家を探そう-2
「「プハー!」」
まーちゃんはさっさと風呂に入ってサラマンダーの涎を流し、ついでに肉体労働の汗も流してさっぱりした顔でリンゴ酒を飲む。
俺も同じく肉体労働の疲れをリンゴ酒で癒していた。
「それにしてもあのでかいのがただの肉の値段だなんてな……」
「ですが、コカトリスとは値段が違うじゃないですか」
「リスティの言う通りだが納得がいかん!」
ドンとリンゴ酒が入った木製のコップを机に叩きつける。
「確かにコカ肉よりは高いよ? でもなぁ……」
「サラマンダー焼きお待たせしましたー」
元気よくウェイトレスが俺が狩ったサラマンダーの肉を運んでくる。
一部だけどんな味なのか知りたくて焼いてもらった。
その他の部位は当然売却だ。
サラマンダー……前の世界で討伐はしたことがあったが貴族の命令でだ。
その命令では「サラマンダーの肉とコカトリスの肉はどっちが美味いか」というくだらない理由だった。
そんなくだらない理由で討伐するのは面倒くさがったが、仲間の「お金は必要です。防具や武器を買わないと……」という理由でこなしたのだ。
今更だが、確かに興味がある、サラマンダーとコカトリス……どっちが美味いのか……。
ナイフで切り分け一口食べる。
「う……」
「う?」
「美味い!」
その言葉を聞き俺の表情を見たまーちゃん、フェリス、リスティ、クリスが俊敏な動きで切り分けたサラマンダーの肉にナイフを立てる。
「俺達ならともかくリスティはたまには食べてるんじゃないのか?」
そう、この国の第一王女ならこれくらい食べてそうだが……。
「いえ、初めてです。大人のサラマンダー討伐はなかなかない上に狩られてもほとんどが貴族の所に行きますので……」
「王女としての特権使えよな」
ボソリと呟きながらサラマンダーの肉にナイフを伸ばす。
「美味い! なにこれ! リンゴ酒追加ー!」
「美味いのん」
「美味!」
まーちゃん、フェリス、クリスがそれぞれに感想をのべていた。
「それでは……おいひいです!」
モグモグと食べながら口を片手で覆いリスティが恍惚の表情を見せる。
「それよりも……家の事なんだが」
サラマンダーの肉を口に運びながらこれから住む家についてリスティに尋ねる。
「ええ、家の件ですね。ですがまーちゃんは魔王なのになぜ領主に申告しないんですか?」
「ん? だって領主から家をもらったらそこに軟禁状態だろ?」
「へ?」
「ん?」
なにか釈然としない反応だ。
「いや、だって魔王だよ? 暴れないように領地付き一軒家で軟禁状態なんだろ?」
「えっと……軟禁状態というのはどこから出て来たんですか?」
「あわよくばそこの領主の息子と婚約とか……」
「いえいえ、そんな事は無いですよ。やるべき仕事が一つあるだけでそれさえこなせば特に拘束されることもなく自由にクエストにも出かけれますよ?」
「なんだってぇぇぇ!」
とんだ誤算だ。
魔王だからその力を恐れて領地付き一軒家を与えそこに閉じ込めておくものじゃないのか?
