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4/8

4話

初めての執筆になります。

拙作ですが温かい目で見ていただけますと嬉しいです。

「まさか、あの男がまた懲りずに仕事を探しているとは思いませんでしたよ」


地下牢の硬い石畳に響く足音とともに、交代の衛兵が複雑な表情を浮かべながらセレネに歩み寄った。

かつて私物を渡して叱責された一件以来、彼らはシンの対応について慎重を期すようになっていた。

しかし、当のシンといえば反省の色がないわけではないのだが、じっと座っているだけの毎日に耐えかねているのか、顔を合わせるたびに何か手伝えることはないかと穏やかに尋ねてくるのだという。


数日前に起きた一件のせいで、衛兵は再びシンから声をかけられた際に大いに気まずい思いをしたらしい。彼は首をすくめながら、どこか困惑した口調で言葉を続けた。


「厳重に管理すべき不審者のはずなのですが……あまりにも自然に、しかも真剣な顔で『お役に立ちたい』などと言われてしまうと、こちらとしてもどう接したものか分からなくなってしまいまして。セレネ様、どうしたものでしょうか」


報告を受けたセレネは、小さく息をつきながら冷ややかな視線を地下牢の奥へと向けた。鉄格子の向こうで、シンは退屈するどころか、静かに天井の木目を眺めたり自分の指先を見つめたりして穏やかに過ごしている。

前代未聞の囚人である彼に、セレネは呆れを通り越して深いため息を零した。


「本当に、自分がどんな立場に置かれているのか分かっているのかしらね、あの人は」


つぶやきつつも、セレネの足は自然と地下牢の通路を進んでいた。鉄格子の手前に立つと、シンはすぐに気づいて柔らかな笑みを浮かべる。

その無防備すぎる態度に、彼女の胸のうちは何とも言えない複雑な感情で波立った。


「シン、あなたはまた衛兵に余計な話を持ちかけているそうね」

「あぁ、セレネさん。お疲れ様です。……すみません、じっとしているとどうも体が鈍ってしまって。それに、せっかく食事をいただいているのですから、何か形で恩返しをしたいと思いましてね」


悪びれる様子もなく淡々と語るシンを見て、セレネは眉間を軽く押さえた。前回のこともあるため軽々に私物を渡すわけにはいかないが、このまま無為な時間を過ごさせ続けるのも、彼女の生真面目な性格が許さなかった。

長老たちからの監視の目をクリアしつつ、彼に最低限の作業をさせる方法はないかと考え、セレネは腕を組む。


「……本当に、救い難いマイペースな人ね。そんなに何かを直したり作ったりしたいというなら…少し待ってなさい。」


セレネは踵を返して地下牢を出る。そして少しの時間が経った後、数冊の本を抱えて戻ってきた。

そして、外装の痛んだ書物とほつれかけた書物を縛るための紐と、補修するための道具を鉄格子の隙間から地下牢の中に入れる。


「これは村の資料室で保管されている書物よ。使い古されてボロボロになっているものを回収してきたわ。これの修繕なら、危険な道具を使うわけでもないし、誰かに危害を加えることもできないでしょう。どうしても動きたいなら、これを綺麗にしなさい」

「おや、これはありがたいですね。お任せください、丁寧に仕上げますよ」


シンは嬉しそうにそれを拾い上げると、丁寧な手つきで本の修繕に取り掛かるため道具を広げ始めた。その手つきは驚くほど滑らかで、まるで長年職人として生きてきたかのような洗練された美しさがあった。

雑用を任されただけだというのに、彼は子供のように満足そうな笑みを浮かべて作業に没頭している。

鉄格子の手前でその手際をじっと見つめながら、セレネの胸のなかでは相反する二つの思いが激しくせめぎ合っていた。


――この男は、これほどまでに手先が器用で、しかも他人のために動くことを厭わない。昨日だって、自分が衛兵を叱ったときに自分の身を顧みず相手を庇ってみせた。そんな人間が、悪意を持ってこの村に潜り込んだスパイや刺客なのだろうか?

そう考えてシンの無害さを信じかけた瞬間、別の冷徹な思考が頭をもたげる。


――待って。もし、この穏やかさや親切な振る舞いそのものが、こちらの警戒心を解くための周到な演技だとしたら? 記憶喪失という都合の良い設定も、すべて村の裏をかくための偽装だとしたら?巫女である私が私情に流されて油断した隙に、村の外から仲間を手引きしたり、誰かを人質にして暴れたら?


得体の知れない不安が冷たい波のように心をかすめ、セレネは思わずぎっと唇を噛み締めた。これほどまでに他人の存在が自分の思考を乱したことなど、長い巫女としての人生の中で一度もなかった。


「……あまり衛兵たちに迷惑をかけないで。すぐに終わらせなさい」


動揺を隠すように冷たい口調を繕い、セレネはそれ以上シンの顔を見ないようにして踵を返した。背後から聞こえてくる「はい、分かりました」というシンの穏やかな返事が、妙に耳に残って離れなかった。

読んでいただきありがとうございます!

この作品が「面白い」「続きが気になる」と思った方はぜひ評価をいただけますと執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

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