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クラス替えもなく、そのままの顔ぶれで二年生になった洋子たちの毎日は充実していた。
教科書が厚みを増し、宿題も徐々に増えている。
「洋子、終わったの?」
「うん、でもわからないところがあるの」
「算数?」
「違うよ。英語」
「英語……もうすぐ賢治くんと美弥子ちゃんが来るから教えてもらえばいいわ」
洋子が嬉しそうに頷いた。
「今日のごはんはなあに?」
「ハンバーグよ」
「チーズ入ってる?」
「もちろん」
洋子がばんざいをしながらソファーの周りをスキップで回った。
チャイムが鳴り、洋子が玄関へと走る。
「いらっしゃいませ」
「ははは! 洋子ちゃん、こんばんわ」
賢治がすかさず洋子の体を抱き上げた。
「ねえ賢治くん。お願いがあるの」
「何かな? 洋子ちゃんのためなら何でもするぞ」
洋子が照れたように笑った。
「あのね、宿題でね。わからないところがあってね」
賢治が嬉しそうな顔で洋子の頭を撫でた。
「ごはんの前にやっつけちゃおうか」
「うん!」
洋子を抱いた賢治の後ろから、美弥子が顔を出した。
「今日はありがとうね。これ、お土産」
そう言いながら、美弥子が和音に赤い紙箱を渡した。
「あら、ルルナじゃないの」
「そうよ。春の新作が出ていたから」
「いつもありがとう」
洋子が教科書とノートをリビングのテーブルに広げている。
それを眺めている賢治の目が、溶けそうなほど優しい。
和音が美弥子に言った。
「賢治くんって子煩悩よね」
「そうなのよ。だから申し訳なくてね」
眉を寄せた美弥子に、和音が小声で言う。
「諦めちゃったの?」
「うん……三回チャレンジしたけれど、もう良いかなって。賢治も無理しなくて良いって言ってくれるし」
「そうかぁ」
美弥子が和音の肩をポンと叩いた。
「だから洋子ちゃんがいてくれて本当に助かってるわ」
「そう? そう言って貰えるとありがたいわ」
リビングから二人の笑い声が聞こえる。
賢治の背中が一瞬だけ冬也と重なり、和音がギュッと目を閉じた。
洋子の頬を賢治が指先で突つく。
鈴を転がすような笑い声を出し、洋子が賢治の首に抱きついた。
「ただね、パパって呼ばれたかっただろうなって……それが申し訳なくってね」
美弥子の目尻が赤く染まった。
ケーキを冷蔵庫に入れながら和音が洋子を呼んだ。
「洋子、ちょっと来てくれる?」
「はぁい」
洋子がパタパタとやってきた。
「なあに? お母さん。お手伝い?」
「今日は美弥子ちゃんが手伝ってくれるから大丈夫。それよりね、洋子は賢治くん大好きでしょう?」
「うん! 賢治くんも美弥子ちゃんも大好き!」
和音が膝をついて洋子と視線を合わせた。
「賢治くんね、パパって呼ばれたかったんだって」
「パパ?」
「うん。でも美弥子ちゃんと賢治くんにはまだ子供がいないでしょう?」
洋子が小首を傾げる。
「だから、洋子が呼んであげたらどうかなって」
パッと弾けるような笑顔を洋子が浮かべた。
「良いの? 賢治くんをパパって呼んでも」
「うん、きっと喜ぶよ」
「じゃあ美弥子ちゃんはママ?」
「そうだね」
頷いた洋子が和音に抱きついた。
「今から?」
「うん、ごはんの時にしようか」
「わかった」
何も知らない賢治は、洋子の教科書をパラパラとめくっている。
キッチンから出てきた美弥子が和音に言った。
「良いの?」
「もちろんよ。洋子も喜んでいたわ。それより、あなたこそ良かった?」
「そりゃ大歓迎よ。元々私たちは洋子ちゃんの保護者を自認していたしね」
和音が小さく肩を竦める。
「どんな顔をするかしらね、賢治くん」
「泣いちゃうんじゃない?」
そういう美弥子はすでに涙ぐんでいた。




