メイドは必要ですか?
「おい! 今庭で何か動いたぞ! やっぱりこの屋敷は幽霊屋敷だ!」
「し、失礼です! ここは私の別宅ですよ!」
「でも何か動いたぞ!」
「確認に行きましょう!」
「「「えー」」」
「わかりましたよ! 私とクリスで確認します!」
「えっ! 私もですか?」
「当り前です」
「その間俺達は食堂で適当に飲んでおくから……いいよな? さっきワイン一杯あったし……」
「はぁ……わかりました。勝手にしてください……クリス、行きますよ」
「はい」
食堂に行くまでに見つけたトイレで俺は用を足す。
窓があったので開けると、とても丸い月が窓枠の中に埋まりまるで絵画を見ているようだ。
「綺麗な月だな……」
「そうだな! とても綺麗な満月だ」
「ああ、その通りだ…………ん?」
その瞬間、絵画のような窓枠に人の顔が飛び出してくる。
「うわぁぁぁ!」
俺は自分についている下の聖剣を持っているため驚愕の声しか出ない。
「兄ちゃん! あたいだよ! あ・た・い!」
そこにはマグマのように赤く肩まで伸びた綺麗な髪を垂らし、緑色の目をした少女が顔を出していた。
「ム、ムーラか?」
「その通り!」
ムーラ……少し前にサキュバスのインムちゃんを殺そうとしていた少女だ。
「お母さんは元気になったか?」
「ああ、おかげさまで街に出かけれるまでに回復したよ! あの時はありがとな!」
「それで……男が気分よく用を足しているのに何故邪魔をするんだい?」
それを聞き確認しようとしたのか、窓から顔を突っ込もうとするムーラを片手で押し止める。
「お前は一体なにしに来たんだ? もしかしてさっき庭でコソコソしてたのはお前か?」
「たぶんそうじゃないかな……」
「この屋敷の物を盗みに来たのか? もう裏家業からは手を洗えと言っただろう?」
「違うよ! 今はバイトの帰りさ! 兄ちゃんを見かけて驚かそうとつけてたんだ」
「ふーん、まぁ玄関から入って来いよ」
「そうする」
用を足し、食堂でムーラをまーちゃんとフェリスに紹介をする。
リスティとクリスはまだムーラを探索中だ。
いずれ帰ってくるだろう……。
「それで? なんで俺をつけてたんだ?」
「たまたま見かけて驚かそうと……お礼も言いたかったしね」
「さすがゆーくん、幼女には優しいのん」
「最低ね! こんな子まで手を出すなんて!」
「いやいや、こいつが襲撃してきた時お前達もいただろうに……」
「ところでにーちゃん達こそ、こんな所でなにをしていたのさ?」
「ああ、この屋敷に住むことになってな」
「へーでかい屋敷じゃないか、メイドは何人いるんだ?」
「それが……いないんだよ」
「自分達で掃除とかするのか? 大変そうだな」
「むぅ……、そうだ! ムーラ、お前雇われないか?」
「え?」
「これもなにかの縁だ! ここでメイドのバイトをしないか? 給金は弾むぞ」
「むむ……それを言われると弱いな、このまえの件のお礼もできてないし……」
俺はワイン蔵から取ってきていたワインを煽りながらムーラに望みをかける。
「まぁ雇われてやるか! にーちゃん達なら信用できそうだしな」
「信用?」
「ああ、ちょっと前のバイトでガメつい店長がバイト代ごと蒸発しちゃってな……」
「なるほどな……まぁ頼むよ、家事とかは俺達はめっきりダメなんだ」
「うちができるのん」
「フェリスはなんでもできるいい子だね、でもさすがにクエストを行きながらだと掃除やら食事の用意は大変だろ? 誰か雇っておくと楽だろ?」
「確かにそうなのん」
そう、最初は家事をしてもらおうと連れて来たフェリス……だが、圧倒的な魔法の数々をみるに前線で戦ってもらった方が俺的には助かる……。
「よし、これでメイド問題は解決だな」
