第六話 『臆病者』が邪魔をするみたいです。
「どうしたんだ? 汗が尋常じゃないぞ?具合でも悪いのか?」
「天野君? どうしたんですか?」
汗を滝のように流している俺に、竜樹と舞ちゃん先生が心配そうに声をかけてきた。
「い、いやあ!? ただ俺だけこんなレベル上がってたら、何か皆に悪い気がしてなあ〜あははははー……」
俺は咄嗟に苦しい嘘をついて早々に歩き出した。視線も泳いでただろうし、これはもう駄目なんじゃ……
「……そうか。まあお前がそんなに気にする事では無いだろう。偶々経験値の多いのを倒していたのかも知れないだろう? その辺はよく分からないが」
「生徒の成長は教師としてとても誇らしいです!あれ? でも私より強いなら私が守る必要は? あれ?」
竜樹は少し間を空けて、舞ちゃん先生は(自分で勝手に)困惑しながらも、俺の言う事を信じてくれてまた一緒に歩き出した。あれ? 俺が心配し過ぎただけなのか?
「そういえば先生、先生のステータスって俺知らないんですが、気になるので見せてもらっても良いですか?」
「うぅ〜……あ! は、はい、良いですよ?えい!」
大樹は何故か、急に話題を舞ちゃん先生のステータスの方に持っていった。まあ俺としてはありがたいのだけど。
そして当の本人は、必要もないのに可愛らしい掛け声をあげてステータスプレートを出現させた。
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種族:人間 Lv.1 職業:勇者
名前:辺見へんみ 舞まい
体力:88/38(+50)
魔力:84/84
筋力15(+50)
耐久力:30(+50)
知力:82
持久力:25(+50)
魅力:SS
《スキル》
フリー枠残り 八個 取得可能スキル一覧▼
【火魔法X】【水魔法X】【風魔法X】【身体強化Ⅰ】
《固有スキル》
【絶対の三元素】
《称号一覧》
【教師】【ロリータ】
【永遠の若さ】【美幼女?】【異世界人】
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「知力が高いですね。知力は……RPGで言うと、魔法の威力に関わるステータスですね。スキルに既に魔法がありますし、先生は魔法使いが向いているんじゃないですか?」
竜樹が、舞ちゃん先生のステータスを見て、素早く分析をした。こいつはこういうのも昔から得意だったよなぁ。
「魔法使い、ですか? うーん、魔法の使い方はルミリアさんがーー
『通常、人間は魔力を丹田に貯蔵しています。魔力があるかどうかは、そこに意識を集中すれば分かると思います。魔法は、その魔力を、発動したい場所ーー基本は身体の一部なのですが、上達すれば空間へ集める事も可能ですーーへ集めて、魔法のイメージを固めて、放つのです』
ーーて、言っていたんですが……魔力を感じるまでは出来るんですが、魔力が動かしにくくて発動する以前の問題なんです……」
「え、それ聞いてない」
あの時、話全然聞いていなかったから魔力とかどうやって使うんだよとか思っていた。すんませんルミリアさん。じゃあ俺も一応魔法は覚えてるから、魔力を扱えるようにならないとな。
えっと、丹田って臍の下あたりだよな。こうか?…………あっ、何かあるぞ? これが魔力か? 動かせるかな? ふん………くぅ、動かない。難しいどころの話じゃないよ舞ちゃん先生。
「舞ちゃん先生、魔力ってどうやって動かしたの? 俺全然動かないんだけど」
「へ? 動いて〜、と思っていたら動いてくれましたよ?」
「……そうなのかぁ」
うーん、こういうのも才能とかが関わっているのだろうか。知力も魔力も多いのになぁ。
なんて俺が考えてると頭の中にポーンという音がして、俺はつい「うおっ」と言ってしまい二人に心配された。それに軽く応対していたら、勝手にステータスプレートが出てきた。
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*本人以外不可視状態
固有スキル【自己進化】が発動しました。
尊は【魔力完全操作】が出来るようになりました。
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……マジかよ。俺の固有スキル、予想以上にヤバいんじゃないか? 今まであんまり気にしてこなかったけど、【自己進化】ってこういうことだったのか。
よ、よし。試しにもう一回魔力を動かしてみよう……。
…………動く、かなり動く。自分の手足のように簡単に動かせるぞ。
まさか俺の固有スキル【自己進化】がこんな風に作用するとは思わなかった。
「天野君? また黙ってどうしたんですか? ど、どこか怪我してるんじゃ……」
舞ちゃん先生が、また黙ってしまった俺を見て一人で慌ててるのを見て俺は落ち着いた。
