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「おめでとう! よく頑張ったね、和音」
産んだ和音よりも、待っていた美弥子の方が泣きじゃくっている。
その肩を支えながら、賢治も涙ぐんでいた。
「可愛いね。でもまだ皺くちゃだ。ははは……本当にめちゃくちゃ可愛い」
通常より少し小さめだったが、元気な産声をあげてくれた我が子が愛おしくてたまらない。
あの激動の時期を一緒に乗り越えてくれたこの子は、驚くほど義母に似ていた。
「山本の血が濃いのかな」
そう言った和音に、美弥子が言った。
「そんなの関係ないよ。無事に生まれた。それだけで十分だわ」
「そうね……うん。そうだよね」
口ではそう言ったが、和音の心に巣食っている冬也と小夜子に対する思いはどす黒いままだ。
子供を産めば少しは薄れるかと思っていたが、かえって濃度を増したような気さえする。
看護師が面会時間の終了を知らせた。
名残惜しそうに帰っていく美弥子夫婦を笑顔で見送りながら、和音は我が子に問いかけた。
「お母さんはしつこくて陰険で意地の悪い女なのよ」
赤子は規則正しい息を繰り返している。
おそらく、山本家の誰も自分があの子の名前を知っているとは思っていないだろう。
調査会社を使っていたことさえ気づかれていないのだから。
「ごめんね。でも、あなたのことは命より大事だから。絶対に幸せになろうね」
看護師に赤子を渡し、和音はゆっくりと体を横たえた。
新生児特有の湿ったような匂いが鼻の奥に残っている。
一人きりになった病室で、和音は「ハッピー・クリスマス」を口ずさんだ。
大好きな夫からのキスに、うっとりするオノ・ヨーコの横顔が浮かぶ。
「洋子」
口にした途端、和音の中に何かがすんなりと溶けた。
そして翌日、ひと口大にカットしたフルーツを美弥子が持って来た。
「どう? 母親になって二日目の感想は」
「べつに昨日と変わらないよ」
「あら、そうなの?」
「でも、少しずつ実感は湧いてきているかな」
「母乳は出るの?」
「出過ぎるくらい。最初はすごく痛かった」
「痛いの? でも出るならよかった。和音ってリンゴ好きだったよね?」
「うん、大好き。よく覚えていたねぇ」
「そりゃ長い付き合いだからね
二人が声を揃えて笑った。
和音は全部が夢だったらいいのにと思った。
しかし、これが現実だ。
冬也は浮気をして家庭を壊し、自分はその場に留まることを選ばなかった。
「絶対に許さない」
「え?」
「何でもないわ」
美弥子がタッパーを空けて小さなフォークを和音に渡した。
「名前、考えた?」
「うん。いろいろ悩んだけれど決めたわ」
「あら、なあに?」
「……洋子。太平洋の洋に子供の子よ」
「和音?」
美弥子の表情が固まった。




