↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/84

29話

昨夜、宿場の食堂で同行の約束を交わしたシンとセレネは、約束通り翌朝早くからギルの馬車に乗り込み、火の巫女のいる業火の街イグニスを目指して移動を開始していた。

足の負担が減ったことはありがたかったが、馬車の荷台はギルの商売道具や様々な荷物でみっしりと埋め尽くされており、二人が座るスペースはかなり限られていた。


「いやぁ、お二人を護衛にお願いできたのは本当に心強いですね。道中の安全がかなり確保されているだけで、商売人としては何よりの安心ですよ」


御者台に座りながら、ギルは振り返って爽やかな笑顔を向けてきた。


「私たちにとっても、こうして馬車に乗せていただけるのは助かりますからお互い様ですよ。それにしても、ギルさんは色々な場所を回っているんですね。荷物もたくさん積まれていますし」


荷物の隙間に腰を下ろしながら、シンは興味深そうに周囲の木箱や麻袋を見やった。


「ええ、今は大陸中央の賢者の都ヴェリタスを拠点にして、各地を転々と行商しているんです。今回は、イグニスに立ち寄って向こうの特産である香辛料や耐熱性の高い鉱石などを買い付ける予定でしてね。逆にこちらからは、この地域では珍しい北部や中央の魔物素材や金属などを卸すつもりなんですよ」


ギルが楽しそうに説明すると、隣で聞いていたセレネがわずかに眉を動かした。


「ヴェリタスから来たのね。あそこは大陸の中でも特に栄えている場所だって聞いたことがあるわ」


セレネの言葉に、ギルは大きくうなずいた。


「その通りです! ヴェリタスは大陸の中央都市ですからね。巨大な魔法研究所や有名な魔法学園があって、優秀な魔導士や研究者がわんさか集まっているんです。他の地方都市と比べても活気が段違いですし、新しい技術や珍しいアイテムが一番最初に流通する街ですよ。まあ、その分だけ人間関係も色々とうるさいところではありますがね」


ギルは苦笑しながら肩をすくめる。


「新しい技術、ですか……」


シンは自分の手のひらをそっと見つめ、小さく呟いた。この世界における魔法の常識とは少し外れた自分の治癒魔法のあり方を思い出しながら、興味をそそられている様子だった。


「まぁ、そんなふうに都は賑やかですが、一歩外の街道に出てみると最近は物騒な話ばかりです。昔なら山賊や野盗に気をつけていればよかったんですがね、最近は魔物の出没頻度が異常に高くなっていて、人間よりそっちの警戒を優先しなさいと言われるくらいです」


ギルは真剣な面持ちになり、馬車のスピードを少し緩めながら周囲の岩肌に目を光らせた。


「魔物の出没が増えているのは、私たちもこの旅で実感しているところよ。各地で同じような状況なのかしら?」


「ええ。たとえば東の水上都市リプルズなんかでは、海の魔物たちが以前よりも頻繁に陸地に近づいてきたり、漁に出ていた船が襲われる被害が深刻化しているって聞きますよ。大陸全体で何かが起きているんじゃないかと、商人の間でも専らの噂です」


ギルが語る深刻な情勢に、シンとセレネは自然と表情を引き締めた。やはり、自分たちが村を出て原因を探る旅に出たことは間違いではなかったのだと、改めて認識させられる。

馬車のガタゴトという揺れと、ギルとの世間話がしばらく続いていたその時だった。

前方の草陰から、ガサリと不気味な音が響いた。


「前方に魔物!」


馬車の外で警戒していた護衛が声を張り上げると同時に、馬車が急停止する。荷物の隙間から飛び降りたシンとセレネの視線の先から、赤黒い外殻に身を包んだ大型の地殻魔物が、地響きを立てながら猛然と突進してきた。


「シン、来るわよ!」

「分かってます!」


瞬時に戦闘態勢に入った二人は、お互いにアイコンタクトを交わすと同時に動いた。シンが正面から魔物の突進を迎え撃つべく剣を構え、その隙を突いてセレネが精霊魔法の詠唱を始める。

他の護衛は馬車を守るようにシン同様に正面から迎え撃つほか、側面や背後からの奇襲に警戒をしている。

ガキィンッ! と、金属と硬質な外殻が激しく衝突する乾いた音が街道に響き渡った。シンの剣が魔物の巨体を押し留めるが、火山付近の魔物特有の凄まじい熱量と膂力に、シンの体がわずかに押し戻される。


