サラマンダー-1
俺は目を覚まし、腕を大きく上げ硬くなった背中をほぐしつつ、大きな欠伸をする。
フェリスとまーちゃん、そして今しがた仕事を終えたのか……机に突っ伏しているインムちゃんとロレンスを見ながらベッドを降り、煙草を片手に窓際に行く。
窓を静かに開け煙草をふかす。
朝の風が窓の隙間からスルリと入り俺の鼻腔をくすぐる。
それを背に部屋をくるりと見渡し、ふとパタパタとはためいている机の上の紙の束が気になった。
その紙の束の上には重みが置かれ、風で飛ばない様に工夫されている。
さすがはサキュバスの店で働いているだけはある……といったところか。
俺は煙草をふかしながら紙の束に近づいていく。
どんな人間がサキュバスのどんな夢を見せて貰うのか……少し気になったからだ。
前の世界だとプライバシーだとか色々ややこしいがこっちは所詮中世、見つかった所で「ごめんね、テヘペロ」で許されるだろう。
そんな事を考えながら煙草を咥え、重しをどけて紙の束を片手で持ち上げる。
結構な量だな――そんな事を思いながらペラペラと捲る。
ここに通い詰めてる連中はもちろんの事ながら貴族であろう連中の名前まである。
貴族は教養を受けているので大変字が綺麗だ。
思わず見とれてしまいそうになるのを頭を振り次の紙を捲る。
そこにはガストと書かれていた。
興味を引く名前だ――
「ガスト、ええと夢の内容は……ディアナとスカーレットとにゃんにゃんしたい…………おい! おま――ゴホッゴホゴホ」
煙草の副流煙が肺に入りむせ返る。
すぐさま周りを見渡す、誰も起きてはいないようだ。
それにしてもまさかガストが実の姉妹とにゃんにゃんしたいとか……余計な事を知ってしまったな。
そのまま用紙をペラリとめくると気になる文字があった――
それは……「国王」だった。
まさかこのファルス王国の国王がサキュバスサービスを? 誰かが国王をかたってやったに違いない……しかしながらその字は特段に綺麗で品性があった。
「まさかな……一応見るか」
その下にある夢の内容を見る。
「孫娘リスティとにゃんにゃんしたい」
俺は煙草をふかしながら紙の束をそっと元あった場所に返す。
そしてその対面にあったロレンスの方の紙の束に目を通す。
パラパラと捲り、ディアナ、スカーレットと見ていくが、大半が「王の剣」とにゃんにゃんしたいだった。
悪い気はしない……ただ「王の剣」が俺と知れたらどうなるか少し怖い所だ……。
「おや……これは、クリスじゃないか」
クリスの名前が載った紙を見つけ、意気揚々に眺め出す。
「相手は……リスティ? なんでリスティ……主従関係の上に同姓だろう? ええと……リスティとにゃんにゃんしたい……か。ハハッ、色んな人がこの世にいるな……」
俺は紙の束を元あった場所に戻し、煙草をふかす。
「…………この国だめじゃん」
そんな事を思いながら窓から流れ込む少し冷えた空気に向けて煙を吐く。
その後、俺は広場に下り掲示板前の机に腰かけ、朝食を頼みつつ受付嬢が掲示板にクエストを張るのを待つ。
キィと扉の開く音と共に受付嬢がクエストを張りに出てくる。
コカサンドを手に取り立ち上がる。
ペタリペタリと一枚一枚張っていく受付嬢を見ながら声を掛ける。
「今日のお勧めは何かな?」
「今日は、そうですね……」
ペラペラとまだ張っていないクエストの束を捲っていく。
その中の一枚で指が止まる。
「これなんかどうですか?」
スルリと一枚の紙をこちらに渡してきた。
「何々――ハイドラゴン討伐? 報奨金は中々いいが面倒だ」
俺はすぐにそれをクエスト掲示板に張り付ける。
「勇者様に見合うようなクエストはそれくらいしか……」
「いやいや……もっと楽なやつをね、前のスライムみたいに報奨金が少し上乗せされてるやつとかないの?」
「あ……それならこれが……」
