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第80話 次の学年へ

修了式の朝。


学院中央棟の大講堂には、1年生300人が集められていた。


入学式のときと同じ人数。

だが、並ぶ位置も、互いを見る目も、1年前とは違っている。


新年度のクラス編成は、年度末試験だけでは決まらない。


1年間の授業成績。

順位戦と昇降格戦。

学院内外での実習。

出席状況と安全管理。


すべての記録を合わせ、300人を改めて5つのクラスへ分ける。


4か月ごとの昇降格戦とは別に行われる、年に1度の全体編成だった。


講堂の正面には、5枚の大きな名簿が掲げられている。


Sクラス。

Aクラス。

Bクラス。

Cクラス。

Dクラス。


各60人。


名前は新しい順位の順に並んでいた。


「先に見てきていいか?」


ガルドが落ち着かない様子で尋ねる。


「式が始まるまで動くなと言われたでしょう」


ユリアが答える。


「でも、もう貼ってあるぞ」

「貼ってあることと、見に行っていいことは別よ」

「後ろからなら見えるかもしれない」


ガルドが背伸びをする。


前に並ぶ生徒たちの頭で、名簿の下半分は隠れていた。


「見えない」

「さっきも同じことをしていただろ」


セイルが言う。


「そのときは貼る途中だった」

「何度やっても身長は変わらない」

「お前より高いぞ」

「名簿までの距離も変わらない」


レオンはCクラスの名簿を見る。


上半分に、ユリアの名前があった。


14位。


その少し下。


18位、レオン・アーヴェル。


20位、セイル・ハーディ。


さらに下へ視線を動かす。


37位、ガルド・ベルン。


名簿の最後に近い位置には、これまでDクラスだった2人の名前があった。


56位、ミナ・クロウ。


59位、ノア・ウェルズ。


「全員、Cクラスだ」


レオンが言った。


ガルドが振り返る。


「本当か!?」

「ああ」

「俺は?」

「37位」

「残った!」

「残ったというより、18位上がっているわ」


ユリアが名簿を確認する。


「ミナとノアも昇格ね」

「私は56位」


ミナが自分の名前を見つけた。


「下から5番目」

「最下位じゃない」


ノアは59位だった。


「僕は下から2番目だけど」

「俺は最下位から始まった」


レオンが答える。


ノアはDクラスの名簿を見たあと、もう一度Cクラスへ視線を戻した。


「今度は、ここから上がる」

「ああ」


ガルドが2人の肩へ腕を回そうとする。


ミナは先に横へ避けた。

ノアは避けきれず、身体を傾ける。


「これで、次も全員一緒だな!」

「授業まで全部同じとは限らないわ」


ユリアが言う。


「2年生は選択実技が増えるそうよ」

「同じクラスなら十分だろ」

「ガルドは、まず自分の37位を心配した方がいい」

「セイルだって20位だろ」

「俺は次の4か月で15位以内へ入る」

「俺も入るぞ」

「17人抜く必要がある」

「数えるな!」


ユリアは自分の14位を見る。


次の昇降格戦が行われる時点で順位を保っていれば、Bクラス下位の生徒へ挑戦できる位置だった。


「ユリアは、もう15位以内か」


セイルが言う。


「今の順位を守るつもりはないわ」

「Bクラスを狙う?」

「当然でしょう」


ユリアは名簿から目を離した。


「14位になったから終わりではないもの」


レオンは自分の18位を見る。


上位15人まで、あと3人。


Dクラス60位だった頃は、同じクラスの半分より上へ行くことさえ遠かった。


今は、次の境界が見える位置にいる。


それでも、まだ越えてはいない。


講堂の反対側では、Sクラスの名簿を確認した生徒たちが騒いでいた。


リゼットが人の間を抜け、レオンたちのところへ来る。


「全員、Cクラスなのね」

「ああ」

「レオンは?」

「18位」

「年度末試験では9位だったでしょう」

「通年の成績と安全管理が入った」

「左手を動かなくした分ね」

「否定できない」


レオンはSクラスの名簿を見る。


リゼット・アルヴァ。


2位。