「くっ……やっぱり硬い!」


正面からの力比べに苦戦するシンに向かって、魔物の死角である右側から、もう一匹の同種の魔物が鋭い鎌のような前足を振り上げて奇襲を仕掛けてきた。


「シン、危ないっ!」


後方に控えていたセレネが叫ぶ。だが、叫び声よりも早く、大きな戦斧を振りかぶった護衛が魔物に肉薄し、鎌を弾き飛ばす。

そして素早く斧を振り甲殻ごと頭部を破壊する。

シンは、再び攻撃を仕掛けてくる相手の勢いを受け流し、柔らかい関節部を狙って斬り飛ばし、相手の機動力を削ぐ。


「後方からも敵襲!」


馬車の背後を警戒していた護衛が叫ぶ。

シンが背後を見ると、同じ魔物がこちらに近づいている。


「背後に回って足止めを頼む!」


護衛から指示を受けシンが魔物の足止めに向かう。

すでにセレネが風の魔法で牽制し、警戒していた護衛も弓矢で関節や目を狙撃している。


「意識を逸らします。その瞬間に攻撃を!」


セレネとすれ違うタイミングで伝え、魔物の攻撃を受け流しつつ意識を逸らす。そのタイミングでセレネが切断力に特化した風の魔法で魔物を切断し、断末魔を上げて倒れる。

シンが周囲を警戒し、ほかに増援がいないことを確認しているときにセレネが傍にやってきた。


「これだけの数を一度に相手をすると大変だったわね…」

「そうですね。私たちだけではもっと時間がかかっていたと思います。」


と護衛も近づいてきて話しかける。

その瞬間、倒したはずの魔物が突然起き上がり、巨大な鎌を水平に薙ぎ払う。

狙いはセレネで、突然のことに反応ができず硬直している。


(間に合わない……なら、これしかない!)


魔物の動きに気付いたシンは迷うことなく左腕に治癒魔法の魔力を纏わせ、その魔力の質を一部強制的に肉体強化へと変えつつ、魔物の鎌へと直撃させたる。


瞬間、グサリと肉を裂くような重い感触と、一瞬にして神経を焼くような耐えがたい熱と痛みが走る。しかし、それと同時に腕に纏わせた治癒魔法が驚異的な速度でその傷口をその場で瞬時に修復していく。

痛みと再生が同時に神経を駆け抜ける感覚の中、シンはその治癒魔法で強制的にブーストされた左腕に全体重を乗せ、そのまま魔物の鎌を砕き、鞘から抜いた剣を渾身の力で叩きつけた。


「うおおおっ!」


ドグァッ!という重い破裂音と共に、硬い外殻をまとった巨体の魔物が大きく吹き飛び、街道脇の岩肌に激突してぐったりと動かなくなった。


「シン! 何をやっているの!」


硬直から回復したセレネが、青ざめた顔で駆け寄ってくる。その瞳には、怒りと焦りが激しく入り交じっている。


「いま、自分の腕を……なんて無茶を!自傷行為みたいなことはやめてって言ったはずよ!」


セレネは声を荒らげ、シンの腕を無理やり引っ張って傷の具合を確認しようとする。しかし、シンは自分の腕を軽く動かして見せ、落ち着いたトーンで彼女を見据えた。


「怒るのも分かりますけど、落ち着いてください。実際やってみて分かりましたけど、一切痛みが残らないんです。それに、あの状況で敵の硬い外殻を確実に打ち抜くには、これが自分の中で一番効果的な攻撃方法かもしれないと思ったんです。」

「効果的だからって、自分の体を傷つける戦い方をしていい理由にはならないわ! 私が魔物の傍で不注意だったのがいけなかった。ごめんなさい…。」


セレネの瞳に大粒の涙が浮かびそうになるのを見て、シンは少し気まずそうに目を逸らしつつも、はっきりとまっすぐな声で告げた。


「……セレネを守るのが僕のやることです。それに自分はこれくらいの痛みを負うことなんて何とも思いませんから」

「……。」


二人が言葉を失って見つめ合っているその傍らで、「終わったんですね!ありがとうございます!」と声を上げながらギルが馬車の御者台から降りてきた。


「いやぁ、見事な連携でしたね! おかげでこちらは安心して見ているだけで……おや?」


ギルは感心したように拍手しながら魔物の死体に近づいたが、ふと足を止め、首をかしげた。


「どうかしたのですか、ギルさん?」


セレネが少し慌てた様子で涙を袖で拭きながら問いかけると、ギルはしゃがみ込み、シンが叩き伏せた魔物の外殻を指さした。


「変だな……この魔物、外殻が硬いのが特徴のはずなんですが、ここ、まるで内側から組織が崩壊したみたいに、外殻がボロボロに粉々になって溶けていますよ。こんなの、普通の攻撃じゃ絶対にありえない壊れ方だ……」


ギルのその言葉を聞いた瞬間、シンとセレネは顔を見合わせたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

この作品が「面白い」「続きが気になる」と思った方はぜひ評価をいただけますと執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。