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それからというもの、冬也は毎日早く帰宅してくるようになった。
しかし金曜と土曜の行動だけは相変わらずだ。
出張だという噓を貫こうとしているのだろうが、和音にとってはもうどうでもいいことだった。
「洋子かぁ。それにしても古風な名前よね」
調査会社からの報告によると、小夜子の子は洋子と名付けられ、すくすくと育っているらしい。
冬也は昼休憩の時間を利用して小夜子に会いに行っているようで、食料品や日用品が入った袋を両手に、マンションに入って行く写真が何枚も送られてきていた。
「バカな男」
それを封筒に戻していた時、玄関チャイムの音がした。
「ようこそ。お義父さんもお義母さんも。御足労いただき申し訳ございません」
冬也の両親がニコニコしながら立っている。
「和音さんは身重なんだ。悪いのはこちらの方だよ。なかなか来られなくて申し訳ないね」
義父の言葉ににっこりと微笑む和音。
「順調そうね。入院したって聞いたけれど大丈夫なの?」
「はい、少し貧血気味だったみたいです。大事をとって入院しただけで、大きな問題ではありません」
「そう、それなら良かったけれど。冬也は?」
「もうすぐ戻ってこられると思います」
「土曜日だというのに、臨月の妻を置いて何処に行ったんだ?」
「え? 出張だと聞いておりますが。もう一年以上、毎週金曜と土曜は視察だそうですよ?」
義父母が顔を見合わせる。
「そうなのか? 私は会長職といっても、もう手を引いているからね。社長がそう指示をしているのかもしれない」
「お義兄さまが? 冬也さん以上にお忙しいでしょうから、そうかもしれませんね」
和音の声に、義母が慌てて言う。
「あなたが物わかりの良いお嫁さんで良かったわ。冬也も幸せものね」
和音が二人をリビングに招き入れた。
「食事は簡単なものですが準備しています」
「お腹が大きいのに大変だったでしょう? お寿司でもとれば良かったのに」
「いえ、悪阻の時は本当に苦しくて大変でしたが、今はもう大丈夫ですから」
義母が顔をほころばせた。
「そうそう、あなたが悪阻の時は冬也も心配してね。何度も私にどうすればいいか聞きに来たのよ」
「え? 冬也さんがですか?」
「ええ。悪阻にしては随分早いなとは思ったけれど、そういう人もいるらしいし。あれは効いたかしら? ほら、冷やしたタオルにレモンを絞って顔に乗せる方法」
「何のことでしょう? 存じませんが」
「まあ! 冬也ったら伝え忘れたのね。わざわざ聞きに来たから、私の秘伝を教えたのに。困った子ね」
和音がクスッと笑った。
「きっとそれは他の方のためだったのでしょうね。冬也さんって本当にお優しいから」
義父母がまた顔を見合わせた。
気まずい空気が流れる。
何事もなかったように、和音はキッチンへと向かった。
コソコソとリビングから話し声が聞こえる。
以前だったら聞き耳を立てたかもしれないが、今となってはどうでもいい。
「ただいま……あれ? お客さま?」
玄関から冬也の声がした。
「お帰りなさい。お義父さんとお義母さんがいらしてるわ」
「なぜ?」
「なぜって、本気で聞いている?」
「……」
それ以上答えず、和音は大きな腹に手を当ててキッチンへと戻った。
「おかえり、冬也。今日はどうだったの?」
「あ……いや、別に」
母親の声に戸惑うような表情を見せる冬也。
「冬也、そこに座りなさい」
父親が低い声を出した。
「……先に着替えてくるよ」
逃げるようにリビングを出る冬也を横目で見送りながら、和音は料理を並べていく。
「おいしそうな銀鱈がありましたので、西京焼きにしてみました」
場を取り繕うように義母が声を出す。
「まあ! 私の大好物よ」
義父は冬也の消えたドアを睨みつけたままだ。
「お義父さん。安藤さんって方ご存じですか?」
「え? 安藤? 安藤なんという人だね?」
「私が知っているのは小夜子という方です。安藤小夜子さん」
少し考えてから義父が首を横に振った。
「知らないな……幾つくらいの人だろうか」
「三十にはなってないかな? というところです」
義父が和音の顔を正面から見た。
「その人がどうしたの?」
和音がなんでもないように言う。
「その方が冬也さんのお子を産んだそうです。女の子ですって」
二人が息をのんだ。
「え……だって……冬也の子は……」
義母が和音のお腹を見た。
「ええ。この子より二か月ほどお姉ちゃんですね」
冬也の部屋のドアが開いた。




