↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

44

 そして夕方、ガラッと病室のドアが開いた。

 洋子にあやとりを教えられていた慎吾が顔を上げる。

「なにこざっぱりした顔してんのよ」

 純一を抱いた美弥子だ。

「あ、美弥子さん」

「なにが美弥子さんよ。どれだけ心配させたら気が済むの? あんたのせいで賢治も和音も帰ってこないし、私はこの子を抱えて給食係してたんだから」

「すみません……」

 美弥子が小さく息を吐いた。

「過労だって? まあ、そこまでがんばったってことよ。ごくろうさん」

「いえ、ご迷惑を掛けちゃって……どうなりました? 現場、止まっちゃいました?」

 抱き下ろされた純一が洋子に手を伸ばした。

「止まるわけないでしょう? うちの優秀な旦那さんと、あなたの相棒が奮闘してるわ。他のスタッフもみんな協力してくれているし」

「あ……俺の相棒……和音さん、倒れてない?」

「大丈夫。あの子って妙にタフなのよ。体だけは昔から」

「ははは……なんだか申し訳ないな」

「申し訳ないと思うなら、もう少し自分の健康に興味を持ちなさい。現場の監督はできるのに、自分の管理はできませんじゃ洒落にもならないわよ?」

「はい。すみません」

 洋子と純一が床に座り込んで遊んでいる。

 それを見た慎吾がぼそりと言った。

「子供達にも迷惑をかけちゃった」

 美弥子がプッと吹き出す。

「そうね、でも大丈夫。この子たちの方があなたよりよっぽど手がかからないわ」

「ははは……マジですか」

「さあ、退院の準備をしましょう。今日は我が家で栄養補給よ」

 慎吾が眉を下げながら頷いた。


「ただいまぁ」

 リビングに入ってきた賢治と和音を見て、慎吾が慌てて立ち上がった。

「あ……この度はどうも」

 純一を抱き上げながら、賢治が慎吾を見る。

「何を通夜に来た客のようなことを言っているんだよ。そんなことより体調はどうだ?」

「ええ、申し訳ないくらいに元気です」

「それは何より」

 書類ケースを抱えた和音が入ってきた。

「あ……和音さん。この度は……」

「聞こえていたからもういいわ。元気な顔になったわね。良かった……本当に良かったわ」

「うん。ありがとうね。すごく心配かけちゃった」

「ああ、必要な資料があったから、あなたの部屋に入ったわよ。賢治くんと一緒に」

「え……あの部屋に……」

 賢治が洋子を膝に座らせながら言う。

「お前さぁ、良く生きてたな。あの部屋で」

「はあ……すみません」

「デスク周り以外、全部ゴミじゃないか」

「ゴミ……ではないですが……まあ、そんなものです」

「学生の頃から住んでる部屋なの?」

「ええ、十八からずっと」

「もう少し良い部屋に住めるんじゃないか? 今のお前なら」

「そうなのですが、どうも面倒で」

 プッと和音が吹き出した。

「逆に感心したわよ。ねえ慎吾くん。本棚って本を置く場所だって知ってる?」

「え……まあ、知ってはいるけれど」

「じゃあなぜお菓子とかカップ麺が置いてあって、本は床なの?」

「ははは……面目ない」

 キッチンから美弥子の笑い声が聞こえた。

 和音がエプロンを掛けながら慎吾を見る。

「洋子に教えてもらいなさい。本のしまい方」

「はい……」

 洋子がニヤッと笑いながら慎吾を見た。

「洋子ちゃん、笑わないでよ」

「笑ってないよ? ふふふ」

 賢治の足元で純一が嬉しそうな声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。