↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/126

第82話 6人の役割

北東森林地帯への出発まで、残り6日。

レオンたち6人は、第3訓練場の中央に並んでいた。

目の前には、倒木や岩壁を模した障害物が置かれ、その奥に赤い布を巻いた木製人形が立っている。


「今日の課題は、あの人形を回収してここまで運ぶことだ」


担任は、レオンたちへ1枚ずつ記録用紙を渡した。


「制限時間は20分。人形は負傷した住民として扱う。周囲の地形、発見した危険、各自の行動も記録しろ」


「敵はいないんですか?」


ガルドが尋ねる。


「いるかもしれないし、いないかもしれない。事前に分かる任務ばかりだと思うな」


訓練場の中には、魔物を模した標的も置かれていた。動くもの、地面に伏せているもの、岩陰から半身だけを見せているものがある。

どれが動くかは知らされていない。


「役割を決める」


ユリアが地図を広げた。


「セイルは先行確認。ミナは魔力の流れを見る。ノアは足場と水分の変化。ガルドは人形の回収と防衛。私は進路を作る」


「レオンは?」


ノアが尋ねる。


「全員の情報を集めて、進路を決めてもらう」


レオンは頷いた。

戦闘なら、目の前の相手を見ればよかった。

今回は6人が別々に得た情報をつなぎ、限られた時間で判断しなければならない。


担任が片手を上げる。


「始めろ」


セイルが風をまとい、障害物の間を駆け抜けた。ユリアがその後を追い、足元へ薄く氷を広げる。

ミナとノアは左右へ分かれた。ガルドは中央を進み、レオンは全員が見える位置を保つ。


「右側、伏せてる標的に魔力が流れた!」


ミナの声が飛ぶ。


「動くぞ!」


ガルドが盾を構えた。

伏せていた獣型の標的が跳ね上がり、木製の牙を向ける。ガルドが正面から受け止め、ユリアの氷が標的の脚を固定した。


その間に、セイルが倒木の奥から声を上げる。


「人形を見つけた! ただし、左側の地面が沈んでる!」


「水が溜まってる。見た目より深いよ!」


ノアが地面へ触れながら続ける。


レオンは右手を開いた。

前日の訓練では、右手から伸ばしたゼロスレッドが木杭まで届いた。今日は糸を倒木へ固定し、距離と進路を確かめる。

右の人差し指から、色のない糸が伸びる。太さはまだ一定ではないが、前日より震えは少なかった。


糸が倒木へ触れる。

レオンは張り具合から距離を測ろうとした。


その瞬間、訓練場の左側で金属音が鳴った。


別の標的が起動していた。

木製の腕から放たれた球が、セイルの背中へ向かう。


「セイル、後ろ!」


レオンの声より早く、ガルドが盾を投げた。

球が盾へぶつかり、地面へ転がる。


「前だけ見るな!」


ガルドが叫ぶ。


「分かってる!」


レオンは答えたが、右手の糸はすでに切れていた。

右手の制御に意識を向けすぎて、周囲の変化を見落とした。


その後も判断が遅れた。

人形までの安全な進路を決めきれず、ユリアが作った氷の道も途中で途切れた。セイルが人形へ到達した時には、制限時間の半分を使っていた。

ガルドが人形を担ぎ、全員で開始地点へ戻った時、鐘が鳴った。


20分を超えていた。


担任は記録用紙を受け取らず、レオンを見る。


「右手の糸は昨日より良くなったな」


「でも、任務は失敗しました」


「お前は右手を使うことを目的にした。今日の目的は何だった?」


「人形を回収して、全員で戻ることです」


「なら、必要のない場面で新しい技術を試すな。使える魔法が増えても、選択を間違えれば役には立たない」


熟練加速アクセラレートは、理解した技術の習熟を早める。

右手のゼロスレッドも、昨日より確実に安定していた。

だが、どの場面で使うべきかまでは教えてくれない。


「もう1回お願いします」


レオンが言う。


担任は訓練場の装置を元の位置へ戻した。


「今度は15分だ」


「短くなってるじゃねえか」


ガルドが顔をしかめる。


「1度見た地形を使って、同じ時間をかけるつもりか?」


2回目が始まった。

レオンは右手の魔法を使わなかった。セイルの報告を聞き、ミナとノアが見つけた危険箇所を地図へ書き込む。

ユリアには足場の補強を頼み、ガルドには標的を倒すのではなく、人形までの道を守るよう伝えた。


「右の標的は動かさなくていい。前を通らなければ反応しない」


「分かった」


「セイルは人形の状態を確認。動かす前に怪我の場所を教えて」


「了解」


今度は情報が途切れなかった。

ガルドが人形を担ぎ、ユリアの作った足場を戻る。標的が起動すると、ノアの水がその足元を濡らし、ミナが魔力の流れから次の動きを伝えた。

レオンは全員の位置を確認しながら、最後尾を歩いた。


鐘が鳴る前に、6人は開始地点へ戻った。


「13分42秒」


担任が告げる。


ガルドが人形を下ろした。


「最初からこっちでよかったんじゃねえか?」


「最初に失敗したから、何が要らないか分かった」


レオンは右手を握る。

魔法を増やすことと、使う場面を増やすことは同じではない。


訓練後、6人が資料室で北東森林の地図を確認していると、リゼットが訪ねてきた。

彼女は細長い紙筒を机へ置き、中から古びた地図を取り出す。


「アルヴァ家に保管されていた、30年前の街道調査図よ。持ち出しはできないけれど、ここで見る許可は得てきたわ」


学院から渡された地図を隣へ広げる。

森の形、川、街道の位置はほとんど同じだった。

しかし、古い地図には森林の奥へ伸びる細い道が描かれ、その先に3つの小さな印が並んでいる。


現在の地図には、道も印もなかった。


「この印は?」


ミナが尋ねる。


「古い境界標を示す記号よ。少なくとも、この地図が作られた時には3基あった」


リゼットが学院の地図を指でなぞる。


「こちらでは、森林として塗り潰されているわ」


事前の報告で確認されていた古い道標は、1基だけだった。

残りの2基が失われたのか。それとも、まだ森の中に残っているのか。


レオンは2枚の地図を見比べた。

学院外実習で確認すべきものが、1つ増えた。


地図から消えた道が、どこへ続いていたのか。

良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。