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73話

リプルズの街を発ったシンとセレネは、数日間にわたってひたすら街道を進んでいた。足元に広がるのは手入れされた石畳ではなく、荷車の車輪で深く抉られた土の道である。歩みを進めるごとに周囲の景色はのどかな農村風景から荒涼とした荒野へと移り変わり、道行く旅人たちの表情も自然と険しさを増していった。

道中のあちこちにある小さな宿場町や街道の辻では、どこに行っても同じ話題で持ちきりだった。


「聞いたか? あのリプルズが、まさか魔物の大群に襲われてあんな壊滅的な被害を受けるなんてよ……」

「信じられねえ話だが事実らしいぜ。一時は街の壁まで突破されたって話だ。いったいこの先どうなっちまうんだか……」


すれ違う旅人や他の行商人たちは不安に顔を曇らせ、誰もが口々にリプルズの惨状を語り合っていた。それほどまでに今回の魔物の活性化による被害は甚大であり、人々の心に深い影を落としている。その影響は逆方向からも押し寄せており、大陸中央の巨大都市ヴェリタス方面からも、復興支援のための物資や人員を乗せた行商人の馬車が何台もすれ違っていくのが見えた。

そうしてリプルズとヴェリタスのちょうど中間地点に位置する、やや大きめの宿場町に差し掛かったときのことだった。


「おや、シンさんじゃないですか!」


不意に背後から声をかけられ、シンとセレネは同時に足を止めて振り返った。そこにいたのは、見知った顔の男だった。


「もしかしてギルさん?」

「そうです! いやあ、こんなところで会うなんて偶然ですね! セレネ様もお元気でしたか?」

「えぇ、ギルさんこそまたあちこちに行商してるのかしら?」

「そうなんです、と言っても今度はレナ様からの依頼でリプルズの復興のお手伝いですが……そういえばリプルズのことはご存じで?」

「えぇ、ちょうどリプルズに行ってて……」


ギルが驚いたように目を丸くする。ちょうど今回の目的地が一緒だったという縁もあり、元々この街までの道中で護衛依頼を受けていた商人の男と一緒にギルドへ向かおうとしていたシンたちは、そのまま流れで合流することになった。


「でしたらこの後ご飯でも食べながら、ぜひお話を聞かせてもらえないでしょうか? もちろんそちらの方も一緒に」


ギルが振り返って親しげに笑うと、依頼元の商人も「おや、面白そうですね。ちょうど私も街道の安全について詳しく聞いてみたかったところですし、ぜひご一緒させてください」と快く了承した。


こうして、シン、セレネ、ギル、そして商人の四人は連れ立って宿の食堂へと向かった。

夕食の席に並んだのは、湯気を上げる温かいスープや、香ばしく焼き上げられた肉料理、そして旅の疲れを癒やす冷えたエールである。賑やかな食堂の一角で、四人は料理の皿を囲みながら情報交換を始めた。


「いやぁ、本当に驚きましたよ。まさかリプルズであんな大騒動が起きていたなんて。私は別のルートを回っていたから直撃は免れましたけど、話を聞くだけで冷や汗が出ますね」

「本当に大変でしたよ。知性を持った魔物が指揮をとっていましたからね」


シンが苦笑いを浮かべながら、リプルズの復興状況や現地の深刻な被害について細かくギルに伝えていく。それを聞いたギルは、時折険しい表情を浮かべつつも真剣に耳を傾けていた。


「なるほど……。私がイグニスにいた時はあそこの火山で魔物が暴れて大変でしたが、リプルズの方ではそんな知的な動きをする魔物が出ていたとは。……どうも最近の世の中は、あちこちで狂い始めている気がしてなりませんね」

「イグニスといえば、あの火山の一件はどうなったんですか?」

「えぇ、あちらも何とか落ち着きを取り戻しつつありますよ。火の巫女であるレナ様も頑張っていらっしゃいますしね。私の方は、向こうの特産品である香辛料や、北部で仕入れた珍しい金属の取引でこうしてあちこちを走り回っているわけです」


ギルは得意げに胸を張りながら、同業の商人である同行者に向かって各地の特産品や、街道の安全状況、さらには最新の流通事情について次々と耳寄りな情報を語り始めた。商人同士ならではの専門的な話題に、二人の男たちはすっかり意気投合し、グラスを交わしながら熱心に話し込んでいる。

その隣で、シンとセレネは静かにスープの椀にスプーンを滑らせていた。


「こうして見ると、本当にあちこちで色々な問題が起きていますね」

「そうね……。イグニスでもリプルズでも、ただの魔物の暴走とは違う不気味さを感じるわ。私たちも気を引き締めないとね」


セレネが少し憂いを含んだ瞳で呟くと、シンは小さくうなずいて同意した。

そして、ひとしきり美味しい料理を平らげ、それぞれの情報共有もお開きに近づいた頃、翌日の早立ちに備えて四人はそれぞれの就寝のため自室の宿へと向かったのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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