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67話

地獄絵図へと変貌した広場に吹き荒れる殺意の嵐の中、シンは血に染まったミズキの体を背負ったまま、激戦の中心へと飛び込んだ。


「セレネ!」


その声にハッと顔を上げたセレネは、シンの姿を見つけるなり大きく目を見開いた。


「シン! それにミズキも……って、どうしたのその血は!」


ミズキの無事を確認して安堵したのも束の間、シンの衣服が生々しい鮮血に染まっているのを見て、セレネは青ざめながら駆け寄ってくる。


「ミズキ様は命に別状はありません。ただ、先ほどまで酷い出血を伴う傷を負っていたため、しばらく安全な場所で休ませる必要があります。……こちらの状況はどうですか?」

「それが、噴水の水晶を破壊したら結界が消えて、街が一瞬でこんな風に……! あとね、神殿にいたレリックや神官たちは全員、人間の姿に化けた魔物だったのよ!だから結界がなくなった途端に本性を現して……!」

「なるほど……だから地下水路の神官たちも消えて、魔物たちが慌ただしく動いていたわけですか」


シンの脳内で、これまでの不自然な点が綺麗に一本の線で繋がった。納得したように頷くと、シンはすぐさまセレネとポジションを交代するように、荒れ狂う戦列の最前線へ飛び込む。


「ここは僕に任せてください!」


戦場を風の如く走り抜け、襲いかかる醜悪な魔物たちの隙を突いて愛刀『風切』の鋭い切先を一閃、二閃と閃かせて次々に切り伏せていく。同時に、敵の猛攻で地面に倒れ伏している負傷者のもとへ瞬時に駆け寄り、掌から放った淡い光の『治癒ボール』を次々と投げつけて即座に肉体を修復していく。


「うおっ、体が嘘のように軽くなったぞ……!」


シンの神業的な治癒魔法と的確な前線でのサポートにより、それまで魔物たちの圧倒的な物量の前に劣勢へと追い込まれていた味方側は、みるみるうちに勢いを盛り返し始めた。

前陣では屈強な護衛騎士たちが長剣と大盾を構えて魔物の強力な突撃を受け止め、その隙を逃さず、解放された神官たちが練度の高い魔法を次々と詠唱して敵の群れを焼き払う。さらに、訓練された街の住民たちも槍や弓を手に後方から正確な牽制射撃を浴びせ、完璧な連携で魔物たちを徐々に押し返しつつあった。


――だが、その一進一退の攻防を、冷酷な雷鳴が容赦なく引き裂いた。


「っ……!」


突如として鉛色の雲すらない青空から、凄まじい轟音とともに激しい紫電の雷が真上から叩き落とされた。

その雷撃は魔物に向かうのではなく、前線を守る人間の騎士や住民たちの真ん中へと無慈悲に直撃した。


「がはっ……!?」


突然の強烈な不意打ちに、被弾した者たちは何が起きたのかすら理解できず、その場で激しく痙攣して崩れ落ちる。

ざわめく戦場のどよめきの中、魔物たちの群れが左右に割れ、その奥から不気味な笑い声を響かせながら一回り巨大な一匹の魔物がゆっくりと歩み出てきた。


「はははっ! よくもまぁ、私が長い時間をかけて完璧に作り上げたこの素晴らしい牢獄の結界を、見事に壊してくれましたね……。おや、この軍勢を指揮している首謀者は、そこの小娘、あなたでしょうか?」


不敵な笑みを浮かべたその巨体の魔物は、怯えるようにミズキをかばっているセレネを指差してねっとりと嗤った。

周囲の人間たちが恐怖と警戒に息を呑む中、魔物はふっと不気味な笑みを深め、こう言い放った。


「おや? ああ、失礼。この姿では私だと分かりませんか」


そう呟きながら魔物が自らの体に微弱な魔力を巡らせると、その肉体はグニャリと歪み、見る見るうちに人間の姿へと変化していった。そこに立っていたのは、昨日神殿で丁寧な仮面を被って彼らを迎え入れたはずの神官レリックその人の姿だった。


「っ……! あなたが、この街を裏から操っていた元凶なのね!」


セレネは怒りと嫌悪感を露わにし、震える声を絞り出すように叫んだ。


「その通りです。この街を襲撃し、隠された法具を手に入れようと企みましたが……あそこの小娘が、どれほど痛めつけてもなかなか口を割らないものでしてね。だから仕方なく、一部の住民をも生け贄として地下に捕らえ、平和な街を装う偽りの舞台を作り上げた。その一方で、ゆっくりと嬲りながら法具の在りかを吐き出させる予定だったのですよ……。それを、それをあなたたちは!」


レリックの歪んだ仮面の下の顔が、怒りと憎悪で醜悪に歪み、血管を浮き上がらせる。


「風の巫女め! お前という余計な存在が私の一世一代の素晴らしい計画を台無しにした! もうこうなれば、お前だけはここで必ず惨たらしく始末してやる!」


怒号を合図に、レリックが両手を大きく掲げ、周囲の魔物たちが一斉に牙を剥いて突撃を開始した。

戦場の混乱の最中、シンはレリックが長広舌を垂れているそのわずかな隙を逃さず、味方の兵士たちが密集している広範囲のエリアへと、ごく微細な光の粒子を混じらせた治癒魔法の散布を密かに展開し続けていた。負傷した者たちの体力を少しずつ底上げし、いつでも再起できるように手裏を打つ。

最前線の騎士たちは再び牙を剥く無数の魔物を相手取り、決死の覚悟で進路を塞いで防衛線を形成していたが、そこへレリックが放つ予測不能な不規則の雷魔法が雨あられのように浴びせかけられた。その結果、味方側は必要以上に分厚い守りに徹することを強いられ、徐々に身動きが取れなくなっていく。

シンは休む間もなく戦場を縦横無尽に駆け抜け、突如として横から襲いかかる魔物を『風切』で素早く両断して数を削り、同時に負傷して倒れた者の傷口を治癒していく。


一方のセレネも、怪我を負って動けないミズキを背後でしっかりと守りながら、得意の広範囲風魔法を展開し、敵陣の後方に控えるレリックやその取り巻きの魔物たちをまとめて吹き飛ばそうと激しい攻防を繰り広げていた。

しかし、元凶であるレリックの直接参戦と、容赦のない強力な魔法支援によって戦況は一気に覆り始めた。先ほどまで優勢だった人間側は再び激しい押し戻しを受け、至る所で新たな負傷者が続出し始める。あまりにも広範囲に及ぶダメージと次々と増える負傷者の数に、シン一人の神速の治癒だけでは、もはや追いつかなくなっていた。

読んでいただきありがとうございます!

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