第五話 訓練始めました。
俺の、異世界二日目の朝はセレナさんに起こされて始まった。朝日が眩しい。何だか、異世界に召喚されて、勇者様と美少女に告げられて、実は自分は伝説的な存在だったりした事が全部夢だったかのような、そんな気分だ。まあそんな訳も無いんだが。
「尊様、朝です。起きて下さい」
「……うーん。……おはよセレナさん。起こしてくれてありがと」
セレナさんが扉の近くに立ったまま、俺にお辞儀をして挨拶してくれた。こんな美少女を朝から拝めるなんて俺は幸せだな〜。あ、胸の谷間見えてる。セレナさん結構あるな……
「いえ、これも仕事ですから。それより尊様。本日の朝食が終了しましたら謁見の間にお越し下さい、とルミリア様から、勇者様に伝えるようお言葉を頂いています」
「ん? あ、ああ分かった、ありがとう」
セレナさんは俺の胸への視線に何を言うでもなく無表情で言葉を返した。それに対し俺は胸に視線を集中させていたため少しどもりながらも、返事をしてベッドを出た。
余談だが、俺が服を着替えようとしたらセレナさんが『私がやります』と言ってきたのだが、勿論キッパリと断っておいた。女の人に裸はやっぱり見られたくないよね。
◇◇◇◇◇
異世界の朝ごはんは、中が白いふかふかのパンとビーフシチュー(のような見た目の別物)と紅茶だった。最初は、地球と変わんないんだなと思ったが、食べてみたら地球のものより遥かに美味しくてビックリした。クラスの皆もこの味に驚いていた。お代わりOKだったから何度も食べてたやつもいた。この美味しさは王宮の中だからなのか、異世界の食材のレベルが高いのかは分からないが兎に角美味かった。
「皆さん、着きました。ここが『ダンジョン』です」
昼食は何かなーと考え始めたところで、ルミリアから俺達に声がかかった。今、俺達勇者組は王宮からも城下町からも離れた場所の森の中にいる。何故こんな場所にいるのか、それは朝食後にルミリアが俺達を謁見の間に集めたことが関係している。
ーーー朝食後ーーー
「勇者様方には、『ダンジョン』という場所で訓練を行おこなってもらいます」
謁見の間に集まった勇者達を見てルミリアは言った。それを聞いたクラスのみんなの反応は『ダンジョンって?』と首を傾げるのが大半だったが、『流石異世界』と興奮する者がごく少数だがいた。
「ダンジョンとは、簡単に言えば魔物が無限に出てくる迷路です。魔物とは、魔力を持つ動物の事です。基本的に凶暴で、人を襲います。そして倒すと経験値が手に入り一定値に達するとレベルが上がります。これが今回の目的です。レベルが上がればステータスの値が上がり強くなれますので。因みに、ダンジョンにはダンジョンコアというものがあり、それを破壊すれば魔物は出てくることは無くなり、ダンジョンは機能しなくなります。今回はレベルを上げるのが目的なので、コアを破壊する必要はありません」
結構地球のイメージそのままなのか。レベルアップって、ステータスプレート見た時から思ってたけど、ゲームっぽくて現実味がないなー。
「ちょうど最近発見されたダンジョンがそう遠くない場所にありますので、私の案内でご同行ください」
そして俺達はルミリアの案内で歩き、現在に至る。
◇◇◇
「薄暗いなぁ〜、このダンジョンって洞窟っぽいから、殆ど中に光入ってこないんだよな。松明があるからいいけど」
「尊、お前って確か暗い所駄目なんじゃなかったか?」
「なんだ竜樹。まるで俺が臆病者みたいな言い草じゃないか」
「ん? 違うのか? 夜寝る時、電気つけたままじゃなきゃ寝れないとか言ってただろ?」
「それは中学までの話だからな。 今はもう少し暗い照明でも寝れるようになったんだ。俺だって成長するんだ」
「いや、それたいして変わってないからな」
