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36話

「――全魔力、限界まで解放するわよ!」


レナの鋭い叫びを合図に、レナとセレネの二人の巫女は、膨大な魔力を己の杖へと集約させ始めた。二人の周囲の空気が激しく震え、圧倒的な魔圧が視認できるほどの光の粒子となって渦巻く。

自分を守る取り巻きがいなくなった巨大な魔獣は、自らの敗北を本能で察知したのか、凄まじい狂気を帯びた眼光を巫女たちに向けた。


「オオォォォ――ッ!!」


魔獣が大きく喉を鳴らし、すべてを焼き尽くさんとする破滅的な黒炎のブレスを吐き出そうと口を大きく開く。その照準の先には、まさに最大魔法を詠唱中で無防備なレナとセレネが捉えられていた。


「させるか!」


叫んだのは、侍女たちから付与された補助魔法を纏った護衛騎士たちだった。彼らは一斉に巨大な金属の重盾をガシリと噛み合わせ、分厚い鉄の壁を作り上げて魔獣の正面へと立ちはだかる。


轟音とともに、灼熱のブレスが騎士たちの盾めがけて直撃した。あまりの高熱に盾が赤々と焼けただれ、衝撃の凄まじさに騎士たちの足元が深く抉られ、後方へと押し戻されていく。


「ぐっ……耐えろ、巫女様たちに一歩も通すな!」


騎士たちの血を吐くような怒号が響き渡る中、ブレスを放ち続ける魔獣の巨大な脇腹――そのがら空きとなった側面に、影のように忍び寄る人影があった。


「隙だらけだ」


シンは闘志を宿した瞳で巨大な槌を振りかぶる。全身の筋肉を限界まで絞り込み、重力と遠心力を乗せた渾身の一撃を、魔獣の右前足の関節へと叩きつけた。

ガキィィイイイッ!! と、神殿の天井が揺らぐほどの重い金属音が轟く。

硬質な外殻が砕け散る感触がシンの手にダイレクトに伝わり、完璧に重心を捉えられた魔獣は、その巨体でありながら大きくバランスを崩した。


「グアッ……!?」


バランスを崩したことで、魔獣の口から放たれていた致命的な黒炎のブレスの勢いがぴたりと途切れる。ブレスの消滅と同時に、防御を固めていた騎士たちが一斉に反撃の狼煙を上げた。


「今だ、総員突撃! 隙だらけの体に叩き込め!」


騎士たちの統率された動きのもと、前衛の騎士たちが一斉に踏み込み、鋭い剣尖と槍を魔獣の装甲の隙間や無防備な胴体へと容赦なく突き立てる。次々と突き刺さる刃に、魔獣は苦痛の咆哮を上げようとするが、すでにその巨体を支える力は残されていなかった。

そして、その絶好の好機を、後方に控えていた二人の巫女が見逃すはずがなかった。


「これで終わりよ! 『炎霊よ、すべてを灰燼に帰せ!』」

「『風神の断罪よ、彼の者の魂を切り裂け!』」


レナの放った太陽の如き超高熱の紅蓮の炎と、セレネの放ったすべてを切り裂く真空の刃が、一点の淀みもなく融合し、巨大な光の奔流となって魔獣の巨体を文字通り飲み込んだ。

世界が眩い閃光と轟音に包まれ、魔獣の絶叫がかき消されていく。極限の魔力が収束した瞬間、巨大な魔獣の姿は跡形もなく霧散し、ただ静寂と、冷めない熱気だけが神殿の広場に残されたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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