「でもあたい一人じゃそんなになんでもかんでもできないよ?」
「まぁ毎日クエストに行くわけじゃないし掃除は当番制でやろうじゃないか」
「嫌よ! 家事なんて魔王のする事じゃないわ!」
「こいつ……お前が知らないメイドは嫌だと言ったんだろうが!」
「あーもう! うるさいわね! セバスを連れてきたらよかったわ!」
「本当にな! でもいないんだ! 当番制は揺るがないからな!」
「嫌よ! 私はやらないから!」
「やらないなら酒は飲ませないからな!」
「…………ッ!」
黙り込むまーちゃん……少しは今の状況がわかったのだろう。
「こんな時にセバスがいればなぁ」
ポツリと心で思った事を呟いてしまう。
せめてもう少し手狭な家ならムーラだけでも掃除等を任せられるのだが……。
「やっぱり一人か二人くらいメイドを送ってもらわないか? ムーラだけじゃ大変だろうし……」
「むぅぅ仕方ないわね……その代わり当番制はなしよ!」
「わかった」
やはりまーちゃんはの思考は俺に似て堕落している。
堕落した以上家事なんてものはやりたくないのだ、当番制であっても……。
「メイドくるんじゃあたいは用済みか?」
「いや……クエストの内容次第じゃ盗賊もほしいからな、このまま雇うよ」
「あいさ! 任せな」
「ムーラは勇者免許は免停中だけど冒険には出てもいいんだよな?」
「ああ、クエストが受けられないだけで手助けはしてもいいんだ」
「そりゃよかったよ、なんせ盗賊職は貴重だからな」
そんな話をしていると外から、
「きゃぁぁぁ」
「この魔物め! 来るな! 来るなぁぁぁ!」
リスティの悲鳴とクリスの怒声が聞こえてくる。
何があったのか確認するために俺達はその声の聞こえて来た場所へと急いだ。
庭にでるとそこにはローブを着てはいるが、隙間から青白く光を放つスケルトンが立っていた。
それに向けて剣をブンブンと振るいながら威嚇するクリス。
「来るな! 魔物め! 来るなぁぁぁ!」
「クリス! はやくこの魔物を退治して頂戴!」
俺は聖剣を抜き、戦闘態勢に入る…………が何かがおかしい……。
その青白いスケルトンは剣すらもっておらず、むしろ革袋を手に持ち、もう片方の手で慌てたようにブンブンと左右に振っているのだ。
俺はゆっくり近づく……。
「あの……スケルトンさん?」
「ん? 君は誰かね?」
なんて紳士的なのだろうか、このスケルトンは……。
「リスティ、クリス! 落ち着け」
「なにを落ち着くんですか! 早くこの魔物を!」
「そうです! この魔物を倒してリスティを守らねば!」
「このスケルトンに戦闘の意思はない! だから落ち着け」
「「ふぇ?」」
「全く……なんでスケルトンだからといつも怯えられるのかねぇ……誰でも死ねば骨になるでしょ」
スケルトンは大げさに手を上に上げ首を左右に振る。
「すまない……だが、夜に青白く光っていれば誰でも怯えてしまうよ」
「むぅ……それについては謝罪しよう」
「ところでここは屋敷の庭なわけだがなにをしていたんだ?」
「ふむ……私の家がこの屋敷の家の地下なのだよ」
「ん? ここはリスティの家だろう?」
「そうなのか? 空き家だと思って地下に実験室まで作ってしまったのだが……」
「なるほど、別宅だから誰も来ないのを空き家と思ったのか」
「簡単に言うとそうなるね……」
正直スケルトンが地下室で実験している上で、のうのうと暮らせる程俺の精神は強くない。
「どんな実験をしているんだ? その内容次第では出て行ってもらう」
「ふむ……人間の治療薬や強壮剤といった類だ。危険な物は作っていないので安心してほしい」
「なるほど……信用出来んな」
「でしょうね、私はスケルトン。しかも初対面だ。信用してくれという方がおかしい」
「なら出て行って……」