こんな感じで談笑しながら、俺達勇者はダンジョンの中を進んでいた。ルミリアによるとダンジョンというのは最初のところは魔物は出てはこないらしく、ある場所から先が魔物の出現が確認できるらしい(原因は分からないらしいが)。だからそこに着くまでは気張らなくていいとのことだ。
あ、因みに俺と会話してる奴は新妻 竜樹。唯程じゃないが長い付き合いのある友人だ。よく俺の言った言葉に一々ツッコミを入れてくるが、まあ悪い奴じゃない。
「それに、ここには俺以外にも人がいる。それだけで俺は怖くない!」
「格好良さは微塵も無いぞそれ」
「ぐぬっ」
「ーーー皆さん、ダンジョンゲートに着きました。ここからは皆さん、事前に腰に差した剣を抜いておいて下さい。使い方は、すみませんが戦いの中で覚えてください。勇者様は何事にも才能が溢れた存在と言い伝えられていますのできっと大丈夫だと思うのですが」
何か適当だな、こういうとこは。 おれはそう心の中で愚痴りながら、左の腰に差した剣を抜いた。そして俺は剣の表面を何となく、まじまじと見てみた。 よく手入れされていて、俺の顔が鏡のように映っている。地球では何回か木刀や模造刀を持ってみたりしたが、重量感が全く違う。こんな物を昔の戦士は降ってたのか、凄いな。
………俺は、これから生き物を殺さねばならないんだよな……出来るのか? 俺に。
「おい、大丈夫か? 急に顔色が悪くなったぞ。もしかして、大怪我するかもってビビってるのか?」
竜樹が少し笑った声で尋ねてきた。 そうだ、此奴は昔から肝の据わった奴だったな。お化け屋敷に行っても、「何が楽しいんだ? このアトラクションは」とか言いながら平然とした様子で出てくる奴だ。 俺はそんな親友の今の顔を見て少し心を落ち着かせて笑いかけた。
「ああ、確かにビビってるよ。でもそんな理由じゃなくてさ、生き物を殺すなんて初めての経験だからな。 地球じゃあり得ないような今の状況に怯えてるんだよ」
「……そうか。 まあ、俺はこの状況が逆に楽しくて仕方ないけどな。 俺達は勇者だぞ? こんなゲームな世界を楽しまなくて、いつ楽しめっていうんだ。 あんまり煮詰まるなよ。お前らしくもない」
俺らしくない、ねぇ……俺らしさなんて俺自身も分からないんだけど。 でも、竜樹の言葉でさっきよりも心が軽くなったな。 流石長年一緒にいただけはあるな。
「……ありがとうな。少しは軽くなったよ、軽くはな」
「少し、か。 それでも軽くなったんなら良いんじゃないか?」
「そうだな……………あ! 舞ちゃん先生ぇ〜、俺と一緒に行こうよ〜! 俺が守ってあげるからぁ〜!」
俺は舞ちゃん先生を見つけて、そちらへ手を振りながら走っていった。
「もう! 舞先生って呼びなさい! それに子供のような扱い はやめて下さい!……でも一緒に行ってもいいですよ? 天野君が心配ですし」
「おお〜舞ちゃん先生が俺の心配してくれるなんて! 嬉しいよ俺は……」
「ふぇ!? 何で泣くんですか天野君!?」
この二人のやりとりを見ていた竜樹は心の中が、『いつも通りすぎて、異世界に来たという緊張が無くなってくるな』と一人呆れていたのは言うまでもないだろう。
「じゃあ舞ちゃん先生、そろそろ行こう」
「は、はい。 私が天野君達生徒を守ってみせます!」
いつも通りのやりとりを終えて、舞ちゃん先生も一緒にダンジョンを進むことを了承した。よしよし。
舞ちゃん先生は、見た目相応の平たい胸の前でグッと拳を握った。とても可愛らしい。可愛らしいのだがーー
(守られるのは舞ちゃん先生の方だと思うけどねぇ)
別に舞ちゃん先生を日常的に愛でている生徒は俺だけじゃない。彼女を知る者の殆どは舞ちゃん先生を慕っている。それは勿論、このクラスの皆も含まれている。そりゃあ子供みたいな愛らしい見た目と、優しく純粋な心を持っていたら、まず嫌われないだろう。