「そのひとつの仕事ってなんなんだ?」
「勇者にやられる事です」
「なんじゃそりゃ」
「わざと勝負に負けることで勇者免許の称号「魔王を倒したもの」を勇者に与える仕事です」
「なんて楽な仕事だ……よし今度行こう」
「はい!」
その日はコカトリスの肉をも上回るサラマンダーの肉を味わいながら宴を開いた。
ふと大人のコカトリスだったら大人のサラマンダーに負けない程うまいんじゃないか? という考えがよぎったが、リンゴ酒を飲みながらサラマンダーの肉を食べているとどっちが美味いとかはどうでもよくなっていた。
「よし! 明日は領主のところに行くぞ!」
「おー!」
リスティの話を聞いていないであろうまーちゃんが木製のコップを天高く上げながら賛同する。
次の日、領主の屋敷に到着した俺と交渉役のリスティ、仕事をしてもらうまーちゃん、付き添いのフェリスとクリスが門の前で領主が来るのを待っていた。
「お待たせしました」
メイド服を着た女性が二人現れ、ギィと音を立てて門が開かれる。
俺達は導かれるまま屋敷へと歩を進める。
「ようこそ参った! さぁさぁこちらに!」
大げな素振りを見せたのは金髪で髭も長く貫禄がある領主だ。
顔はとてもやさしそうで気品のある服装……いい領主のような気がする。
その領主に屋敷を案内されながら説明される。
「この領地に余っている屋敷を貸し与える準備がある、そのためには仕事を一つしてもらいたい」
と言われ俺は即座に「いいですよ!」と答える。
「そうかそうか、まぁブドウ酒でも飲みたまえ。喉が渇いただろう」
メイドが調理場で慌ただしく走りブドウ酒を用意していた。
「さぁ、飲んでくれたまえ。この土地で取れた自慢のブドウ酒だよ」
「ありがとうございます」
「どんな味か確かめてあげるわ」
まーちゃんは待ちきれないのか誰よりもブドウ酒を手に取るスピードが速かった。
「それでは……」
上品なグラスを手に取り一口……。
「美味い!」
「おかわり頂戴!」
「おい! ちょっとは慎めよ! まーちゃん」
「はは、いいですよ。そこまで喜んでもらえると嬉しいもんですな」
領主がメイドに命令し空になったブドウ酒を注ぐ。
それをまーちゃんがものすごい勢いで胃に流し込む。
「リスティ、ここの領主ってすごくいい人なんじゃないか?」
「ええ、すごく有能です。ですがそれを鼻にかけないので人気も凄いんですよ」
「なるほどな、納得できる」
貴族にも色々いるが、金を持っていて鼻につくやつの所はメイド間でもギスギスしていたりする。
その反対にメイドにも優しい貴族はすごく大らかな雰囲気が屋敷を包む。
家庭的とでも言うのだろうか?
「それで……仕事の方なんだが……」
「はい、わかってます」
「しーごと? なーにそれぇ」
「こいつ……」
まーちゃんが酔い始めている。
さっさと仕事をして屋敷をゲットする事にしよう。
「実は最初にこの子をお願いしたいんだ……」
扉から合図が飛んできたというようにソロリと顔を出したのは顔立ちもよく、清楚な少年だった。
「実は私の子供で、もう十九歳でナイトの称号まで持っているのだが、人見知りが激しくあまりクエストにも出かけないので称号が少ないのだ」
「それで「魔王を倒した者」が欲しい訳ですか」
「その通りだ。ここらには魔王は住んでいないのでな、お願いできないかな?」
「わかりました! 豪華船に乗った気でいてください」
「こら、ボルドン……こっちに来んか」
「で……ですが父上、魔王というのはとっておきの悪人と絵本にも書かれていましたし……」
「とっておきの酔っぱらいの間違いじゃないかな」
「まーちがいなのらー」
俺はまーちゃんの顔の両端を手のひらで押さえつけ、酔っぱらった顔を領主の息子であるボルドンに見せる。
「やっ、やっぱり怖いぃぃぃ」
酔っぱらったまーちゃんの顔が悪人が笑う顔に見えたのかすぐにドアの外まで行き顔だけを出す。
「心配無用ですよ。酔っぱらいを軽くのしてあげてください」
俺は励ましの言葉と共に笑顔を送る。
「やっぱり怖いぃぃぃ」
あれ? 俺も怖がられている?
そんなこんなで屋敷を出て庭に着いた俺達はまーちゃんに適当に杖を持たせて立たせる。
おぼつかない足取りでフラフラとその場を立つ事さえままならないような魔王……これを演劇さながら勇者免許の持つ領主の息子が倒すのか……。
まーちゃんには事前説明はしっかりとした。
「わかって・りゅ!」
とか言ってたから一抹の不安はよぎるが大丈夫だろう、たぶん……。
曇り空が晴天に変わり演劇にはうってつけの天気だ。
俺やフェリス、リスティにクリス、そして領主は少し引いた位置でこれから行われる演劇を鑑賞することになった。
さぁ家一軒をかけた演劇をのんびりブドウ酒をのみながら鑑賞しようじゃないか。




