家を探そうー3
この茶番劇が始まってから何分経っただろうか?
「おかわりをお入れしますね」
「ありがとう」
メイドに促されながら高級なグラスをメイドの方に持って行く。
つがれたブドウ酒をグラスの中でクルクル回しながら目線を戻す。
目線の先ではフラフラな足取りのまーちゃんと領主の息子ボルドンの茶番劇を見る限り、この戦いがいつ終わるか分からない。
なぜか? 答えは簡単だ。
まーちゃんがふらつくたびにボルドンが体をビクつかせ牽制状態を取っているのだ。
昔武道家とパーティーを組んだ時に秘奥義で酒を飲むたびに強くなる「酔拳」というのを聞いたことがある。
しかしまーちゃんはただの酔っぱらいだ。
そんな高等技術を身に付けているはずがない。
「さっさと勝負つけろよー」
余計かもしれないが、いつまでも終わらないと永遠とつぎ足されるブドウ酒でこっちまで酔ってしまう。
「ひぃぃ、やっぱり無理ですよ、父上ー」
「こらっ、しゃきっとせんか! 全く……」
「あれでよくナイトの称号なんて取れましたね」
「昔はあんな子じゃなかったんだ。ナイトの称号を取り領主の息子ということで女がわんさかと押し寄せて来てな……もともと内気ではあったが、社交性もちゃんとあったんだが女性の猛アプローチが効きすぎてな……」
「なるほど……女性恐怖症……というよりは人間恐怖症になったと……」
「ああ……あの性格をなんとか直してほしいのだがなぁ」
「そうですね、そうすればこの領地も安心して継げさせれますしね」
「おお、わかってくれるか! なんて優しい人だ」
「いえいえ」
そんな会話をしている最中でもまーちゃんはフラフラと千鳥足。
そしてボルドンはその一挙一動に怯えビクついていた。
「おい、はやく攻撃しろよ! いつまでも終わらないぞ」
「で……でも……」
「でももへったくれもねぇよ、お前が持ってるのは木刀で剣じゃないだろ? それでコツンと頭を小突けばいいんだよ」
「は……はぁ……ではいきます……」
ビクビクとしながらジリジリまーちゃんに近寄るボルドン。
あと一歩という距離まで近づく。
「アチョー!」
「ひぇっ」
「あははは」
まーちゃんの適当なポーズにすぐさま飛びのくボルドン、それを見て笑いを上げるまーちゃん。
「いい加減にしろよな! まーちゃんもおかしな事をするな!」
「わかったわよ! 全く……」
ボルドンがまたまーちゃんに近づく、そして――
「「せい」」
ボルドンの振ったはずの木刀はまーちゃんには届いておらず、届いていたものは……まーちゃんの痛烈な股間蹴りだった。
「ぎゃあああ」
「あははは」
「ボルドーン!」
「お前は何をやってるんだ! なんでやられない! 茶番劇なはずだろ!」
「茶番劇でもなんでも魔王が勇者に負けるわけないじゃない! 考えなさいよ!」
「こんの! 酔っぱらいが!」
そう、この茶番劇が始まるまでに大量のブドウ酒を飲んでいたまーちゃんは機嫌が良く、家のことなど忘れてしまっていたのだ……。
股間を抑えながら泡を吹き地面に倒れているボルドンに駆け寄る領主、それに呼応して俺もすぐにまーちゃんの所に向かう。
まーちゃんの所に到着し、まーちゃんを揺さぶりつつ俺は怒りをぶつける。
「お前は俺の計画をどうしてこうも壊すんだ?」
「ふぇ? 計画? なにそれ」
「ああ、もう! 本当に使えない奴だ!」
そんな事を言いつつボルドンを見ると領主と目が合ってしまった。
「どういう事ですか! これは!」
「違うんだ……違うんだ!」
「皆の者! この者達を処刑せよ!」
「くそっ! これだから近代化してない世界は! 逃げるぞ、みんな!」
その言葉と共に俺はまーちゃんを肩に乗せみんなで街へ逃げ去る。
冒険者組合内、俺達は一旦落ち着くためにリンゴ酒を頼みながら席へとついていた。
「まーちゃんよ……お前はなにをしてるんだよ本当に……」
「魔王が勇者に負けるなんて演劇でも許せないわ! ヒック」
「まだ酔ってるなこいつ……」
「ま、まぁ……私の別宅で暮らせばいいですし……」
「領地付き一軒家が……」
