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「では次のグループに発表してもらいましょう」
教諭の明るい声が教室に響く。
冬也はまるで自分が指名されたかのように鼓動が跳ねた。
「はい」
リーダーだと張り切っていた洋子が立ち上がる。
カタカタと椅子を鳴らして三人の少女が後に続いた。
あれはみほちゃんと呼ばれていた子だ。
となると、あれがかずちゃんか。
すぐにでも見たいのに、なぜか緊張して目が向けられない。
「メンバーを紹介します」
黒板の前で洋子が声を張った。
去年より背が伸びた洋子の顔が誇らしげだ。
冬也は確実に早まっていく心音を感じながら、まっすぐ前を向いた。
「今井みほさんと、安西かずこさん。そして山本ようこさんです」
四人が一斉にお辞儀をする。
冬也は無性に泣きたくなった。
今朝洋子が持っていた大きな袋から、厚紙で作った箱が引っ張り出される。
いつの間に漢字が書けるようになったのだろうか。
そんなことを思いながら、冬也は四人の少女をみつめていた。
「ようちゃん、そっち引っ張ってくれる?」
「うん」
ようちゃんと呼ばれた少女が、一瞬だけ保護者席に目を向けた。
そして自分ではない誰かに向かって小さく手を振っている。
冬也は慌ててその先を見た。
去年見た男の顔は忘れていない。
この一年というもの、何度も何度も思い返してきたのだから。
「え?」
捉えた先に立っていたのは、去年とは違う男だった。
少しだけ泣きそうな顔をしたその男が、遠慮がちに手を振り返している。
どこかで見たような気もするが、子供の送迎の時だろうか。
「和音は?」
冬也が小さく呟いた。
その男が顔を向けた。
目が合った瞬間、男の表情が引き締まる。
冬也は慌てて目を背け、正面へと向き直った。
洋子が大きな声で原稿を読んでいる横で、三人の少女たちは忙しなく制作物を操っている。
「シャチが大きく飛びました」
ああ……あのショーのことだ。
二人の甥と洋子を水飛沫から庇うように、水除けシートを持ち上げた記憶が鮮やかに甦る。
あの時、自分にしがみ付いたのは、目の前で声を出しているこの娘だったのだろうか。
もしかすると、厚紙のシャチをせっせと動かしている方の子ではなかったか。
冬也は眩暈を覚え、額に手を当てた。
「パパ! 見ててくれた?」
洋子が駆け寄って冬也に抱きついた。
「ああ、もちろんだ。よく頑張ったね」
そう言いつつも、いつの間に終わったのか記憶が定かでない。
ぞろぞろと教室を出始めた保護者の中に、和音の顔は無かった。
そして去年の男の姿もない。
「パパ!」
その声に顔を上げると、あれほど追い求めていた娘が、自分とは違う男に抱きついている。
「え……パパ?」
胸の中に重たい何かが雪崩れ込んできた。
「洋子ちゃん、すごかったね。シャチが本当に泳いでいるみたいだったよ」
「そうでしょう? ずっと練習したもん」
「パパ、感心しちゃった」
洋子がもう一度男に抱きついた。
「パパ? 帰ろう?」
自分の腹の前で見上げてくる洋子が不思議そうな顔をしている。
「あ……うん。帰ろうか」
頭を撫でてやりながら、その顔の中に何かを探しかけて止めた。
「洋子ちゃん、荷物」
洋子の鞄を手にした男が近づいてきた。
「ようちゃん、バイバイ。また来週ね」
「うん。洋子ちゃんバイバイ」
男が静かな声を出す。
「洋子ちゃん、ちゃんとご挨拶しなきゃ」
洋子が肩を竦めた。
「おじさん、さようなら」
冬也の喉がひゅうっと鳴った。




