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「今日は焼き魚? 肉が良かったなぁ」
冬也が場の空気を変えようとして墓穴を掘った。
「嫌なら食うな」
吐き捨てるように言う父親の顔を見ながら、冬也がポリポリと頭をかいた。
「父さん……冗談じゃないか。いやぁ、旨そうだ。さあ食べようよ。腹が減った」
しかし誰も動かない。
箸を掴んだ手を止めて、冬也が全員の顔を見回した。
「どうしたの?」
いきなり母親が立ち上がった。
「冬也、安藤小夜子さんがあなたの子供を産んだってどういうことなの?」
冬也の顔色が一瞬で青ざめた。
「和音……お前……」
シレッとした顔で和音が吸い物椀を持ち上げる。
握り締められた父親の拳を見て、冬也が椅子からずり落ちた。
「それには……事情があって……」
誰に言われたわけでもないのに、その場で正座した冬也の肩が震えていた。
和音は香ばしい匂いを放つ銀鱈の西京焼きを箸先でほぐしながら、義父と義母に言った。
「せっかくですから冷めないうちにどうぞ。我ながら上手に焼けていると思いますよ」
引き攣った顔のまま義母が箸を握る。
冬也を睨みつけていた義父が、低い声を出した。
「お前も早く食え」
冬也がのろのろと椅子に座り直す。
チラチラと和音を盗み見ているが、当の和音は一切視線を向けなかった。
ビールのグラスが汗をかいてテーブルを濡らしている。
それを見た和音は勿体ないなと思った。
「お義母さん、日本茶にします? それともコーヒーを淹れましょうか」
大きなため息を吐いただけで、義母は返事をしなかった。
「日本茶にしてくれ」
代わりに答えたのは義父だった。
「はい」
よっこらしょと小さく声に出しながら、和音が立ち上がる。
ついて行こうとする冬也に義父が鋭い声を出した。
「お前はこっちに来い」
冬也は数秒目を瞑ってからのろのろとリビングへ向かった。
「ごめんなさいね、和音さん。身重だというのに……あの子……」
食器を持って来た義母が赤い目をしたまま和音に言った。
「そうですね。本当はぶん殴って蹴り飛ばしてやりたいくらい腹が立っています。でも、胎教に悪いでしょう? だから我慢しています」
義母が頭を下げた。
「本当に申し訳ないわ……私が代わりにぶん殴って、蹴り飛ばしてやりましょうね」
和音が笑顔で義母を見た。
「お義母さんの手が心配ですよ。私は大丈夫ですから」
和音は食洗器のスイッチを入れて、テーブルを隅々まで拭き上げた。
「終わったのならこっちに来なさい。和音さんも来てくれ」
義父の声がリビングから聞こえる。
不安そうな顔の義母に頷いて見せてから、急須と茶碗を盆に乗せた。
「お待たせしました」
義父も冬也も何も言わない。
ソファーではなく床に正座している冬也を見て、和音は小さく肩を竦めた。
「説明しなさい」
義父の重々しい声が冬也にぶつかる。
義母はハンカチを皺くちゃになるほど握りしめたまま、じっと俯いていた。




