53話
「この剣を、実際に手にとって確かめてもよろしいですか?」
シンが丁寧に尋ねると、老ドワーフは面白くなさそうに鼻でふんと笑った。
「ほぉ、見るだけじゃ飽き足らず触りたいと来たか。それなら、これでもどうだ!」
老ドワーフはそう言うと、手元にあった一振りの剣を雑に放り投げる。空中で光を反射して煌めくその剣は、見事な装飾が施された贅沢な一品だった。
「わあ、すごい……職人の技がぎっしり詰まった、見事な剣ね」
セレネがその眩い輝きに思わず感嘆の声を漏らすが、シンはそれをしっかりと受け止めると、神妙な顔つきのまま無言でドワーフへと差し戻した。
「……気に入らないか?」
老ドワーフが不機嫌そうに太い眉をひそめると、シンはまっすぐな目で答えた。
「ええ。確かにとても美しく、高価なものだと思います。ですが、自分が求めているのはこういう飾り物のような綺麗さではなくてですね……。どんな過酷な戦場でも折れず、無骨であっても、最後まで一緒に戦い抜ける相棒なんです。だから、これは自分には不要です」
その答えを聞いた老ドワーフは、わずかに目を見開き、それからフッとこれまでの不機嫌さが嘘のように表情を柔らかく崩した。
「……ほぉ。小僧、見た目よりもよっぽど頑固で目が肥えてやがる。いいだろう、そこまで言うなら、この店の中にあるものは自由に触って確かめて構わんぞ」
「ありがとうございます!」
シンは深く頭を下げると、改めて店内の武器を見て回った。棚に並ぶ剣を一つずつ手に取り、重心を確かめ、空中で軽く振っては「うーん、少し軽いな……」「こっちはしっくりこないか」と首をかしげる。どれもしっくりこない顔をしながら、さらに奥へと進んでいく。
そして、店の隅にたどり着いた時、シンはほこりを被って雑に置かれている一本の武器に目を留めた。
「……これは?」
一般的な片手剣に比べて刃が細く、わずかに美しい弧を描くように反っている。他の武具とは明らかに異なる異国風の佇まいだった。
シンがそっとその柄に手をかけ、引き抜いた瞬間、これまでのどの武器とも違う、手に吸い付くような奇妙な馴染み深さが全身を駆け抜けた。
シャキィン――と、静まり返った店内に澄んだ金属音が響き渡る。
引き抜かれた刀身は片刃であり、そこにはまるで水面に広がる波紋のような、複雑で美しい模様が幾重にも浮かび上がっていた。
「きれい……」
セレネはその独特な美しさに魅入られたように、思わず息を呑んで呟いた。
工房の主である老ドワーフは、面白そうに髭を揺らしながら口を開いた。
「おっ、それに気づくとはな。それは昔、わしが気まぐれで打った異国の武器で、『刀』と呼ばれる代物だ。作っておいてなんだが、あんな細っこい棒きれのような物で、本当に魔物とやり合って戦えるのかね?」
ドワーフは試すような、からかうような鋭い視線をシンに向ける。
だが、シンは言葉を返さず、その刀をゆっくりと構えた。数度、空中で振るってみる。風を切り裂く音がまるで水音のように心地よく耳に届く。シンは満足そうに小さくうなずくと、カチリと音を立ててそれを鞘に納めた。
「ほう……。気に入ったようだな。じゃあ、どれほどの腕前か、ちと試させてもらうぞ」
老ドワーフはそう言うと、店の隅から頑丈そうな厚手の木材をいくつか抱えて持ってきた。
「お願いします」
シンは静かに一歩前へ出ると、構えを解いた自然な立ち姿のまま、抜刀の構えをとる。
次の瞬間、一筋の閃光が走った。
ガキィッ! という硬質な音すら遅れて聞こえるほどの神速の居合い。シンが自然な流れる様子で振り下ろした刀は、抵抗を感じさせることなく、用意された分厚い木材をまるで紙のように一刀両断して両断した。切断面は鏡のように滑らかだ。
その鮮やかな技量と刀の切れ味を目の当たりにし、老ドワーフは目を見開いたあと、豪快に腹の底から笑い声を上げた。
「ガハハハッ! 見事だ! 切れ味もさることながら、その細っこい武器を自分の手足のように使いこなしているじゃねぇか!」
老ドワーフは満足しきった顔で、力強く腕を組んだ。
「お前さんにやるよ。持って行きな!」
「えっ、くれるんですか? こんなに素晴らしい品を……!」
驚くシンに、ドワーフは肩をすくめて見せた。
「当たり前だ。あれは面白半分で作ってみたはいいが、この辺りじゃ誰もあんな扱いの難しい武器をまともに扱えなくてな、ずっと埃をかぶっていたんだ。だが、今日こうして、いい使い方をする奴の姿が見られただけで、作った甲斐があったってもんだ」
その言葉に、シンは深く頭を下げた。
「ありがとうございます……大切に使わせてもらいます」
「よし。それじゃあ、せっかくだ、その刀に銘を刻んでやろう。そうだな……『風切』ってのはどうだ? どんな敵の防御も、風の如く断ち切るようにってな」
ドワーフはそう言って、誇らしげに銘の由来を語る。
「『風切』……。とても良い銘ですね。自分の新しい相棒に、これ以上の名前はありません」
シンは満面の笑みを浮かべながらその刀をしっかりと抱え込み、最高の一品を手に入れた高揚感を胸に、ドワーフへの感謝を伝えたのだった。
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