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第92話 教本にない季節

地方都市へ到着した翌朝。

レオンたちは最初の聞き取り調査へ向かった。

対象は、都市から半日ほど離れた農村だった。


村の周囲には麦畑が広がり、その外側を低い柵が囲んでいる。

魔物除けとしては簡素な作りだった。


「これで大丈夫なのか?」


ガルドが柵を軽く押す。


案内役の村人が苦笑する。


「昔はこれで十分だったんですよ」


「昔は?」


「ここ数年、牙猪が畑まで来るようになりましてね」


レオンが記録用紙を開く。


「どの時期に増えますか?」


「春先ですね。今年は特に早かった」


レオンの手が止まった。

学院の教本では、この地域の牙猪は初夏から活動が活発になると記されている。


「春先というのは、今年だけですか?」


「いや。3年くらい前からかな」


別の村人が会話に加わった。


「昔は夏前に柵を直せばよかったんだ。それが最近じゃ雪が溶けたらすぐだ」


ノアが学院から持参した生態記録を確認する。


「繁殖期は変わっていないんですか?」


「子連れを見る時期も早くなったよ」


聞き取りを終え、村の外へ出る。

ノアは納得できない様子で教本を見ていた。


「気温の変化かな」


「あり得るわ」


ユリアが答える。


「餌になる植物が増えたとか、別の魔物が減った可能性もあるわね」


「それなら、生態が変化した理由を探せばいい」


レオンは村人から聞いた時期を書き加える。


午後は森の手前で魔力濃度を測定した。

数値は学院の過去記録と大きく変わらない。


「魔力は普通だね」


ミナが周囲を見る。


「少なくとも今は」


その言葉どおり、特別な異常は見えなかった。


調査を終えて村へ戻る途中、セイルが畑の端で足を止めた。


「これ、牙猪じゃない」


泥の上に、大きな3本指の足跡が残っている。


担任がしゃがみ込み、幅を測った。


「何だと思う?」


鉤爪蜥蜴フックリザードに近いです」


ユリアが答える。


教本では、岩地を好む中型魔物。

この地域での生息記録はない。


村人を呼んで確認すると、返ってきた答えは予想と違った。


「それなら、去年から時々見るよ」


去年から。


学院の年次調査は、毎年行われている。


レオンは教本を閉じた。


北東森林だけではなかった。

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