48話
神殿のホールに足を踏み入れたシンとセレネの視線の先、多くの騎士や神官たちに囲まれるようにして、一人の女性が静かに佇んでいた。
ウェーブのかかった美しい長金髪が揺れ、その身に纏う衣装は砂漠の太陽を思わせる温かな気品を放っている。落ち着いた大人の色気と、巫女としての厳かな威厳を併せ持った少女――土の巫女テラだった。
テラはこちらの姿に気づくと、周囲の神官たちに柔らかく一礼し、軽やかで優雅な足取りでこちらへと歩み寄ってきた。
そこに、同行していた侍女が小走りで駆け寄り、涙を拭いながら無事の帰還と遺跡での出来事を報告する。
「テラ様……! お戻りいたしました。この方々のおかげで、法具が修復され、街も救われました……!」
テラは侍女の肩にそっと手を置き、安堵の笑みを浮かべて告げた。
「よく戻ってきてくれたわ。本当にありがとう。……あなたが命を懸けて守ってくれたおかげで、街の皆が無事でいられたわ」
そう侍女をねぎらった後、テラは静かにシンとセレネに向き直り、柔らかく微笑んだ。
「セレネ、そしてシンさんですね。急ぎお話があります。こちらの応接室へどうぞ」
◇◇◇◇
神殿の一角にある静かな応接室に通され、心地よい冷気の漂うソファに腰を下ろしてしばらく待つと、扉が静かに開き、テラが上品な足取りで入ってきた。
「待たせてごめんなさいね」
席に着くなり、セレネは親しみを込めた笑みを浮かべてテラに声をかけた。
「久しぶりね、テラ。今回の件は本当にお疲れ様、大変だったわね。まさか街があんな巨大な砂嵐に囲まれるなんて」
「ええ、本当にどうなることかと思ったわ。でも、こうしてあなたが来てくれて、本当に心強かったわ、セレネ」
二人は旧知の仲らしく、リラックスした様子で会話に花を咲かせる。しばらく互いの無事を喜び合うように言葉を交わしたあと、テラはふと視線を横のシンへと移した。
テラは優雅に椅子から立ち上がると、シンの前でふわりと美しく一礼した。
「初めまして、シンさん。私は土の巫女のテラと申します。私たちの街、そして大切なオアシスの水源を救ってくださり、本当にありがとうございました」
「いえ、顔を上げてください、テラさん。僕たちは困っている人を放っておけなかっただけですし、セレネや侍女さんの協力がなければ絶対に無理でしたから」
シンが少し照れくさそうに頭を下げると、テラは柔らかく微笑み、再び席に座り直した。
「それにしても……」
セレネが腕を組み、真剣な表情に戻る。
「イグニスの火山で起きた異変といい、今回のヴェールダンの砂嵐といい、偶然にしては出来すぎているわね。この二つの出来事は、間違いなく繋がっているわ」
「私もそう思います」
シンもうなずき、遺跡の最奥で遭遇した奇妙な人物の話題を切り出した。
「それに、遺跡の最奥で出会った黒いローブの男の言葉も引っかかる。あいつはセレネを見て『今回の風の巫女か』と言っていました。まるで、先代の巫女を知っているような口ぶりでしたし……他にも何かを知っている様子でした」
テラは眉をひそめ、腕を組んで考え込む。
「黒いローブの男……。そんな者が遺跡の奥に侵入していたのね。しかも、私たちの知らないところで何者かが裏で糸を引いているというのなら、事態はもっと深刻かもしれないわね」
「何か手掛かりが欲しいですね。この世界の異変の真相や、あの男の目的を突き止めるために、古い文献などを調べられないでしょうか?」
シンの問いかけに、テラは少し思案したあと、明るい表情で答えた。
「それなら、中央都市のヴェリタスに行くといいわ。あそこには世界中から集められた古い文献や古代の資料が保管されている大きな書庫があるの。何か知っていることが見つかるかもしれないわ」
「中央都市のヴェリタス、ね……。確かに、そこなら確実な情報が得られそうね」
セレネが腕を組み、納得したように頷く。だが、すぐにその美しい顔に影が差した。
「でも……ヴェリタスに向かう前に、どうしても気になることがあるのよ」
「どうかしたの、セレネ?」
テラが首をかしげると、セレネは難しい表情のままシンをちらりと見据えた。
「水の巫女のミズキのところよ。火山も、ここヴェールダンも異常が起きたなら、水の都も何かあってもおかしくないわ。ミズキのことが、どうしても心配なのよ」
セレネの言葉に、神殿の応接室の空気がわずかにピリッと引き締まる。
シンは彼女の不安を察し、静かに頷いて見せた。
「わかりました。では、ヴェリタスへ行く前に、まずは水の都の状態を確認しに行きましょう。どちらにせよ、放置できる問題ではありませんからね」
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