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 6

 それからというもの、冬也は毎日早く帰宅してくるようになった。

 しかし金曜と土曜の行動だけは相変わらずだ。

 出張だという噓を貫こうとしているのだろうが、和音にとってはもうどうでもいいことだった。

「洋子かぁ。それにしても古風な名前よね」

 調査会社からの報告によると、小夜子の子は洋子と名付けられ、すくすくと育っているらしい。

 冬也は昼休憩の時間を利用して小夜子に会いに行っているようで、食料品や日用品が入った袋を両手に、マンションに入って行く写真が何枚も送られてきていた。

「バカな男」

 それを封筒に戻していた時、玄関チャイムの音がした。

「ようこそ。お義父さんもお義母さんも。御足労いただき申し訳ございません」

 冬也の両親がニコニコしながら立っている。

「和音さんは身重なんだ。悪いのはこちらの方だよ。なかなか来られなくて申し訳ないね」

 義父の言葉ににっこりと微笑む和音。

「順調そうね。入院したって聞いたけれど大丈夫なの?」

「はい、少し貧血気味だったみたいです。大事をとって入院しただけで、大きな問題ではありません」

「そう、それなら良かったけれど。冬也は?」

「もうすぐ戻ってこられると思います」

「土曜日だというのに、臨月の妻を置いて何処に行ったんだ?」

「え? 出張だと聞いておりますが。もう一年以上、毎週金曜と土曜は視察だそうですよ?」

 義父母が顔を見合わせる。

「そうなのか? 私は会長職といっても、もう手を引いているからね。社長がそう指示をしているのかもしれない」

「お義兄さまが? 冬也さん以上にお忙しいでしょうから、そうかもしれませんね」

 和音の声に、義母が慌てて言う。

「あなたが物わかりの良いお嫁さんで良かったわ。冬也も幸せものね」

 和音が二人をリビングに招き入れた。

「食事は簡単なものですが準備しています」

「お腹が大きいのに大変だったでしょう? お寿司でもとれば良かったのに」

「いえ、悪阻の時は本当に苦しくて大変でしたが、今はもう大丈夫ですから」

 義母が顔をほころばせた。

「そうそう、あなたが悪阻の時は冬也も心配してね。何度も私にどうすればいいか聞きに来たのよ」

「え? 冬也さんがですか?」

「ええ。悪阻にしては随分早いなとは思ったけれど、そういう人もいるらしいし。あれは効いたかしら? ほら、冷やしたタオルにレモンを絞って顔に乗せる方法」

「何のことでしょう? 存じませんが」

「まあ! 冬也ったら伝え忘れたのね。わざわざ聞きに来たから、私の秘伝を教えたのに。困った子ね」

 和音がクスッと笑った。

「きっとそれは他の方のためだったのでしょうね。冬也さんって本当にお優しいから」

 義父母がまた顔を見合わせた。

 気まずい空気が流れる。

 何事もなかったように、和音はキッチンへと向かった。

 コソコソとリビングから話し声が聞こえる。

 以前だったら聞き耳を立てたかもしれないが、今となってはどうでもいい。

「ただいま……あれ? お客さま?」

 玄関から冬也の声がした。

「お帰りなさい。お義父さんとお義母さんがいらしてるわ」

「なぜ?」

「なぜって、本気で聞いている?」

「……」

 それ以上答えず、和音は大きな腹に手を当ててキッチンへと戻った。

「おかえり、冬也。今日はどうだったの?」

「あ……いや、別に」

 母親の声に戸惑うような表情を見せる冬也。

「冬也、そこに座りなさい」

 父親が低い声を出した。

「……先に着替えてくるよ」

 逃げるようにリビングを出る冬也を横目で見送りながら、和音は料理を並べていく。

「おいしそうな銀鱈がありましたので、西京焼きにしてみました」

 場を取り繕うように義母が声を出す。

「まあ! 私の大好物よ」

 義父は冬也の消えたドアを睨みつけたままだ。

「お義父さん。安藤さんって方ご存じですか?」

「え? 安藤? 安藤なんという人だね?」

「私が知っているのは小夜子という方です。安藤小夜子さん」

 少し考えてから義父が首を横に振った。

「知らないな……幾つくらいの人だろうか」

「三十にはなってないかな? というところです」

 義父が和音の顔を正面から見た。

「その人がどうしたの?」

 和音がなんでもないように言う。

「その方が冬也さんのお子を産んだそうです。女の子ですって」

 二人が息をのんだ。

「え……だって……冬也の子は……」

 義母が和音のお腹を見た。

「ええ。この子より二か月ほどお姉ちゃんですね」

 冬也の部屋のドアが開いた。

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