50話
黄金の海原を疾走する砂船の甲板を、乾いた熱風が心地よく撫で抜けていく。
ヴェールダンの街を後にしたシンとセレネは、水の都リプルズを目指して広大な砂漠地帯を進んでいた。前回は緊急事態のために徒歩での命がけの横断だったが、今回はヴェールダンと砂漠の外を定期的に往来している『砂船』を利用している。甲板の上には、商売道具を積んだ大勢の商人や、砂漠から他の地域に移動する旅人たちが所狭しと並び賑わいを見せていた。
「すごいスピードですね……! 歩いていたときとは比べものにならないくらい、快適です」
「本当にね。景色があっという間に後ろに流れていくわ」
シンとセレネは船の舳先に立ち、砂塵を巻き上げながら地平線の彼方へと滑らかに進む砂船の窓から、珍しそうに外の世界を眺めていた。帆を張り砂漠の強風や風魔法を推進力にして、徒歩では何日もかかる道のりを、風を切り裂くように飛ぶように進んでいく。
やがて、船の定期的な休憩地点である小さなオアシスに到着し、乗客たちはしばしの休息をとるため甲板から降りた。
強い日差しを避けるように、生い茂るヤシの木の木陰に入り、シンは水筒の冷えた水を口に含みながら小さく息をつく。
「ふぅ……生き返りますね。そういえばセレネ、少し話をしてもいいですか?」
「ん? どうしたの、改まって」
隣で髪を整えていたセレネが、ふと首をかしげてシンを見上げる。シンは少し言いにくそうに頬をかきながら、自身の腰に帯びた剣へと視線を落とした。
「実は、新しい武器が欲しいなと思っていまして。もちろん、今みたいに状況に合わせて槍や剣、槌を持ち替えて戦うのも悪くないんですけど……、やっぱり自分にしっくりくる良い品を一本手に入れたいんですよね」
シンの言葉に、セレネは納得したように深くうなずく。
「なるほどね。確かに、これからの旅はさらに手強い相手が増えるだろうし、自分の相棒となる武器選びは大切よね。……ちなみに、今までの道中で、気に入るような一品は見つからなかったの?」
セレネの問いかけに、シンは残念そうに首を横に振った。
「ええ。刃渡りの長さや、全体の重心、手に持ったときの重さや馴染み具合……どれも質の高いものは見つかるのですが、なかなか納得できるものに出会えなくてですね」
二人がそんな話を交わしていたとき、近くで同じように木陰で休んでいた旅人風の男が、聞き耳を立てていたのか、ふっと笑いながら声をかけてきた。
「おや、いい武器を探しているのかい? それなら、ちょっといい情報を教えてやろうか」
突然話しかけてきた見知らぬ男に、シンとセレネは少し警戒しつつも視線を向ける。男は懐から一枚の古びた羊皮紙の地図を取り出し、広げながら指し示した。
「砂漠地帯から北側、次の目的地であるリプルズとの間にある山間部のあたりさ。ここに行ってみたらどうだい?」
男が指さした場所には、険しい山々に囲まれた小さなエリアが記されている。
「ここは確か……山岳地帯ですね?」
「そうだ。そこには、職人気質なドワーフたちが暮らす隠れ里のような村があってね。ものづくりがとにかく盛んなんだよ。腕利きの武器職人もたくさんいるから、お前さんの希望に合うような、高品質な特製の武器がきっと見つかるはずさ。と言ってもかなり頑固な職人ばかりだから商品の仕入れも中々うまくいかなくてね」
旅人風の男はそう言って、からからと笑いながら自分のテントの方へと戻っていった。
シンは地図の示された山間部を見つめ、それからそっと隣のセレネの顔色を伺った。
「ドワーフの村、ですか……。どうします、セレネ」
セレネは腕を組み、地図のルートと自分たちの目的地を少しだけ思案するように見つめたあと、やれやれといった風に柔らかく微笑んだ。
「ふふ、そんなに期待を込めた目で見つめないでよ。分かったわよ、リプルズへ向かうルートの途中だし、大回りになるわけでもないからね。ちょっと立ち寄ってみましょうか」
セレネの快い許可の返事を聞き、シンはぱっと表情を明るくさせた。
「ありがとうございます! よし、それじゃあリプルズへの道中、まずはそのドワーフの村に立ち寄って武器を探しに行きましょう!」
こうして水の都へ向かう旅の行先に、腕利きの職人が眠るドワーフの村が新たに加わり、二人はさらなる出会いと冒険に向けて気持ちを新たに再び砂船へと乗り込んだ。
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