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「ねえ、洋子ちゃん。アイスクリーム食べない?」

 義母が洋子に話しかけた。

「うん、食べたい」

「選びに行こうか」

 洋子が和音を見た。

 頷くとにっこり笑い、義母の手を躊躇なくとる。

 まさか冬也と出くわすとは思えないが、和音の心に一抹の不安がよぎった。

 義父が静かな声を出す。

「あいつなら、海外出張中だ。絶対に会うことはない」

「そうですか。いろいろお気遣いいただいて……では、彼はあちらの卒園式には行かなかったのですか?」

「ああ。いろいろあってね」

 和音はそれ以上踏み込まなかった。

「ただいま」

 洋子が明るい声で言った。

 溶け始めたジェラートが、複雑な波模様を描きながら洋子の手を濡らしている。

「まあ、大変」

 義母が慌ててナプキンをとった。

「お義母さん。洋子はもう自分でできますから」

「あ……ああ、そうよね。洋子ちゃんはもう小学生になるのだものね」

 義父が義母に目配せをした。

 ハンドバッグから茶封筒を取り出し和音の前に置く。

 これほど細い指だったろうかと思った。

 義父が何でもないような声を出した。

「これが入学手続きの書類だ。それと、これは入学金として使ってくれ」

 和音が深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。助かります」

「この子もあの子も、私たちの孫だよ。今後も同じようにさせてほしい」

 和音が真剣な目を義父に向けた。

「間違いなくこの学校に入学するのですよね?」

「ああ、間違いない。私が保証人欄にサインした」

 和音が口角を上げて頷いた。

「しかし、本当にいいのかい? 後悔するんじゃないか?」

 和音がギュッと目を閉じた。

 洋子は大盛りのジェラートに夢中だ。

「後悔は……するかもしれません。でも……」

 義母が涙声で言った。

「この子の名前を聞いた時、私たちはもう……心臓が止まるほど驚いたわ。息子も辛そうな顔をしてね。偶然だと思おうとしたけれど……違ったのね。やっぱり恨んでいるわよね」

 和音は頷いて老い疲れた二人の顔を交互に見た。

「恨んでいないと言えば噓になります。でも私は、この子に本当の父親が考えた名前を付けてやりたかったのです。まあ、一生会うことのない父親ですけれどね」

「和音さん……私は……」

「お義母さん。この子は誰に憚ることなく、真っ当な山本洋子ですから」

 義父が洋子の頭を撫でた。

「美味しいかい?」

 洋子が弾けるような笑顔を向ける。

「うん。おじいちゃまも食べる?」

「え?」

「はい、どうぞ」

 ストロベリーとバニラが溶けあったジェラートを、洋子は躊躇いもなく義父の口元に差し出した。

「あ……ありがとう」

「おばあちゃまも食べる?」

 義母は声を出せないまま、何度も何度も頷いた。

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