家を探そうー1
次の日の朝、俺はいつものように朝食を取りつつまーちゃん達が下りてくるのを待つ。
しかし最初に降りて来たのはまーちゃんではなくロレンスだった。
「よう、お前もなにか頼むか?」
「そうですね……ですがまだお金があまりないので……」
「俺が奢るよ」
「ありがとうございます!」
ロレンスは対面に座り素直に礼を言いウェイトレスに注文を頼む。
そんなロレンスを見ると、目の下にクマができていた……昨日はインムちゃんに商売の仕方なんかを夜遅くまで教わっていたのだろう。
コカサンドを口に放り込みそのままリンゴジュース飲む。
一見してみると素直で好青年なロレンス。
その正体が女性に淫夢を見せるインキュバスだなんて言われなければ誰も気づかないだろうな……。
「あの……僕の顔になにかついていますか?」
「ああ……すまん、なんだ……言われなければインキュバスには見えないなと……」
「インキュバスは人間に近い……というよりほぼ人間ですからね」
「そうなのか? 確かに言われてみればサキュバスみたいに腰から羽が生えている事もないし物凄い怪力があるとも思えないな」
「その通りです。僕は淫夢こそ見せれますが他の部分で言えば人間と変わらないんですよ。力も人並み程度、特に頭もよくありませんし……」
「そうなんだ」
ウェイトレスから運ばれて来た料理に目を輝かせ「いいんですか?」と犬のような目を向けてくるロレンスにコクリと頷き食べるように促す。
「おいしいですね! ここの朝食!」
「その分、値段が高いからね」
「す……すみません」
「いやいや、いいんだよ。これからは俺の部屋で働いた金で毎日この朝食が食べれるぞ?」
「本当ですか!」
「ああ、もちろんだ」
そう……これからロレンスは俺の部屋で女性に淫夢を見せて商売をする。
どれだけの金になるかはわからないが、仲介もなく全額がロレンスに入るんだ、それだけでいい値段が懐に入ってくるだろう。
そんな事を考えているとまーちゃんとフェリスが下りてくる。
「何の話をしてるの? また悪い話?」
「ゆーくんが話す事はいい事なのん」
「人聞きの悪い事いうなよ、まーちゃん……」
フェリスは俺の横にチョコンと座り、まーちゃんは対面のロレンスの横に座る。
そしてウェイトレスを呼び、注文をする。
「朝食は俺の驕りだけどこれからは自分で稼いだ金で好きな物を食べろって言ってたんだよ」
「ふーん」
「僕、がんばりますね」
「まぁがんばりなさいな」
「それでなんだがな――俺達はそろそろ別の場所に引っ越さないか?」
「は? 何言ってるの?」
「ゆーくん、ちょっと意味がわからないのん」
「いやさ、インムちゃんとロレンスが部屋に来て少々手狭になってきただろ? そろそろ一軒家でもほしいかなと思ってさ」
「そうね……部屋は――何室くらいがいいかしら? 執事もほしいわね」
「セバスみたいなできた執事は生涯見つからないとは思うが……」
「うちがセバスの代わりになるのん!」
「フェリスはロリ枠……もしくは嫁枠だから執事枠には入れません」
「むぅ、残念なのん」
そんな会話をしながら朝食を食べ終える。
そしてロレンスは部屋へ帰り、俺はまーちゃんとフェリスを誘い家を探す事になった。
その前に一言、冒険者組合の受付に言っておくべきだろう。
そう思い受付へと足を進める。
「よぉ、受付嬢。今日も元気そうだな」
「はい、勇者様。今日はどんなクエストをご所望ですか?」
「いや違うんだ……今日はそんな事じゃないんだ」
「へ?」
「今日は家を探そうと思ってな……」
「え? え? ですが勇者様一行はあの部屋の宿泊費を無期限で免除されていますが……」
「それがな……」
最近あった事をありのまま正直に話す。
「ですが……なにかあった時に勇者様に頼れなく――」
「頼らないでくれ、むしろこの冒険者組合には頼りになる冒険者は腐るほどいるだろ?」
「それはそうですが……」
ぷくっと頬を膨らます受付嬢は少し可愛らしく思えた。
「大丈夫だ、なにかあればすぐ駆けつける。それよりいい家知らない?」
「いい家……ですか」
「一軒家で部屋が三つ程、居間には暖炉が欲しいかな……少し小さくても構わない」
「賃貸ですか?」
「できれば買取でお願いしたい」
「ふーむ、私ではわかりかねますね……。不動産屋が近くにあるので、そこで聞いてもらえれば……」
「不動産屋か……わかった。そこで聞いてみるよ」
「最後に確認なんですが……ちゃんとここには来ますよね?」
