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47話

静けさを取り戻した広場の真ん中で、限界を迎えた一人の少年が砂の床へと崩れ落ちた。


「シン……っ!」


ゴーレムが完全に崩れ去ったのを確認するやいなや、セレネは切迫した足取りでシンのもとへと駆け寄る。その場に膝をつき、ぐったりと倒れ込んでいるシンの身体を優しく抱き起こした。


「シン、しっかりして! 大丈夫なの……!?」

「……ふぅ、心配かけました。意識は……ありますよ。ただ、体中の魔力を根こそぎ持っていかれたみたいで、指一本動かすのも一苦労ですね……」


シンは荒い息を整えながら、力なく苦笑を浮かべる。その顔面は極限まで魔力を消耗した者特有の青白さに染まり、魔力欠乏状態特有の激しい倦怠感が彼の肉体を内側から蝕んでいた。立ち上がろうと腕に力を込めてみるものの、膝がガタガタと震えるだけで、自力で立つことは到底かなわない。


「だめだ……身体に全然力が入りません。まるで鉛みたいだ……」

「無茶をするからよ! 火山の時もそうだったじゃない……!」


セレネの声音には、怒りとそれを大きく上回る深い心配の色が混じり合っていた。彼女は不安そうに周囲を見渡し、一刻も早くこの場から安全な場所へ脱出しなければならないと焦りを募らせる。


「とにかく、ここに長居するのは危険だわ。私が支えるから、早くここを出ましょう」

「いえ、セレネさん。僕は大丈夫ですから、先に行って……」

「馬鹿なこと言わないで。あなたを置いていけるわけないでしょう!」


頑なに自分を置いて行かせようとするシンを、セレネが強い口調で制止する。その時、静かに様子を見守っていた侍女が、やおらシンの傍らにそっと歩み寄った。


「……シン様、少し失礼します」

「え……?」


侍女はシンの背中にそっと手を添えると、目を閉じて自身の魔力を静かに練り上げた。次の瞬間、彼女の身体から温かな白い光がふわりと浮かび上がり、光の粒子はやがて一つの塊となってシンの身体へと優しく吸い込まれていった。


「――っ! これは……?」


光が溶け込んだ瞬間、先ほどまで冷え切っていたシンの体内に、嘘のように新しい魔力が巡っていく。顔を覆っていた青白さが引き、みるみるうちに血色が戻ってきた。


「驚きました……。これ、僕の魔力が……?」


シンが驚きに目を見張りながら自分の両手を握りしめると、侍女はどこか誇らしげに、しかし穏やかに微笑んだ。


「はい。私の家系に伝わる、自分の魔力を他者に譲渡する秘術です。普段の生活で使う機会などほとんどありませんでしたが……、こうして危機を救ってくれたあなたのお役に立てたなら何よりです」

「ありがとうございます、本当に助かりました……!」


満ちてきた魔力に支えられ、シンはふらつきながらも自分の足でしっかりと立ち上がった。体調が完全に万全とはいえないまでも、動くには十分すぎるほどのエネルギーが戻っている。


「よし、身体の動くうちにこの遺跡を出ましょう。ヴェールダンのみんなも、テラさんも待っているはずだ」

「ええ、急ぎましょう!」


二人の合意のもと、僕たちは崩壊した広場を背にして、一気に遺跡の出口へと駆け戻った。


◇◇◇◇


重苦しい地下通路を抜け、地上へと続く大門をくぐり抜けた瞬間、僕たちの視界に飛び込んできたのは、世界が変わったかのような光景だった。


「……あ……!」


先ほどまで僕たちの進路を阻み、すべてを飲み込んできた不気味な砂嵐の壁はすっかり霧散し、頭上にはどこまでも広がる抜けるような青空が広がっていた。あの激しい嵐がまるで嘘だったかのように、大気は穏やかに澄み渡っている。

そして、その眼下に広がる光景を見て、案内役の侍女が歓喜の声を上げた。


「見てください……! あれこそが、巫女テラ様が治めるオアシスの街、ヴェールダンです!」


侍女が指し示した先には、巨大な蒼い湖を中心にして広がる、美しく巨大なオアシスの街が堂々と姿を現していた。確かに砂嵐の影響で全体的に砂に埋もれて茶色になっている箇所はあるものの、街そのものはしっかりと形を保ち、人々を包み込んで健在を示していた。


「法具が修復されたおかげで、街を囲んでいた厄災が消え去ったのね……!」


セレネが安堵の息を漏らし、シンもまた力強く頷いた。


「間に合ったようですね。さあ、街へ急ぎましょう!」


三人は足早に砂漠の斜面を下り、オアシスの街ヴェールダンへと歩みを進めた。街の門をくぐると、住民たちは混乱から立ち直りつつあり、日常を取り戻そうと動き始めていた。僕たちはそのままの勢いで、街の中心にそびえ立つ神殿へと向かった。


神殿の巨大な大扉を押し開けて中に入ると、広々とした神殿ホールには多くの護衛騎士や侍女、そして神官たちが慌ただしく動き回っていた。そのピリッとした緊張感の漂う空間の中央で、ひときわ強い注目を集める一人の人物が静かに佇んでいる。

黄金色の砂を思わせる美しい髪を揺らし、神秘的な雰囲気を纏った少女。

土の巫女――テラとの、運命的な邂逅が、今まさに果たされようとしていた。

読んでいただきありがとうございます!

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