第95話 群れが来る
翌朝。
観測所で起きた夜間の変化を確認していたところへ、セイルが走り込んできた。
「村から連絡! 魔物の群れが街道を南下してる!」
「数は?」
担任が立ち上がる。
「確認できただけで30以上。牙猪と角鹿が混ざってる。村の方向へ向かってる!」
調査は中断された。
レオンたちは必要な装備だけを持ち、村へ向かう。
途中で別班と合流する。
先行していた学院生から、さらに情報が入った。
「群れは増えています。50近い可能性があります」
「襲撃する動きは?」
レオンが尋ねる。
「分からない。止まらず走ってる」
村へ到着すると、住民たちはすでに避難を始めていた。
しかし、家畜や荷物を取りに戻ろうとする者も多く、道が混乱している。
担任が6人を見る。
「何をする?」
「討伐じゃない」
レオンは即答した。
「村人を先に逃がす。群れの進路を確認して、村を避けさせる」
「できるか?」
「やる」
役割を分ける。
「セイル、群れの先頭を確認して戻って。ガルドは避難路。ノアは水路側の道が使えるか見て。ミナは群れの魔力を確認。ユリアは俺と進路を作る」
6人が散った。
ガルドは村の入口へ盾を置き、住民を街道の反対側へ誘導する。
荷車が溝へ落ちると、荷物を降ろして道を空けた。
「荷物は後だ! 先に人を出せ!」
「でも、冬の麦が!」
「命があれば取りに戻れる!」
村の外では、地面の震えが近づいていた。
セイルが戻る。
「群れは襲う形じゃない! 全部、同じ方向へ走ってる!」
「追われてる?」
「後ろは見えなかった。数が多すぎる!」
ミナも走ってくる。
「魔力がばらばら。戦う時みたいに集まってない!」
北東森林で見た魔物と同じだった。
人里を目指しているのではない。
何かから離れようとしている。
「ユリア!」
「分かってるわ!」
村の正面を塞ぐのではなく、東側へ緩やかな氷の壁を作る。
完全な壁ではない。
群れが嫌がって進路を変える程度の高さにする。
ノアが水路の水を引き、氷を作る範囲だけを濡らした。
遠くから、無数の蹄の音が聞こえる。
最初の牙猪が木々の間から飛び出した。
その後ろに、数十体。
レオンは左手からゼロスレッドを伸ばす。
倒すためではない。
群れを、村から外すために。
第96話 倒すより先に
牙猪の群れが村の手前へ迫る。
先頭の数体がユリアの氷へ気づき、進路を東へ変えた。
後続もそれに続く。
だが、すべてではなかった。
群れの中央にいた大型の牙猪が、前の個体へ押されて氷を踏んだ。
脚が滑る。
巨体が横倒しになり、後続の魔物が次々とぶつかった。
「崩れる!」
ユリアが氷を解除する。
しかし、遅かった。
混乱した数体が群れから外れ、村へ向きを変える。
ガルドが盾を構えた。
「こっちは任せろ!」
1体目を盾で受ける。
衝撃でガルドの足が土へ沈む。
2体目は横を抜けようとした。
レオンがゼロスレッドを脚へ巻きつける。
引き倒すのではなく、走る方向だけをずらす。
牙猪が身体を振る。
糸が食い込み、皮膚が裂けた。
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
「硬すぎる!」
左手だけでは、巨体の勢いを完全には殺せない。
右手へ魔力を集める。
夜の観測所で試した一点圧縮。
線ではなく、点。
接近してきた牙猪の肩へ右手を突き出した。
「っ!」
魔力が接触する直前に広がった。
手のひらから鈍い衝撃だけが伝わり、牙猪はほとんど止まらない。
身体ごと弾かれる。
レオンはゼロステップで足裏へ魔力を流した。
踏ん張った力を逃がさず、後方への移動へ変える。
倒れずに距離を取るが、右手首へ痛みが走った。
「レオン!」
ノアの水球が牙猪の目の前で弾ける。
視界を遮られた魔物が首を振った。
セイルが横から木剣を叩き込む。
「何やった!?」
「失敗した!」
「見れば分かる!」
ガルドが盾で牙猪の進路を塞ぐ。
ユリアが足元だけを凍らせ、ようやく動きが止まった。
レオンは右手を見る。
広く押しても意味がない。
牙猪の身体全体を止める火力は、自分にはない。
必要なのは、もっと狭い場所。
関節。
腱。
装甲の隙間。
ミナが叫ぶ。
「右前脚! 肩の下、魔力が薄い!」
レオンは踏み込んだ。
右手の指先へ魔力を集める。
また広がる。
集中が足りない。
牙猪が頭を振り、牙がレオンの脇腹を掠めた。
学院服が裂け、皮膚に熱い痛みが走る。
ガルドが魔物を押し戻した。
「下がれ!」
レオンは退いた。
右手首が震えている。
今の状態で繰り返せば、先に腕が壊れる。
この場では完成しない。
「左手に戻す!」
ゼロスレッドで脚の動きを制限し、仲間へ指示を出す。
倒すための新しい技術を試すより、今は住民を守る。
その判断へ切り替えた瞬間、戦場が再び見えるようになった。
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