サラマンダー―3
俺達は冒険者組合から出て、遠足気分で北の森を抜け断崖絶壁の麓で、壁に張り付いたトカゲを一匹一匹目を凝視しながら取り続けていた。
「なんでこんなに岩の色と同じなのよ!」
「仕方ないだろ、小さいカメレオンとでも思って探せよ、あっ、一匹見っけ」
「それにしても肩が凝りますね」
「リスティ! それは大変です。私が揉みましょう!」
「いえ、遠慮しておきます。まだまだとらないと……」
「そうですか……残念です」
「残念?」
「い、いえ、なんでもありません」
ただ黙々と、そしてたまに会話を交えつつトカゲを捕まえていく。
「それにしてもサラマンダーってこんなにいるんだな。大きくなったらどこかに旅に出るんだろうか……」
「そのまえにうちらが捕まえるのん!」
「そうだな……フェリス、そこに一匹いるぞ」
「どこなのん!」
「そこだ」
岩の色で隠れているつもりだろうが俺の目はごまかせない。
当たり前だ、前の世界で散々手こずらされたんだ。
今更岩の色に擬態したところで俺には効かないのだ。
「あっそこにも一匹……よっと」
捕まえたサラマンダー……トカゲを瓶にいれる。
「だいぶ多いなここは……産卵場かなにかだろうか?」
俺はふぅと一息つきながら持ってきたタオルで顔を撫でる。
汗がじわりと体中から湧き上がる感覚は労働してる証で実に心地いい。
「これが薬になるなんて信じられませんね」
リスティが瓶を目の前に持ち疑問をぶつけてくる。
「昔からトカゲは干して粉々にして粉薬として重宝されてるんだよ。サラマンダーならなおさらだ」
「へぇ、物知りですね」
「まぁな」
魔王城で四百年もの長い間、無闇に過ごしていたわけではない。
薬学も少しは知識があるのだ。
「よしもうちょっと集めるか」
「はい」
その後も黙々とトカゲを探しだし集める。
「そういえばゆーくんはどんな盾がほしいんですか?」
「ん? できればドワーフが作ったやつがいいかな」
恐らくはこの世界でもドワーフが作った装備は高価で性能もかなりいいはずだからだ。
武器屋を数度見に行った時にドワーフらしき男をみた。
その男が店長に渡した武器は遠目でも分かるほどのかなりの強者……そしてその次の日にはかなりの金額で店に並んでいた。
できることならドワーフとパイプを作り直接販売してもらいたいところだ……。
その方が仲介を通さないぶん安くすむからだ。
「なるほど、ドワーフ製ですか、確かに高いですもんね」
「ああ、その代わり色々な特性が付いていて使いやすいんだよ。軽いしな」
「人間が作った魔道具の盾じゃだめなわけ?」
「うーん、まーちゃんの言いたい事は分かるが魔道具だとすぐに故障するんだよな、色々な機能がついてるのはいいんだけど……」
「今の魔道具はそう簡単には壊れないと思うのですが……」
「いや、ほら俺って扱いが乱暴だからさ……」
「「「「あー」」」」
その場にいた全員が俺の顔を見て納得する。
そこまで乱暴には扱っていない……はず……。
「と……とにかく昔ながらのドワーフ製がいいかなと思ってるんだ」
「その言葉を聞いたらドワーフもきっと喜びますわ、最近人間の魔道具に売り上げを取られてますから……」
「そうなのか……そこまでこっちの魔道具は進化してるのか……」
「はい? こっちのとはどういう……」
「なんでもない。まぁ帰って人間の魔道具盾も見たうえで考えてみるよ」
「そうですね、おすすめはアバランジェって店の武具ですね、あそこの魔道具はなかなかに優秀で壊れにくくて有名です」
「ほぉ、クリスのお勧めの店も行ってみるか」
そんな事を話していると、目の前に金色のトカゲが現れる。
「なんだこれ」
ヒョイと掴んでみると「キュイ」と可愛い声を出しながら暴れ出す。
「なぁ、金色のサラマンダーって珍しいのか?」
俺は掴んだ子供のサラマンダーをリスティ達に見せる。
すると驚愕した顔に変わる。
「珍しいもなにも一千匹のうち一匹いるかいないかのとても珍しいサラマンダーですよ!」
「私、王城で見たことあります! 剥製ですが……」
「確か生命活動が他のサラマンダーより弱く大人にはほぼなれないため子供のサラマンダーの時に捕獲しないといけないとかなんとか……」
「でも一応は大きくなるんだろ? まぁ瓶につめておくか……」
「一匹一千金貨で取引された事もあるんですよ!」
「「なにぃ」」
俺と声を同じくしたのはまーちゃんだ。
「ちょっとそれ渡しなさいよ」
「なんでだよ」
「一千金貨欲しいからよ」
「すごく正直だなお前……」
「お酒が飲みたいの!」
「いやいや……毎朝リンゴ酒飲んでるじゃん」
「あれじゃ足りないの! それを渡して! はーやーくー!」
「うるさいなぁ、これは俺が盾を買うための金の卵……トカゲなんだよ!」
「盾なんていつでも買えるでしょ!」
「酒こそいつでも買えるだろ!」
そんな不毛な会話を察してか俺の瓶を狙ってまーちゃんが突進してくる。
「いいから渡しなさいな」
「やめろよ! やめろって!」
俺の腰に抱きついて離れないまーちゃんを必死で剥がそうとする。
「フェリス、リスティ、クリス、助けてくれ!」
「面倒なのん、一匹ゲットなのん」
「お二人の中で解決してください、あっ……ここにもいましたよ」
「面倒な人達ですね全く……あっここにもいますよ! リスティ!」
こいつら……役にたたねぇ!
