ。
俺もそれに見習い腰を落とし城をまじまじと見る。
「なぁリン、お前はこの城から離れる事になるんだがいいのか?」
「ん? 別に気にはしないが……愛着がないのか聞いているのかい?」
「まぁそうなるな」
「そうだね……夜は湖が反射して幻想的な景色になるからそれが見れないのは少し寂しいかな」
「ほぅ」
「でももう帰ってこれないとかじゃないだろ? なら気にはしないさ。それに外に出るのは大好きだからね」
「そうか……この城の事も冒険者組合に伝えないといけないな」
「冒険者組合! 聞いたことがあるぞ! なんでもクエストを受けれるとか」
「ああ、そのクエストでここまで来たんだ」
「そうなんだ、起こしてくれたくれた事には感謝しているよ」
「感謝されたくないがな」
俺はバッグから買っておいたハチミツ酒を取り出し口に入れる。
甘さが疲れた体を癒すようだ。
「なにを飲んでいるんだい?」
「ハチミツ酒だ」
「ちょっとおくれ」
「……少しだけだぞ?」
仕方なくリンへとハチミツ酒を渡す。
それをクンクンと嗅ぎ、口へと含む。
一口……どころかそのまま天へと瓶を傾け全てを飲み干す。
「おい! 一口って言っただろうが!」
「ひ、一口だよ! 一口で飲んだんだ! それにしても美味しいねこれ、もっとない?」
「試しに買った酒だからそれだけだよ、くそ」
「二千年も眠らされていたんだ、こんなうまい飲み物は久々だよ!」
「リンゴジュースでも飲んでおけよ」
「言っちゃ悪いがこうみえても君より年上だよ? 僕に誠意を払ったらどうだい?」
「何歳なんだ?」
「乙女にそれを聞くかなー」
「まぁこう見えても俺も四百歳は超えてるからな」
「へー君も魔人なのかい?」
「俺はれっきとした人間様だ」
「それなのに四百歳を超えてるのかい? 魔法かなにかで延命でもしているのかい?」
「それに近いな」
「へー君おもしろいね、気に入った! 名前はなんて言うんだい?」
「そういえば名乗ってなかったか……」
俺はここに居るメンツを紹介する。
リンは笑いながら一人一人と握手を交わす。
案外礼儀正しい魔人なのかもしれない。
「それにしても勇者だからゆーくんなんて変な名前だね」
「よく言われるよ」
「魔王だからまーちゃんか」
「人の名前にケチつけようっての? この小娘」
「いやいや楽しい人間達だなと思ってね」
「なんでそんなに上から目線なんだよ」
「そりゃここにいる誰より年上だと思うからさ」
「ふーん、その年上のリンはいつまで裸でいるつもりだ?」
「その通りだよ、なにか着るものは無いのかい?」
「シロ、鱗で作ってやれよ」
「嫌じゃ、わしの鱗が汚れるわい」
「仕方ないなぁ……」
リンがおもむろに草を毟り始める。
「おい、なにやってんだ? まさかその草で恥部を隠す気か?」
「ハハッ、まさか……まぁ見てなよ」
ある程度の草を集め地面に置き、両手を草に向ける。
「錬金術って知ってる?」
「物体を他の物に変えるとかいう詐欺師が良く使う方法だろ?」
「今の時代はそういう認識なんだね」
草が淡い光に包まれる。
「ほら、できた」
「え?」
草があった場所には一着の服が出来上がっていた。
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