その証拠に、さっきから周りの生徒達はチラチラと舞ちゃん先生に視線を送っている。いざとなったら此処にいる全員が周りちゃん先生の盾になるだろう。そう思わせる程の強い視線だ。本人は「頑張るです!」と意気込んでいて気づいていないが。
「おい尊、一人で先に行くな。 あ、先生。こんにちは」
「あ、新妻君、おはようございます」
「おい竜樹! 竜樹もちゃんと舞ちゃん先生を守るんだぞ! 」
「はいはい分かってるよ。 ほら、扉開いてるぞ。もう皆入っていってる。ほら行くぞ」
「よし! 舞ちゃん先生!俺の後ろに隠れててね! 俺が守るから!」
「わ、私が皆を守るんですからね!?」
「元気になりすぎだろう……お前」
俺達三人はギャーギャー騒ぎながら、扉を潜った。
◇◇◇
「……ふっ! とりゃっ! どっせーい!」
「えいっ!ふんっ! ……ふぅ」
「…ふっ! …はっ!…ふっ!」
最初の心配は何だったのか、俺達は順調に進んでいた。出てくるのは青いスライムとか赤いスライムとか黄色いスライムとかばかりで(何でこんなカラフルなんだろうか)、皆躊躇うこと無く剣を振っていた。 因みに剣を振りながら出たこの声は上から俺、舞ちゃん先生、竜樹だ。
「ふぅ……あんまり強いの出ないな。しかもゴブリンとか生き物らしい敵が全く出ないのが意外だ」
「うぅ……、スライムさん達に申し訳ないですぅ……」
「そんな事言っていたら、生徒達を守る事は出来ませんよ先生。もっと心を強く持ちましょう」
「そ、そうですね! 私は生徒達を守るんです!」
「いや、俺が舞ちゃん先生を「お前は少し黙ろうか」……ぐぬぬ」
俺が喋ろうとしたら竜樹のヤツに阻まれた。何故だ。皆思ってる事なのに。
「それより、今迄のでどれ程レベル上がったんだろうな。レベルアップの時に音とかなれば分かるんだが」
「かなり倒したからなあ、七十匹位か? これくらい倒せば、最初だから上がると思うんだけど……」
俺は心で『ステータス』と念じてみた。どれどれ……
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種族:人間♂ Lv.5 職業:真の勇者(勇者)
名前:天野 尊
体力:350000/350000
魔力:480000/480000
筋力:250000
物理耐久力:300000
魔法耐久力:230000
知力:220000
持久力:360000
魅力:F
《スキル》
フリー枠残り 二個 取得可能スキル一覧▼
【剣術Ⅲ】【槍術Ⅰ】【盾術Ⅰ】【鑑定Ⅰ】【気配察知Ⅰ】【偽装Ⅱ:ON】【光魔法Ⅰ】【回復魔法Ⅰ】
《固有スキル》
【自己進化】
《称号一覧》
【世界の救世主】 【鈍感】
【異世界人】
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………………え? え、え、何これ?おかしくない? レベルはいいと思う。七十匹も倒せば最初だからこのくらいは上がるだろう。だけど、ステータスの上がり方がおかしい。桁が一二三、四桁も増えてる。え、これってレベルが一上がると一桁増えるの? これか? この職業の所為なのか?
実際は、スライム七十匹を倒したとしてもレベルが四も上がる事はありえないのだが、ステータスの上がり方の方が衝撃的で、尊はそこまで考えが回らなかったようだ。
「……る、尊! どうした? ボーッとして」
「っ!? あ、ああ……レ、レベルが四も上がっててちょっと驚いたんだよ」
「凄いな、俺は一つも上がってないぞ。同じ位の数倒した筈なんだが、何が違うんだろうな」
「へ!? ひ、一つも!? 上がってないのか!?」
「ああ、先生も上がっていないようだし、見た感じお前しかレベルは上がってないんじゃないのか?」
ま、マジか……レベルアップのスピードまで違うのか……俺、もしかして本当にチートな存在なのか!?
さっきより更に多くの汗を流しながら、尊はこのステータスが隠しきれるのか、不安を募らせるのだった。