「1位には届かなかったのか?」

「見れば分かるでしょう」

「次は?」

「1位よ」


リゼットは迷わず答えた。


「あなたも、まず15位以内へ入りなさい」

「そのつもりだ」

「その次はBクラス?」

「ああ」

「私が卒業するまでにSクラスへ来られる?」

「4年ある」

「長い目で見すぎじゃない?」


入学時の順位は、リゼットが3位。

レオンが300位。


差は縮まった。


だが、同じ場所へ立ったわけではない。


リゼットも止まらず、先へ進んでいる。


修了式が始まった。


学院長から、1年間の修了が告げられる。

新年度は短い休暇を挟んだあとに始まり、2年生からは学院外での応用実習が増えると説明された。


基礎を学ぶ1年目は終わる。


次は、学んだものが学院の外でも通用するかを試す学年だった。


式の最後に、各クラスの担当教員が呼ばれる。


ディートリヒ・ローガンは、Cクラスの生徒たちを見渡した。


「新しい順位は、お前たちが現在立っている位置だ。実力そのものではない」


講堂に、低い声が響く。


「高い順位を得た者も、次に同じ結果を出せるとは限らない。低い順位から始める者も、そこに残ると決まったわけではない」


ローガンの視線が、Cクラスの名簿の下まで動く。


「休暇中に身体を壊すな。新年度初日に来なかった者は、順位に関係なく遅れる」

「先生、俺は自主訓練を――」

「ガルド。話が終わるまで黙れ」

「まだ名前を呼ばれてないのに!」


周囲から小さな笑い声が上がった。


「お前が口を開く顔をしていた」


ローガンは話を続ける。


「休むことも訓練の一部だ。だが、何もしなくていいという意味ではない。この1年で何を失敗し、何を直せなかったのか、自分で確認しておけ」


レオンは左手を見る。


治療用の布は外れている。

痛みも、ほとんど残っていない。


それでも、熟練加速アクセラレートを自由に使いこなせるわけではなかった。


理解を間違えれば、間違った動きを早く覚える。

技能が先へ進んでも、身体が追いつかなければ壊れる。


新しいスキルを得たからこそ、以前より慎重に結果を確認する必要がある。


修了式が終わる。


生徒たちが講堂から出ていく中、レオンたち7人はクラリスに呼び止められた。


向かったのは、中央棟の小さな会議室だった。


机の上には、第0研究室に関する資料が並べられている。


第4支路で回収した古い紙片。

18年前の修繕記録。

名前を削られたCクラス31位の順位札。


原本ではない。

すべて書き写された複製だった。


「第0研究室に関する現在の状況を伝えておくわ」


クラリスが話し始める。


「第4支路は引き続き封鎖。搬送架と古い鎖門も停止したままよ。第2保守室の権限は、学院の管理系統から完全に外された」


回収に使われた黒い搬送架も動いていない。

レオンとリゼットの在籍記録にも、異常は見つかっていなかった。


「それなら、もう大丈夫なのか?」


ガルドが尋ねる。


「同じ方法は使いにくくなった、というだけよ」


クラリスは否定した。


「第0区画の場所は不明。過去に在籍を消された生徒たちの行方も分かっていない。誰が古い権限を使い、現在の学院内へ指示を入れていたのかも特定できていないわ」

「実験の筋書きは破棄された」


リゼットが言う。


「A―07とB―31を使った一連の計画はね」


クラリスは2人を見る。


「別の番号、別の設備、別の目的がないとは言えない。だから、解決したとは考えないで」


調査資料は、複数の教員が別々の場所で保管している。

1か所の記録を消しても、すべてを失わないためだった。


学院の正式な調査記録にも、第0研究室という名称が残された。


以前のように、存在しない場所として扱うことは難しくなっている。


「休暇中の地下調査は禁止する」


クラリスが先に告げた。


ガルドが口を開きかけて止まる。


「まだ何も言ってないぞ」

「行けるか聞こうとしたでしょう」

「少しだけな」

「少しでも禁止よ」


クラリスは机の端に置かれた、別の紙を取った。


第0研究室の資料ではない。


王都北東部にある学院外実習予定地から届いた、魔物調査の報告書だった。