「あら? 魔王免許に勇者退治なんて称号が追加されてるわ! あはは!」
「こいつ……」
「まーちゃんはだめな子なのん。ゆーくんよりだめなのん」
「その通りだ」
俺は頭を抱え机へと突っ伏す。
あれだけ説明してこの結果……この魔王は本当にだめな子だ。
ふぅとため息を吐きつつ机の上のリンゴ酒を見つめる。
「まぁ終わったことは仕方ないか……リスティ、家の件は頼めるか?」
「もちろんですよ! このファルス王国に腰を下ろしてくれるなんて……」
「なぜリスティはこの男にそこまで執着するのですか? 理由が分かりません」
「だってこの人は……」
リスティが口を滑らしそうになり口に手をやり黙り込む。
「だって……なんですか?」
「いえ、気にしないで下さい」
「気になりますね」
「そうだな、俺もクリスがロレンスにどんな夢を見せて貰いたいのか気になるな」
「っ! 貴様! 何を知っている!」
「同室だからな……少し名前が見えただけで内容は知らん」
もちろん嘘だ、内容もバッチリ覚えている。
だがクリスにはかなり効いたらしく黙り込む。
「それじゃあリンゴ酒を飲んだらリスティに案内してもらおうかな」
「わかりました!」
正直今後が怖い……。
王女の別宅を借りるわけだが、国に何かあった時に俺は確実に招集されるだろう。
そんな事を思いつつリンゴ酒で喉を潤す。
「俺が魔王だったらなぁ……」
ボソリと独り言を漏らしつつグビリと木製のジョッキを口へと運ぶ。
案内されたのは貴族達が住むエリアの最奥地……庭もでかく屋敷も三人では使い切れない程の部屋があるだろうと一見してわかる。
「これでかすぎじゃない?」
「これでも一番小さいのですが……」
「やっぱ王女は伊達じゃないな……」
「うちの家よりも立派なのん!」
「中々いいじゃない、気に入ったわ」
確かにフェリスの家を比べると立派だ。
だがそのぶん掃除が大変なんだよな……。
「まぁここに住むか……」
「なによ! 乗り気じゃないわね」
「掃除が大変そうだなと思ってな」
「うちがするのん」
「…………メイド雇うか」
さすがにこの小さき世話係に全てを任すのは酷というものだ。
「メイドなら私の所のを来させましょうか?」
「そうだな……言葉に甘え――」
「嫌よ! 知らない人間が家の中にいるなんて!」
「わがまま言うなよ……」
「フェリスがやるって言ってるじゃない! その言葉に甘えましょう」
「どこまで屑なんだお前は!」
「なによ! やる気!」
俺とまーちゃんは手を絡ませ頭突きをし頭を擦り合わせる。
「お前には前から言おうと思ってたんだ」
「へぇ、言ってみなさいよ」
「セバスのいないお前は本当の穀潰しだな!」
「それを言うなら、前の世界で就職できなかったゆーくんもでしょう?」
「ぐぅぅぅ……」
ガリガリと頭を擦り合わせながら手の握力を強めていく。
「ちょ、ちょっとやめてください! それより中に入りましょう」
俺は握力を弱めそのまま一歩引く。
それに呼応し、力を入れ前のめりになっていたまーちゃんは姿勢を崩し倒れ込む。
酔いのためか手も出ず頭から地面に突っ伏し尻を上げている見事な倒れっぷりはさすが魔王という所か……。
「そうだな、さぁ今後の我が家にはいりますか」
ギィと音を立てて入り口を開けると、夜のためか、まるで幽霊屋敷を思わせる雰囲気を漂わせていた。
「ちょっとリスティ案内してくれないか?」
「もしかして怖いのですか?」
「おいおいクリスなにを言っているのかわからないな」
怖い訳ではない! 幽霊とも対峙した俺は怖い訳がない! ただいきなり飛び出して来られると心臓に悪いのだ……。
「わかりました、案内しますね」
「頼む」
案内に従い居間、食堂、各自の部屋へと連れていかれる。
「ちょっとトイレをしたいんだがトイレの場所も教えてくれないか?」
「はい、この屋敷には五つ程ありますよ」
「掃除が大変だなぁ……」
そんな事を言いつつ外を見ると、何者かが庭で動く気配がした――
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