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五十音順に名前が呼ばれていく。
「向井さん、向井千代さん」
「はい!」
名簿を抱えた女性教諭がにっこりと笑いかけた。
「山本さん、山本洋子さん」
「はい!」
「はい!」
二人の子供が同時に立ち上がった。
保護者席がざわついたのと同時に、一年生を受け持つ三人の教諭が顔を見合わせている。
名簿を指さして女性教諭が呟いた。
「同姓同名? なぜ同じ組に?」
隣に立つ男性教諭が小声で言った。
「無作為だからな。偶然だろう」
「それにしても……」
呼ばれた子供たちがどうして良いのか分からずきょろきょろとしている。
もう一人の女性教諭が慌てたように子供たちを手招いた。
「同じ名前のお友達がいるのね。仲良くできそうかな?」
「はぁい」
二人の山本洋子がほぼ同時に返事をした。
小夜子が周りを見回して、もう一人の山本洋子の保護者を探そうとしている。
和音は微動だにせず、じっと我が子を見つめ続けた。
二人の洋子は背格好も似ている。
小夜子はおろしたてのハンドバッグからハンカチを取り出し、そっと額の汗を押さえた。
「まさか同じ組になるなんてね……」
和音の呟きは、まだざわついている保護者席の中に紛れていった。
「では教室に向かいます。隣のお友達と手を繋いでいきましょうね」
一組から順に講堂を出ていく。
その後を保護者達がぞろぞろとついて歩いた。
一学期は五十音順の席らしく、山本洋子と書かれた札が横に二つ並んでいる。
和音はわざと追い越させるようにゆっくり歩き、出口に一番近い場所を選んで立った。
窓際に立っている小夜子の顔を見ながら、和音がぼそりと囁いた。
「少しお疲れのようね、安藤……じゃなくて井上? ああ、今は山本小夜子さんか」
明日からの注意事項に返事をする子供たちの声が教室の天井に吸い込まれていく。
同じ制服に包まれた小さな背中が、整然と並んでいる景色は、壮観というより不気味でさえあった。
並んでいる保護者達は、ずっと自分の子供だけを見ているのだろうと思うと笑いがこみ上げてくる。
そうなのだ。
ここに座る子供たちは全員、六年前に生まれ、同じ数だけ夜を過ごして育ってきた。
親の地位も名誉も関係ない。
ただ同じ年に同じ小学校に入学し、たまたま同じクラスになっただけ。
罪も罰も後悔も、この子たちは何ひとつ背負ってなどいないのだ。
和音は、そのことに酷く安堵した。
「では、明日も元気で登校しましょう」
出席簿をトントンと揃えながら、教諭が保護者席を見た。
子供たちが一斉に親を探し始める。
「ママ!」
山本洋子が小夜子の前に立った。
冬也の面影が見当たらない。
六年前の冬也の言葉を思い出し、和音の口角が小さく上がった。
「お母さん、帰る?」
和音は小夜子に背を向けて洋子を隠した。
「うん、でも今日はおじいちゃまとおばあちゃまに会いに行く約束よ?」
「あっ、そうだった。またあのアイス食べる?」
「今日はどうかなぁ?」
「また一緒に食べたいなぁ」
「そうだね。さあ、洋子。おじいちゃまとおばあちゃまに制服を見てもらいましょうね」
「うん!」
まだ何も入っていない鞄が洋子の背中で揺れた。
背負っているのか背負われているのかわからないほど大きなそれに、明日からは教科書が入るのだ。
「大きくなったね、洋子」
洋子が嬉しそうな顔で和音を見上げた。
教室を出ようとした二人の背中に、もう一人の洋子の声が届く。
「ママ、今日はどこに行くの?」
まだ窓際にいた小夜子に洋子が尋ねているようだ。
和音は振り返らずに教室を後にした。
「今日はまっすぐ帰るわよ」
「おばあちゃんのところには行かないの?」
小夜子の目尻がチリッと歪んだ。
「制服は昨日見せたじゃない。今日は行かないわよ」
「そうかぁ……じゃあハンバーガー食べる?」
「……パパもいないし、そうしようか」
「やったぁ」
嬉しそうに両手を上げた拍子に、鞄のストラップが肩からずれた。
よろめいた娘を片手で支えながら、小夜子が小さな声で言う。
「今日は二人だけでお祝いしましょうね」
「うん!」
洋子が小夜子の手を握った。




