↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/126

第85話 異常なしの数字

天幕を張り終えた頃には、森の中は薄暗くなっていた。

火を起こし、持参した食料で簡単な夕食を済ませる。地中から見つかった石の周囲には目印を置き、誰も誤って踏み込まないようにした。


担任は焚き火の前で、夜間の見張り順を決めた。


「2人ずつ交代する。最初はユリアとセイル。次にレオンとミナ。最後がガルドとノアだ」


「先生は寝ているんですか?」


ガルドが尋ねる。


「お前たちより先に異常へ気づける程度には起きている」


「それ、起きてるってことじゃねえか」


「見張りの役目を俺へ押しつけるな」


夜が深くなると、焚き火の光が届く範囲は急に狭くなった。

学院の訓練場と違い、森の中には完全な静寂がない。風で枝が擦れ、落ち葉の下を小さな生き物が動く。遠くで鳴き声が上がるたび、音の方向と距離を考える必要があった。


ユリアとセイルの見張りが終わり、レオンとミナが天幕の外へ出た。

焚き火へ薪を加えたあと、レオンは野営地の周囲をゆっくり歩く。右手から短いゼロスレッドを伸ばし、木々の間へ張った警戒用の糸へ触れた。


どの糸にも、強く引かれた形跡はない。


「右手、昨日より震えなくなってる」


ミナが小声で言う。


「短く出して、触れるだけだからな。引っ張ったり動かしたりすると、まだ安定しない」


「それでも早いよ」


「覚えるのが早くなっただけだ。腕が慣れたわけじゃない」


レオンは糸を消し、右肩を回した。

痛みはない。しかし、長く維持すれば熱が溜まってくる感覚は残っている。

熟練加速アクセラレートによって技術が先へ進んでも、身体まで同じ速さで強くなるわけではなかった。


見回りを終えた2人は、露出した石から少し離れた場所へ戻った。

昼間の確認では、石そのものに魔力は流れていなかった。周辺にも目立った異常はなく、学院から渡された魔力分布図では安定地域とされている。


ミナが石の方向を見たまま、僅かに首を傾げた。


「やっぱり、変なんだよね」


「魔力が見えるのか?」


「石からは見えない。でも、周りの魔力が少なすぎる」


「安定しているからじゃなくて?」


「安定してる場所でも、魔力は動いてるよ。風とか水みたいに、少しずつ流れてる。でも、あの石の近くだけ動きが弱い」


レオンは記録用紙へ書き込んだ。

魔力がないのではない。

周囲と比べて、流れが弱い。


それ以上の理由は、まだ分からない。


「朝になったら、測定器でもう一度確認しよう」


「数字に出るかな」


「出なかったとしても、それも記録になる」


見張りを交代するまで、石に変化は起きなかった。

物音も、魔力の反応もない。ただ地面の下に、人工的に削られた石が残っているだけだった。


翌朝、周囲が明るくなると、担任の許可を得て正式な測定を始めた。

学院から持参した魔力測定器は、3本の脚で地面へ固定し、中央の針へ周囲の魔力を集める構造になっている。


最初に、野営地から離れた川辺で測定した。

針は小さく揺れたあと、安定範囲の中央付近で止まる。


次に、森林側の端。

ここでも数値に大きな違いはなかった。


最後に、露出した石の近くへ測定器を置く。

ノアが脚の位置を整え、ユリアが時刻と天候を記録した。


「測定を開始する」


担任が装置を起動した。

中央の針が左右へ揺れ、やがて止まる。


表示されたのは、安定範囲内の数値だった。


「異常なし、か」


セイルが言う。


ミナだけは、測定器の下を見つめていた。


「もう1回やって」


「何か見えたのか?」


レオンが尋ねる。


「装置が動いた時だけ、魔力が下へ流れた」


担任は測定器を停止させた。


「石が反応したのか?」


「分からない。石から魔力が出たんじゃないよ。測定器が集めた魔力の一部が、地面の下へ抜けたように見えた」


担任は測定器を石から5歩ほど離し、もう一度起動した。

針は先ほどとほとんど同じ数値を示す。


「今は?」


「下には流れてない」


3度目は、石の縁へ近づけて測定した。

数値は変わらない。

しかし、ミナには再び魔力の一部が地中へ沈むように見えた。


「表示は同じだ」


ガルドが測定器を覗き込む。


「でも、中で起きてることは違うってことか?」


「まだ決めるな」


担任が記録用紙を指した。


「確認できた事実だけを書け。石の近くでも測定値は安定範囲内。測定時に、ミナが地中へ向かう弱い魔力の流れを確認した。装置を離すと、その流れは確認できなかった」


レオンは担任の言葉どおりに記録した。

そのあと、過去の測定結果を取り出して現在の数値と比較する。


3年前。

同じ地点で記録された値は、今朝の測定結果とほぼ一致していた。


「記録どおりですね」


ノアが少し安心したように言う。


「少なくとも、数字は合ってる」


「そうだな」


レオンは測定器と地中の石を見比べた。

学院の資料に書かれた数値は、間違っていないのかもしれない。


ただし、その数字が何を拾い、何を取りこぼしているのかまでは書かれていなかった。


担任は測定器を片づけ、野営地の地図へ印を付けた。


「この石には、これ以上触れない。予定どおり、事前報告にあった道標を確認しに行く」


一行は天幕を残し、必要な装備だけを持って森林の奥へ向かう。

古い地図に描かれた3基の境界標。そのうち、野営地の下にある2基目は見つかった。


次に向かうのは、地上へ露出していると報告された1基目だった。


レオンは出発前に、測定記録へ最後の一文を加えた。


測定値、異常なし。


ただし、測定時にのみ、記録されない魔力移動を確認。

良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。