抱きついてまるでタコかイカのように徐々に瓶に手を近づけてくるまーちゃんの顔をグイグイと引き離しながらどうするか悩んでいると……。
「グルルル」
何か生き物の唸る声が地響きの如く聞こえてくる。
「グルルル」
聞き間違えではない……確かに聞こえてくる、何処からともなく……。
辺りを見回すが見つけられない。
そんな中俺の左頬に粘液まみれの得体のしれない何かがズルリと下から上えと這いずる。
「なんだ? 一体――」
俺はまーちゃんの顔から自分の顔へと左手を移しその粘液を確認する。
ヌチャリとしてとても臭い――覚えのない粘液、嫌……昔これに似た粘液を犬等から嗅いだことがある。
これは恐らく「何か」の唾液だ。
「取ったぁ! やっほう! これで酒が飲み放題よ!」
俺の瓶を取り上げたまーちゃんが断崖絶壁へとバックステップしながら満面の笑みをうかべる。
そして…………パクリ。
「ふぇ?」
俺とまーちゃんのやり取りを見ていたリスティのまぬけな声がふと聞こえてくる。
よく見るとまーちゃんが岩に上半身喰われている。
嫌……そんな奇想天外な事がある……かもしれないが今に至ってはないだろう……ここはただの岩場だ。
「やばいな」
俺は状況を確認するためにすぐに上下左右見渡す。
擬態しているサラマンダーの大人だ――でかさは十五メートルと言った所か……。
悠長に見ている最中でもズルズルとまーちゃんが飲み込まれていく。
「おりゃあ!」
まーちゃんが魔力の籠った拳で殴ったらしくボウンとサラマンダーの頭が震えるが、ビクともしない。
「しゃーねぇなぁ」
左腰にぶら下げていた聖剣を引き抜く。
「ゆーくん? どうするんですか?」
「ブレスを吐かれると面倒だな……フェリス、もしもの時は石化解除の魔法を唱えれるか?」
「一応は覚えてるのん」
「さすがだな」
「どうするんですか? ブレスをはかれたらまーちゃんだけではなくリスティにもかかりますよ!」
「ううむ……一撃で仕留めるしかない」
しかしここで問題がある、頭を突き刺せばサラマンダーが咥えているまーちゃんに当たりかねない。
だからといって胴体では一撃で倒しきれないだろう。
どうする? クソッ、まーちゃんは黄金のトカゲごと飲み込まれている……下手に手出しできない。
なんて事だ……遠足がてら来たクエストでガチのサラマンダーを相手にしないといけないなんて……しかも仲間が一人すでに捕食されている状態でブレスを吐かさずに一撃で仕留めなくちゃならない。
相当なプレッシャーを感じながら俺は聖剣を構える。
狙うはサラマンダーの脳みそ一点……どこかわからないけど……。
「ふぅぅぅ」
息を吐き精神を集中させる。
まーちゃんに当てずに確実に脳みそのみに斬撃を通す……至難の業だ。
「ゆーくん大丈夫なんですか?」
「少し黙っててくれ」
「なんだその言い方は! リスティが気を遣っているのに!」
「ク……クリス!」
「今集中してるんだ、頼むから黙っていてくれ」
その間にもズルズルとまーちゃんがサラマンダーに飲まれていく。
「早く助けなさいよ! なんかすごい臭い!」
「待ってろ、今助ける」
聖剣を地面に着けてサラマンダーにギリギリ届く位置まで移動する。
グッと足に力を籠め――
「回転切り!」
縦への回転切り、地面の摩擦により勢いをましたその斬撃はサラマンダーの頭から胴体にかけて一直線に斬りつける。
「ピギャアアア」
「まだか!」
まーちゃんから口を離し上へと後ろ脚で後退するサラマンダー、脳へは届かなかったか。
後退を止めたサラマンダーが口を塞ぎ両端に丸い円球を作り出す――あれはまずい。
すぐさま足に力を籠めサラマンダーへと飛ぶ。
「勇者スラッシュ!」
サラマンダーを今度こそ真っ二つに切り裂く。
サラマンダーの死体と共に落ちた俺は土煙と共にサラマンダーのブレスにも少し当たりつつすぐにその煙の中から飛び出す。
「くっ」
やはりと言った所か……すでに左腕が硬化していた。
「フェリス、頼めるか」
「わかってるのん」
フェリスの石化解除魔法をもらいつつ真っ二つになったサラマンダーに目線をやる。
「すごいです! さすがゆーくん!」
「まぐれではないですか?」
「こらっ、クリス。ゆーくんの実力です!」
「はぁ……」
「そんな事よりもくさぁい、ベトベトするぅ……」
俺はベトベトのまーちゃんから自分の瓶をとりあげる。
「天罰だ、全く……それよりでかいサラマンダーを倒したんだ。一度帰って報告するか」
「そうですね、一度帰りましょうか」
「帰るのん」
「お風呂はいりたぁい、お酒飲みたぁい」
俺達はこの遠足がてらのクエストから帰る事にした。
冒険者組合に帰ってくるなりまーちゃんは風呂へと突き進む。
その間に俺達は受付嬢の所に行く。
もちろんクエスト報告だ。
「これは勇者様、どうでしたか? いっぱい取れましたか?」
「それがな――」
受付嬢に事情を説明する。
「さすが勇者様! 大人のサラマンダーを倒すなんてそうそうできませんよ!」
「まぁな、ところで報酬なんだが……でかい分、干したらいっぱい薬に使えるだろ?」
「いえ……その……言いにくいのですが……薬に使うのは子供のサラマンダーだけなんですよ。ですから大人サラマンダーは「肉」としてしか利用価値が……」
「えええぇぇぇ」
俺の悲鳴が冒険者組合に木霊した――
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