「当り前だろ? 俺と受付嬢の仲じゃないか」
「どんな仲ですか! 全く……」
俺は「ハハッ」と軽く笑いその場を離れる。
そしてまーちゃんとフェリスのところに戻り、不動産屋なるところに行く事にする。
冒険者組合のドアを開け左右を見渡すが、不動産屋は見つからない。
まぁ通行人にでも聞きつつ行けば見つかるだろう。
不動産屋を見つけたのは冒険者組合を出て一時間ほどしてからだ。
なぜこんなに時間がかかったのか――簡単な事だ。
通行人に聞きつつ、のんびりと歩いているとまーちゃんが「ちょっとこの店気になるわ!」と言い店の中に入っていってしまうのだ。
そして一通り見終わり外に出てまた数分すると同じ事を言い店の中に入っていく……を数度繰り返したためだ。
全く……フェリスなら子供だからわかるがまーちゃんは少し自重してほしいものだ。
不動産屋の扉を開けると他の店と同じくカランと鈴の音を鳴らし来客を知らせる。
「いらっしゃいませ~」
受付に座っていたのはカールがかった紫色の長い髪をした女性だった。
瞳は綺麗なアメジストを思わせる紫色、年齢は――三十代前半だろうか……。
すごく落ち着いており大人の香りを醸し出している。
「あの……今日は家を探してるんですけど」
「ええと……三人家族ですか。綺麗な奥様ですね」
「え?」
俺は辺りを見回す……当然まーちゃんとフェリスしかいない。
フェリスの頭を撫でつつ受付のお姉さんに言う。
「ああ、この子供ですか。確かに将来は俺の嫁候補ですけどまだ成長途中ですよ」
「いえ、そちらではなく……」
受付のお姉さんがチラリと見たのはまーちゃんだった。
それに気づいたまーちゃんと俺は――
「「それはないわ」」
同時に放った言葉に受付のお姉さんはクスリと笑う。
「兄弟か何かかしら?」
まーちゃんと俺は顔を見合わせ――
「「それもないわ」」
なぜこうも息が合ってしまうのか……四百年一緒に住むとやはり息が合うと言う事だろう。
そうとも知らず、少し驚いた顔をする受付のお姉さんにどういったものかと考え一つの答えに辿り着く。
俺はクイと親指をまーちゃんに向ける。
「俺にとってこいつは相棒かな」
「相棒……ですか」
「ああ……普段は頼りないが、いざという時には頼りになる相棒というところか……」
「な、なによ! 恥ずかしいわね!」
まーちゃんを見ると、顔をほのかに赤くし店に積んであった本に膝を掛けようとして本のバランスを崩し倒れ込む。
それを見た俺は受付のお姉さんに視線を向け――
「すまん、相棒というのは嘘だ。ただの仲間だ」
「ちょっと! 何よそれ!」
まーちゃんの怒った声を無視しながら続ける。
「ところでいい家ないかな? ええと、お姉さんの名前は……」
「フェイロンよ」
「ちょっと! 聞きなさいよ!」
「まーちゃんは少し黙っててくれ」
「相棒の言う事聞かないわけ?」
「すまん、相棒というのは嘘だ。ただの仲間だ」
「な……何よそれ!」
「大体俺達は敵対者だろ? 勇者と魔王、確かに長い付き合いだが相棒はないだろ?」
「そう……ね。確かにそうかも……」
何てちょろいんだろうかこの魔王は――
「それでフェイロンさん」
「フェイロンでいいわよ」
「フェイロン、いい物件はないかな?」
「どんな物件をお探し?」
その後はフェイロンと色々話し合い、条件が揃っている物件がないかを聞いたり、間取りが描かれた図面を見せてもらったりと有意義な時間が過ぎた。
外を見るとすでに茜色になっていた。
「そろそろ今日は帰るよ」
「ええ、いい物件があったならいいけど……」
「考えておくよ」
俺はフェイロンに笑顔を向ける。
確かに条件に近い物件はいくつもあった……ただ金が足りない。圧倒的に――
そりゃそうだろう。
一軒家を買うんだ。
しかも王国内で……裏路地の小さな簡素な家なら安いが自然災害等を予想しせめてレンガ作りの家にしたいので金をまず貯める必要がある。
目安になる金額は大体わかった……それが今日の成果でもある。
不動産屋を出て背筋を伸ばす。
「さて、冒険者組合に帰るか!」
その言葉を待ってました! と言わんばかりにまーちゃんとフェリスが駆けだす。
俺もその後を歩きながら追う。
冒険者組合に到着し扉を開ける。
カランと響きのいい鈴の音を聞きながら扉をくぐると、そこにはハーレムのような光景があった。
女性だけがいつもの三倍はいるのだ。
そして、その女性達は俺の部屋へと行列を作っていた。
「どういう事だ?」
俺は自然に言葉が漏れていた――