「これは、6日前に学院へ届けられたものよ」


報告書には、現地で確認された魔物の種類と、魔力環境が記されている。


公的な記録では、危険度の低い魔物しか生息しない地域。

しかし、最近になって、より上位の魔物が残した爪痕と魔力反応が見つかっていた。


「管理森林の鉤爪猿と同じですか?」


ノアが尋ねる。


「今の時点では分からないわ。現物は確認されていない」


報告書の余白には、現地の調査員が写し取った記号が描かれていた。


2つの円。

その間をつなぐ、途中で途切れた線。


AとBの文字はない。


第0研究室の印でもない。


だが、第4支路の門に刻まれていた古い魔力経路と、よく似た形をしていた。


「どこにあった記号なの?」


リゼットが尋ねる。


「森の中に埋まっていた石柱よ。現地では、昔の境界標だと考えられている」


クラリスは報告書を閉じた。


「偶然似ているだけかもしれない。今は、それ以上のことは言えないわ」

「2年生の実習場所なんですか?」


レオンが尋ねる。


「候補の1つよ。異常が確認されたままなら、変更される可能性もある」

「変更されなかったら?」

「学院の正式な実習として調べることになる」


勝手に地下へ入るのではない。

学院の外へ、授業として向かう。


そこで何が見つかるかは、まだ分からない。


学院内の異変と関係しているとも断定できなかった。


ただ、同じ形の綻びが、学院の外にも存在する可能性が生まれた。


会議室を出たあと、レオンたちは校舎の前で足を止めた。


雪は少しずつ解け始めている。

石畳の端から水が流れ、冷たい土の匂いが戻っていた。


「休暇中、何する?」


ノアが尋ねる。


「俺は盾を修理する!」


ガルドが答える。


「休む話ではないの?」

「修理は休みながらできる」

「自分で直すのか?」


セイルが尋ねる。


「職人に持っていく」

「それはガルドが休むだけだな」

「だから合ってるだろ」


ユリアは学院の門を見る。


「私は実家へ手紙を送るわ。帰るかは、それから決める」

「僕は、水の使いすぎを直したい」


ノアが言う。


「休むんじゃなかったの?」

「少しだけ練習する」

「全員同じことを言い始めたわね」


ミナはレオンを見る。


「レオンは?」

「左手を治す」

「それだけ?」

「知識の不足もある」

「休む?」

「必要な分は」


ユリアが疑うような目を向けた。


「ローガン先生に確認した方がよさそうね」

「必要ない」

「その答えで必要だと分かったわ」


リゼットはSクラスの校舎へ戻る前に、レオンへ声をかけた。


「次はCクラス18位からね」

「ああ」

「入学時より、私との距離は縮まった?」

「順位なら285人分」

「そういう計算を聞いているんじゃないけれど」


リゼットは呆れたように息を吐く。


それでも、少し笑っていた。


「次の学年でも、置いていかれないで」

「そっちも止まるな」

「誰に言っているの?」


リゼットは手を振り、校舎へ戻っていった。


レオンは学院の門の向こうを見る。


1年前。


王都へ来たとき、学院へ入れる保証はなかった。


入学試験300位。

Dクラス60位。


魔法を使えると認められることさえ、簡単ではなかった。


今はCクラス18位。


仲間がいる。

新しいスキルも得た。


それでも、分からないことは増えていた。


第0研究室。

対象Aと対象B。

過去に消された生徒。

学院の外で見つかった、古い記号。


上へ進むほど、見えるものが増える。


見えるものが増えるほど、次に直すべき場所も増えていく。


最下位から始まった1年目は、終わった。


次は、学院の外へ。


レオンたちの2年目が始まる。

ご愛読ありがとうございます。

これにて第3章終了です。

思ったより長くなったー!

スキルの進化についてもったいぶろうとしたり、色々やりたいこと盛り込んでたら長くなりました。

第4章からの進行も考えてありますので、明日からもいつもどおり更新していきます。

今後ともよろしくお願いします。

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