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「お待たせしました」
歩き疲れた洋子を背負った冬也が川口に声を掛けた。
「いえいえ、もう良いのですか?」
「ええ。いやぁ、それにしても凄い人ですねぇ。はぐれないようにするだけで疲れちゃいましたよ」
「そういえば何度も迷子のアナウンスが流れていましたね」
「ええ。そのたびにこの子たちの顔を見て点呼してました」
笑いながら川口が後部のドアを開ける。
「お嬢様はお疲れのご様子ですね。おや? 下の坊ちゃんもだ」
兄に手を引かれながら小学三年生の甥が目を擦っている。
「このまま寝かしちゃいましょう。その方が静かでいい」
上の甥の言葉に、大人二人が苦笑を浮かべた。
「たくさん買い込みましたね」
「おふくろが小遣いを渡してましたからね。まあ、楽しそうでよかったです」
「ええ、良い思い出になりましたね」
川口がシャチやイルカの絵が水色で印刷された紙袋をトランクに入れながら微笑んだ。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。楽しかった?」
競うように感想を言い合う子供たちに囲まれた祖母が、幸せそうな顔をしている。
「疲れたか? 問題は?」
リビングから父親が顔を出す。
「問題なんてないよ。シャチもイルカもオットセイもみんな元気だった」
茶化すように言った冬也の後ろで中学生の甥が声を出す。
「お陰様で珍しいクラゲも観察できました」
「そうか。それは良かった。早く上がりなさい。婆さんがいろいろ準備していたぞ」
バタバタと子供たちが脱ぎ散らかした靴を整えていると、川口が紙袋を両手にぶら下げて入ってきた。
「ありがとう。重たかったでしょう?」
「いえいえ、軽いものですよ。では会長、私はこれで」
父親が頷く横で冬也がペコッと頭を下げる。
「ご苦労様でした。お気をつけて」
帽子をとってお辞儀をした川口を見送り、冬也は紙袋を持ち上げた。
「ほれ、お前たちのだろう?」
祖父母に纏わりついていた下の二人が転がるように飛んでくる。
「これはおじいちゃんに。これはおばあちゃんによ」
洋子が差し出したのはジャンプするシャチを型どったガラスのペーパーウェイトと、白いイルカが泳ぐスノードームだった。
「まあ! 洋子ちゃん。ありがとうね」
「うん」
洋子が嬉しそうな顔で笑った。
「高かっただろう? 小遣いは足りたのか?」
祖父の声に頷く洋子の横から下の甥が口を挟んだ。
「僕からのお土産も見てよ」
甥が差し出したのは動物たちがデフォルメされたクッキーとチョコレートだ。
「あれまあ、可愛らしいねぇ」
甥の鼻が自慢そうに膨らんだ。
「残りはゲームを買うお金にするんだ」
「ちゃっかりしてるなぁ、お前は」
甥がニヤッと笑って冬也に言った。
「叔父さん、叔母さんに何か買った?」
「いや?」
「このクッキーもう一つあるから売ってあげようか?」
「お前……」
山本家のリビングに明るい笑い声が響く。
上の甥が洋子に紙包みを差し出した。
「はい、これは洋子ちゃんに」
「え? お兄ちゃん?」
「だって洋子ちゃんったら人のばかり買って自分のを買えなかったでしょう?」
「……うん。ありがとう」
祖母がそっと目尻を拭った。
「僕はノートとファイルケースが欲しかっただけだから」
照れたように言う上の甥の頭をガシガシと冬也が撫でた。
「お前良い奴だなぁ。モテるぞ、きっと」
「いや、叔父さん。もう十分モテているから」
冗談ともつかない言葉に冬也が仰け反った。
「やっぱりあのクッキー売ってもらおうかな」
冬也の呟きが、また笑いを誘う。
「バカなこと言ってないで。さあさあご飯にしましょうね。今日はすき焼きにしたの」
子供たちの歓声が上がる。
父親が冬也を手招きした。
包装紙が散乱したままのリビングに戻る。
「なに?」
「確認だ。養育費は滞ってないな?」
「あ……ああ。それは間違いなく払っているよ」
「だったら良いが。あちらは母一人子一人だ。絶対に約束を違えるなよ」
「わかってる。でも……」
「なんだ?」
「どんな子供なのかなって……」
「……」
何も言わず父親はダイニングへと向かった。
リビングに一人残った冬也がふと呟く。
「少しは俺に似てるのかな……」
ダイニングから冬也を呼ぶ洋子の声がした。