まあ、なってしまったことは仕方がないんだ。それに魔力が自由自在に動かせるようになったのは嬉しいことだ。
「いや、なんでもないよ舞ちゃん先生。心配してくれてありがとう」
「いえ、大丈夫なら良いんです……あの、無理はダメですよ?」
「分かってるよ、でも舞ちゃん先生を守る時くらいは無理させてもらうよ」
「もう! まだそんな事を言ってるんですか……」
俺の軽い冗談でもないがで舞ちゃん先生もやっと笑顔になった。やっぱり舞ちゃん先生には笑顔でいてほしい。
「おっとそうだ、今はダンジョンの中だった。もう皆どっか行ってるし、早く追いつかなきゃな」
「やっと思い出したか。どれだけここで時間かかったと思ってる」
「悪い悪い。じゃあ行くぞー」
「だからお前はもう少し緊張感を持て……」
竜樹の声は聞こえないふりをして、俺は先へと向かった。
◇◇◇◇◇
「う〜ん、皆どこいったんだ? 全然追いつけないぞ?」
「可笑しいな……道は一本だからすぐ追いつけると思ったんだが……」
「はうぅ〜皆さんは大丈夫でしょうか〜……」
偶に出てくるスライムを倒しながらなるべく速く進んで行ったが、何故かクラスの皆の姿が見えない。耳を澄ましてみても足音はしない。まさかとは思うが、何かあったんじゃ……
「あららぁ〜まぁだいたのかぁ〜でもたった三人かぁ〜なら簡単だねぇ〜」
「「「っ!!」」」
急に俺達の”下から”声がした。俺達はすぐに下を確認した。そこにはーーー
「はろぉ〜今回の勇者さん。僕はリリノイズ。一応魔王軍の【柔】って呼ばれてるんだよぉ〜。他の勇者さん達には”沈んでもらった”よぉ〜。僕は優しいから、君達も同じところに行かせてあげる〜」
上半身は、ただの裸の優男といった感じの見た目だが、下半身は……地面に埋まって……いや、地面と一体化している。明らかに普通の人間じゃない。
「な、何だよお前! 魔王軍って、何でこんなところにいんだよ!」
「いやぁ〜ただ魔王様がねぇ〜君たちが召喚されたことを『予知』してたんだよぉ〜。だからちょっと前からここに僕はいたって訳さぁ〜。僕って働き者だねぇ〜」
「よ、予知ってどういう事だよ……」
竜樹と舞ちゃんは完全に動けないでいたが、俺は驚きはしたが何とか声は出せた。だが、こいつから発せられる謎の雰囲気に呑まれて足も手も動かない。
「それじゃあ〜、さっさと”沈んで”もらうよぉ〜。『融解とけろ。液化ゾル』」
奴ーーリリノイズが何かを唱えた途端、俺達の立っていた地面が”溶けて”いった。
「っ! 地面がっ!」
「ふえぇ〜! ど、どうなってるんですかぁ〜! どんどん足が埋まっていっちゃいます〜!」
「竜樹! 舞ちゃん先生!」
二人は足を何とか抜こうとするが、全く動かずどんどん沈んでいく。俺は直感的に、俺は足を抜こうと思えば抜けるだろうと思った。だが、何故か身体が震える。自分でも異常と分かるほどに震えている。何故震えているかはすぐに分かった。俺は”怯えている”んだ。
この自分を魔王軍と言った何者かに。自分でも何故こんな、見た目からして怖くもなんともない奴に怯えているのかが分からない。
そして、俺は怯えたまま何も出来ず、こちらに『いってらっしゃーい』と手を振る相手を睨みつけながら、二人と一緒に沈んでいった………
【火魔法】…火系の魔法を扱えるようになるスキル。レベルは他の魔法と同様。
【水魔法】…水系の魔法を扱えるようになるスキル。
【風魔法】…風系の魔法を扱えるようになるスキル。
【絶対の三元素】…火、水、風の魔法をレベルXの状態で覚える。更にこの三魔法を使う時のみ消費魔力半減。辺見舞の固有スキル。
【教師】…ものを教える事を生業とするものに与えられる称号。レベルアップ時、知力のステータス上昇値が上がる。
【ロリータ】…幼い見た目の女性に与えられる称号。体力、筋力、耐久力、持久力のステータス上昇値がかなり下がる。
【永遠の若さ】…いつまでも若々しい見た目を保っているものに与えられる称号。魅力の値が少し上がる。
【美幼女?】…美しい容姿の幼女?に与えられる称号。魅力の値がかなり上がる。
おまけ
誰もいない、静寂に包まれたダンジョンの中で、リリノイズは近くを通りかかったスライムに話しかけた。
リリノイズ「ねえ君ってさぁ〜、ドロ〜っとしててどこか可愛いところは僕に似てると思うけどさぁ〜、僕と違って自由で良いよねぇ〜。一回だけでもいいから僕と立場変わってよぉ〜」
スライム「プルプルッ(困惑しているように震える)」
リリノイズ「もぉ〜つれないなぁ〜。………そういえば、さっき沈めた中の一人も君めたいに震えてたねぇ〜。魔王様は確か、今回は真の勇者も呼び出されてる筈だって言ってたけどぉ〜あの子じゃないよねぇ〜。見るからに臆病な雑魚だったしぃ〜」
リリノイズはそんな事を言いながらスライムをつつくのだった。