言いかけてスケルトンがローブの腕部分に手を入れゴソゴソと何かを探し始めた。
そして目的の物を見つけたのかそれを取り出しこちらへ向けてくる。
少し警戒しながら出されたものを見ると綺麗な小瓶に入った液体だった。
「これは?」
「私の実験で作り出したポーションだ。確認してほしい」
俺はその小瓶を取りまじまじと観察する。
どこかで……そう、どこかで見たことがある色のポーションだ。
「あー! それって母ちゃんの薬だ!」
「なに!」
確かに言われてみればそうだ。
「これは私が作ったポーションだ。人間達に安値で売って実験施設をやっとこの間作り上げたんだ」
「ちょっと待て、これは高いはずじゃないのか? ムーラ」
「うん! 相当高いよ!」
「仲介業者のボロ儲けか……」
「どういう事だ?」
スケルトンが疑問を持ったのか顎に手をあて考える仕草をする。
「つまりスケルトンが作って安く売った相手が本当に欲しがっている人間に高値で売りさばいてるって事だ」
「むぅ……なんという事だ……私は善意でやっていたのにまさかそんな事になっているとは……」
「スケルトンは骨だけあって頭もカラッポなのね!」
「まーちゃんは少し黙ろうか」
意気揚々にスケルトンを挑発するまーちゃんを黙らせて話を続ける。
「まぁお前は悪くないよ。それに悪い奴って感じでもなさそうだ。今後も地下は好きに使っていいぞ」
「なんと……初対面のスケルトンを信じてくれるのか!」
「ああ、信じるとも! そのかわりあんたの作ったポーションは俺かムーラが売って来る事に同意してくれ」
「ああ、初対面のスケルトンを信じてくれるいい人に出会えてよかったよ。ただこちらも善意で安値で売っているのでそれを高値で売ろうとはしないでくれよ?」
「もちろんさ!」
「ゆーくん顔が笑ってるよ?」
「まーちゃんは少し黙ろうか」
俺はまーちゃんにアイアンクローを食らわしつつ反対の手で契約の握手を交わす。
高値でなくてもそこそこの値段で売りさばけばいい。
それにスケルトンは実験室を作る程に相当頭がいい。
なにかあった時にポーションを提供してくれるし、わからない事があればこのスケルトンに聞けばいい。
「ところで名前はなんていうんだ?」
「ああ、私はジェンキンス。生前は勇者……と、言うまでもないか」
「ジェンキンスか、これからもよろしくな」
「ありがとう、優しい者よ」
そう言いながら屋敷へと入っていくジェンキンスを見送る。
まだ息の荒いリスティとクリスを落ち着かせ俺達も屋敷へと入る。
屋敷の食堂でワインを啜り落ち着かせたリスティへと目線をやる。
視線に気づいたのかこちらを見てくるリスティに、
「なぁリスティ、やっぱりメイドを数人用意できないかな、俺達にはここは広すぎる」
「わかりました、数人用意しましょう。私もここに住むことですし」
「今なんて?」
「私もここに住むんですよ?」
「なんで?」
「当り前でしょう、ここは私の別宅です。なので私もゆーくん達と住みます」
「いや、でもお前……」
「なにか問題でも?」
「むぅ……」
この国の第一王女と同居か、面倒な事になりそうだ。
下にはスケルトンのジェンキンス、上には第一王女か……。
「明日から冒険の日々が始まりますね!」
「いや……もう結構稼いでるから冒険には行かないよ?」
「ええ!」
そんなリスティの間抜けな声を聞きながらワインを飲み干す。
今日は自分の寝室を決めて明日はリスティお勧めの武具店「アバランジェ」へと行く事にしよう。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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