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大きなため息を吐き、冬也はデスクの封筒に手を伸ばした。
持ち手が黒く変色した木彫りのペーパーナイフを手に取る。
誰からの土産だったかは覚えていないが、民族衣装をまとった少女の浮彫になっているので、間違いなく北海道土産だろう。
「誰だっけかなぁ。親父? いや、あの人は土産なんて買うタイプじゃないか。だったら兄貴?」
そんなことを呟いてみる。
心の隅っこで封を開けるのを先延ばしにしている自分に笑いがこみ上げた。
冬也はもう一度大きく息を吐いて、封筒にペーパーナイフを差し入れた。
「山本部長、社長がお呼びです」
封筒の中身を引き抜こうとした指先を止め、冬也が視線を上げた。
「社長が?」
「はい、お急ぎとのことです」
「わかった」
冬也は封筒をそのまま引き出しに入れて鍵をかけた。
重厚な木製のドアをノックすると、社長秘書の女性が顔を覗かせた。
兄弟なのに、この待遇の違いは何だろうと思いもするが、兄ほどの能力がないのも自覚している。
社長室に入ると、大きなデスクに座っている兄が万年筆でソファーを指した。
「何か用事?」
わざと軽い声を出したが、最後が少し裏返った。
「ちょっと待っていてくれ。すぐに終わるから」
「うん」
秘書がコーヒーを置いて下がっていった。
「これって有田焼? きれいだねぇ」
「……」
「俺なんて未だに紙コップだぜ?」
「……」
冬也は立ち上がって窓際へと歩いた。
「いい眺めだよな」
「変わらんだろう。同じ階だ」
「まあそうだけど。でも方角が違うじゃん。こっちからは迎賓館の森が見える」
「それを言うならお前の方からは皇居の森が見えるんじゃないか?」
「見えないよ」
「そうか」
冬也は肩を竦めてソファーに戻った。
目を指先でほぐしながら兄がソファーに座った。
「白薔薇学園だって?」
「ああ……小夜子がひどく拘ってね」
「学費は大丈夫なのか?」
「親父に頼るしかないよ。兄貴もそうしたのだろう?」
「いや、うちは出してもらっていない」
「え?」
「それが普通だ」
「うん……」
「入学式は行くのか?」
「どうかな。いつだっけ」
「その程度なら頼んでいいな」
「え?」
「出張だ。また台湾に飛んでくれ」
「うん。わかった」
「今度は遊んでばかりとはいかないぞ。契約締結前の視察だからな」
「あ……うん。頑張るよ」
「経理部長に同行してもらう。よく勉強して来い」
「……わかった。あっ、いや。わかりました」
話は終わったとばかりに兄は立ち上がった。
釣られるように立ち上がり、そそくさと社長室を出る。
「出張か……まあ、それでよかったのかもしれない」
そう呟いてから冬也は自席へと戻った。
自席の後ろに広がる景色をしげしげと眺めてみる。
「やっぱり見えないじゃないか」
ビルの間に微かに緑が揺れているような気もするが、それが皇居だと言われてもピンとこなかった。
「何事でしたか?」
マネージャーの声に振り返る。
「あ、ああ。出張だそうだ。四月一週目のリスケを頼むよ」
「畏まりました」
冬也はポケットから小さな鍵束を取り出した。
「……」
大きく息を吸って封筒を取り出す。
引き出した書類の白色に刺されたように目が沁みた。
カサリと音をたてて書類を捲る。
「ははは……」
冬也はギュッと目を閉じた。




