32話
灼熱の太陽が容赦なく降り注ぐ朝、火山のふもとには、すでに死闘の予感を孕んだ重苦しい熱気が満ちていた。
「この道なら、誰にも見つからずに中腹まで行けるはずよ」
レナが先頭に立ち、指し示した先は鬱蒼と茂る木々や崩れた岩塊に覆われた、かつての古い登山道だった。草木が茂りすぎて地図には載っていないような険しい獣道だが、火山から降りてくる魔物に気付かれず、大神殿へ直行するには、これ以上ない隠れ道だ。
シンは背中に担いだ巨大な槌の重みを確かめながら、レナの背中を追う。ふと、シンと並んで歩いていたレナが、不思議そうな視線をシンの装備に向けた。
「ねえシン、ずっと気になってたけど、やけにゴツい武器を持ってない? まさかそんな重そうな槌を振り回すの?」
いきなりの指摘に、シンは少し気恥ずかしそうに鼻の頭をかいた。
「ああ、これですか?昨日街の武器屋で購入したものなんです。先日の戦いで攻撃が全然通らなかったから……。これなら、相手の堅い外殻ごと打ち抜くことができますし、重い攻撃を防ぐこともできます。」
シンが背中の槌と、掌を保護する頑丈な籠手を見せると、隣で歩いていたセレネが興味深そうに目を細めた。
「てっきりシンは短剣とか身軽な武器を好んでいるのかと思っていたから、そういった武器も使うことに驚いたわ。」
「専門ではありませんが…。そう言うセレネだって、衣装を変えましたね。」
「そうなの。熱に強い素材を使っているから、今のところは快適だわ。」
他愛のない会話を交わしながら、険しい斜面を登り続ける。しかし、その平和な時間は長くは続かなかった。背後の街の方角から、大地を揺るがすような轟音と、断末魔に近い凄まじい叫び声が響き渡った。
「始まったわね……冒険者たちが魔物を引き付けてくれているわ。今のうちに急ぎましょう!」
レナの緊迫した声に、一行は足早に大神殿を目指した。だが、そう易々と道を進ませてくれるほど、火山の魔物たちは甘くはなかった。
角を曲がった先で、全身が赤熱した溶岩のような外殻に覆われた岩石魔物が、咆哮を上げて道を塞いでいた。
「敵よ!」
「了解、受け止める!」
シンは巨大な槌を構え、魔物の突進を正面から受け流す。ガガガガッ、と凄まじい金属音が鳴り響き、シンの足元の地面がひび割れる。
「っ、堅いな……! でも、これで動きは止めたぞ!」
シンが魔物の懐に潜り込み、槌で強引に足止めをしているその横を、レナの護衛騎士たちがすり抜け奥の魔物に向かう。彼らはシンを横目で見やり、その荒っぽい戦い方を眉をひそめて眺めたが、今は目の前の敵に集中するしかない。
「下がって、シン! 『紅蓮の炎よ、敵を焼き払え!』」
レナが放った高純度の炎魔法が魔物を包み込み、その熱で外殻が赤く変色する。そこにセレネの精密な風魔法が追い打ちをかけ、魔物のバランスを完全に崩した。
「今よ、シン! とどめを!」
「これで終わりだ!」
シンが渾身の力で槌を叩きつけると、硬質だった魔物の外殻が砕け散り、魔物は光となって消滅した。
「ふう……ナイスコンビネーションね、レナ!」
「セレネのアシストのおかげね!」
魔物が霧散したのを確認し、二人の巫女が互いの手腕を称え合う。
そしてレナの護衛騎士たちは奥に控えていた魔物を排除して戻ってくる。
しかし護衛騎士たちは、シンを冷ややかな目で見ていた。彼らにとって、巫女の護衛とは、もっと洗練された立ち回りをすべきものだというプライドがあるのかもしれない。彼らの視線には、シンの戦闘スタイルに対する明確な拒絶と不信感が浮かんでいた。シンはそれに気づいていながらも、今は大神殿へ向かうことが最優先だと判断し、何も言わずに槌を担ぎ直した。
「先を急ぎましょう。休んでいる暇はないわよ」
レナの言葉に全員がうなずき、再び険しい道へと歩みを進める。大神殿の鐘の音が、遠くからかすかに聞こえていた。
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