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 それからひと月、冬也の不貞証拠は確実に揃っていった。

 金曜の夕方、彼女のマンションに入り、土曜の夕方まで過ごす。

 二人で出掛けることもあれば、籠もりきりの日もあった。

 彼の出張という噓が始まったのは、結婚して三年目だっただろうか。

 ということは、あの二人はもう一年以上もそういう関係だということだ。

「気持ち悪い」

 今でも月に何度かは和音を求める冬也。

 その指先を思い出し、和音は怖気を覚えた。

 もう我慢の限界だと思い始めたある日、調査会社から連絡があった。

 火曜の男が姿を見せなくなったらしい。

「あの女、父親は冬也に決めたってわけね」

 もしかすると、妊娠を知った男に捨てられたのかもしれない。

「強かね……尊敬するわ」

 吐き気をもよおし、和音は慌てて口を押さえた。 

「もしかして……」

 あの日病院を訪れたのは、なんとなく感じる倦怠感と食欲不振を診てもらうためだった。

「ははは……ははははは!」

 あれほど欲しかった子供を授かったのが、今というのはいったい何の罰だろう。

 もっと早ければ、冬也は浮気などしなかっただろうか。

 そう考えた瞬間、和音は我慢できずその場で吐いた。


 学生時代からの親友である斉藤美弥子の実家が経営する病院へひとりで向かう。

「十週に入っていますね。おめでとうございます」

 そう言った医者に頭を下げた。

「おめでとうか……」

 美弥子と知り合ってから、ずっとかかりつけ医として利用してきた病院だったが、そのことを和音は冬也に告げていない。

 深い意味は無かったが、今となっては天運かもしれないと思う。

「そのお陰で貴方の裏切りを知ったのだもの」

 この街の大きな病院の中で、産科の医師が女性という条件に合うのはここしかない。

 だからこそ小夜子もここを選んだのだろう。

「まるで神の采配ね……ははは」

 和音は静かに決意した。

「この子は絶対に渡さないわ」

 和音は冬也の出方を見ることにした。

 まずはこの妊娠にどういう態度を見せるのだろうか。

 それによって今後の行動を計画しなくてはならないのだから。

「やった! ようやくだな、和音」

 戸惑うどころか、冬也は和音の妊娠にも喜んでみせた。

 何を考えているのだろうとは思ったが、口には出さない。

「どうするつもりなのかしら」

 出勤する冬也を見送ったあと、和音はリビングのソファーに身を沈めた。

 冬也の実家は資産家なので、大丈夫だとでも思っているのだろうか。

「親か……」

 和音は幼い頃に両親を亡くしている。

 二つ違いの弟と共に、子のなかった叔父夫婦に引き取られた。

 叔父がなくなり、叔母だけが残った実家には、叔父の事業を引き継いだ弟が今も住んでいる。

「叔母さんには言えないわ」

 しかし、冬也と別れてひとり親となるには、先立つものが必要だ。

 独身時代からの貯蓄額を確認し、和音はそっと溜息を吐いた。

 今の和音に頼れる存在は、美弥子しかいない。

 和音は携帯電話を手に取った。

「腹立たしいけれど、離婚なんていつでもできるわ。急ぐことはないのよ」

 幸いあなたは妊娠しているのだから、夫婦の営みを要求されることも無いと言われ、和音はクスッと 笑ってしまった。

 和音は勿論産む気だ。

 ずっと欲しかった子供なのだから。

 男なんてこりごりだと思っている和音にとって、この子は唯一無二の存在となる可能性が高い。

 冬也の所業に怒り心頭な美弥子は、早口でまくし立てた。

「慰謝料は離婚のときにたっぷり要求すればいいわ」

 平気な顔でこのまま一緒に暮らすのは辛いと弱音を吐いた和音に美弥子が言った。

「私の夫が工務店をしているのは知っているでしょう? その家をちまちまと改装していきましょうよ。 寝室を分けて鍵をつけるの。あなたの家でもあるのだから、堂々としていなさい」

 力強い美弥子の声に和音は何度も頷いた。

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