器用に紙の束を捲り一枚の紙を差し出してくる。
それを受け取りまじまじと眺める。
「ええと……サラマンダー捕獲? 一匹一金貨? 少なくない? サラマンダーだよ? ああ、コカトリス討伐みたいにサラマンダー牧場があるとか?」
「何を言ってるんですか? 牧場なんてありませんよ。それに捕獲するのは子供サラマンダー、ここから北に行って森を抜けた断崖絶壁の壁にいっぱい張り付いてますよ。それを瓶に入れて持って帰ってくるんです」
「なるほど……なんで誰もやらないの?」
「雑用みたいなもんですからね……今回は薬品に使う分のサラマンダー干しが足りないらしく豪華に一匹一金貨ですよ? とてもお得です」
「じゃあこれにしようかな……」
「勇者様のように実力がある方ならそんな雑用よりもハイドラゴンを……」
「面倒なのは御免なんだよ」
「はぁ……」
受付嬢は納得していないが、俺は面倒なクエストは受けない主義なのだ。
もし受けるとしたらそれなりの理由があった時だ。
まぁそれなりの理由なんてなかなかないが……。
俺は自分の朝食の置いてある席に帰り、毎度の事ながらコカサンドを少しづつ頬張りながら鞄からモンスター図鑑を取り出す。
「サ、サ、サラマンダー、あった」
モンスター図鑑にはこう書かれていた。
サラマンダー、主にトカゲ状の生き物で大きさは小さいものは数十センチ、大きくなると素早さを捨て好戦的になり大きさは十メートルをゆうに超える。
大きくなったサラマンダーは砂漠なら砂の色に、岩なら岩の色に擬態する。
そしてブレスは瞬時に石化するので注意が必要……と。
つまりは今回必要なサラマンダー干しは子供サラマンダー、簡単な作業という事だ。
コカサンドを食べ尽くし、リンゴジュースで口の中を潤す。
その後はクエストを受付に持って行き受領してもらう。
まだまーちゃん達が起きてこないので仕方なくもう一杯リンゴジュースを頼む。
今回も簡単で楽に儲けれる仕事ならいいな。
そんな事を思いながらみんながおりてくるのをただ待つ。
数分して降りて来たまーちゃんとフェリス、そして目を擦りながら降りて来たロレンスにインムちゃん……無理矢理起こされたのだろうか?
「おはようさん、二人ともまだ寝てていいんだぞ? 夜遅かったんだろ?」
「ええ、それが……」
ロレンスが俺の対面に座るまーちゃんを見る。
「なによ、朝食はみんなで摂らないとね!」
やはりまーちゃんに叩き起こされたらしい。
「まーちゃん、二人は疲れてるんだ。朝は寝かせてやれ」
「嫌よ! 私が起きたらみんなも起きるの。これは鉄の掟よ!」
「そんな掟は昔なかったぞ? 俺は寝てたが……」
「うちもなのん」
「大所帯になったら掟は必要よ、うん!」
「やはり俺達はさっさと屋敷を探してこっちはロレンスとインムちゃんに任せよう」
「「お願いします」」
インムちゃんとロレンスが綺麗にハモる。
「それより朝食頼めよ、ちなみにもうクエストは受けたからな」
まーちゃんは朝食をウェイトレスに頼みながら聞いてくる。
「クエストってまた面倒なものじゃないわよね」
「そこは信用してほしいな、簡単かつ報酬がいいクエストを用意した」
「へぇ、どんなのかしら? 言ってみなさいな」
「興味深い話をしていますね」
後ろを振り返るとリスティとクリスが立っていた。
「おう、お前らも来るか? 報酬は全員で折半だ。まぁ軽い運動程度のクエストだがな」
「ふん、お前は所詮簡単なクエストしか受けないクズ冒険者だな。少しは向上心というものを身に付けたらどうだ?」
「リスティ大好きっ子に言われるとは心外だな」
「なにぃ!」
クリスが俺の胸ぐらをつかみ宙に持ち上げる。
俺は必死にリスティに助けを求めリスティの制止で地面に下ろされた。
あまりクリスをからかうのはやめておこう。




