↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/126

第79話 熟練の条件

次で第3章終わりです。

年度末試験の翌朝。


学院中央棟の掲示板前には、結果を確認する生徒が集まっていた。


筆記、個人実技、集団戦。

3つの試験結果を合わせた総合順位が、クラスごとに掲示されている。


ガルドは人混みの後ろから何度も背伸びをしていた。


「見えないぞ!」

「ガルドなら、前の人より頭が出ているでしょう」


ユリアが言う。


「順位表の下が見えないんだ」

「自分が下の方にいる前提なのか?」

「筆記49位だぞ。上にいると思えるか?」


セイルが生徒の間から戻ってきた。


「確認してきた」

「俺は何位だ?」

「30位」

「本当か!?」

「思ったより高くて、俺も2回確認した」

「余計なことを言うな!」


ガルドは人混みを押し分けず、横から掲示板へ回った。


レオンたちも後に続く。


Cクラス年度末試験総合順位。


ユリア、5位。

レオン、9位。

セイル、12位。

ガルド、30位。


集団戦では、6人の班が最高評価を得ていた。


紋章札を自陣へ持ち帰っただけではない。

試験中に停止判定を受けた者がおらず、状況に応じて役割を変えた点が評価されている。


「5位……」


ユリアが自分の名前を見る。


「不満なのか?」


ガルドが尋ねる。


「いいえ。ただ、個人実技より上がった理由を確認したいわ」

「上がったんだから喜べばいいだろ」

「理由が分からなければ、次も同じ結果を出せないでしょう」

「レオンみたいなことを言い始めたな」

「あなたも少しは見習いなさい」


セイルは12位の横に書かれた評価を見る。


速度と移動判断は上位。

集団戦での役割変更も高く評価されている。


一方で、個人実技では保護対象への接触による減点があった。


「10位以内へ入れなかったか」


セイルが言う。


「次に上がればいい」


レオンが答える。


「簡単に言うな」

「セイルも同じことを言っていた」

「いつ?」

「Dクラスで17位だった頃」

「あのときとは人数が違う」

「上にいる人数が多いだけだ」

「やっぱり簡単に言ってるだろ」


ガルドは自分の評価欄を読んでいた。


防御能力と味方の保護は高評価。

個人実技と集団戦では、正面から受けるだけでなく、衝撃を外へ流したことも記されている。


筆記と事前の作戦立案は低い。


「事前の作戦立案が低いって、どういうことだ?」


ガルドが尋ねる。


「集団戦の前に、全員の役割を勝手に決めようとしたでしょう」


ユリアが答える。


「あれは作戦だ」

「相手を見る前に決めていた」

「いつもの役割なら間違いないだろ」

「相手がいつもと同じとは限らないわ」

「でも勝ったぞ」

「途中で変えたからな」


レオンが言う。


ガルドは評価欄をもう一度見る。


『開始後の修正は良好』


その下に、ローガンの筆跡で言葉が追加されていた。


『最初から周囲を見ろ』


「最初から見てたぞ」

「自分の班だけを見ていたでしょう」

「相手もいたのか?」

「今さら気づいたの?」


ガルドはしばらく黙ったあと、評価用紙を折り畳んだ。


「次は見る」

「何を?」

「相手もだ」

「最初からそう言いなさい」


Dクラスの掲示板には、ミナとノアの名前もあった。


ミナは7位。

ノアは10位。


ノアは自分の順位を見たまま、何も言わなかった。


「10位だぞ」


ガルドが肩をたたく。


「うん」

「嬉しくないのか?」

「嬉しい。でも、個人実技では水を広げすぎて、最後に魔力が足りなくなった」

「10位でも反省するのか」

「ガルドも30位で満足してないだろ?」

「俺はかなり満足してる」

「少しは反省しなさい」


ユリアが言う。


ミナの評価には、魔力の流れを見分ける能力と、集団戦での状況把握が記されていた。


課題は、発見したことを伝えるまでの遅さ。


「見間違いかもしれないと考えて、言うのが遅れた」


ミナが説明する。


「間違っていても言えばいい」


レオンが答えた。


「でも、混乱させるかもしれない」

「見えたことと、自信があるかを分けて言えばいい」

「どう言うの?」

「『右側に線が見える。正しいかは分からない』」

「長い」

「なら、『右、未確認』」

「それなら言える」


ミナは小さくうなずいた。


掲示されたのは、年度末試験だけの順位だった。


来年度のクラスと正式順位は、試験結果だけでは決まらない。

1年間の授業、順位戦、実習、出席状況、安全管理も含め、翌日の修了式で発表される。


レオンは自分の総合9位を見る。


筆記7位。

個人実技14位。

集団戦1位。


個人実技の評価欄には、目的変更への対応と、複数の経験を応用した判断が高く記されている。


安全管理は、クラス内で最低評価だった。


『自分も保護対象に含めること』


ローガンが試験直後に言った言葉と同じだった。


「9位なら、もっと喜べば?」


リゼットが隣へ来た。


「リゼットは?」

「2位」

「上がったな」

「筆記3位、個人実技2位、集団戦1位。総合では1位に届かなかったわ」

「次は?」

「聞く必要がある?」


リゼットはSクラスの掲示板へ視線を向けた。


当然、1位を目指すつもりだった。


「あなたのスキルについて、正式な確認をするそうよ」

「誰から聞いた?」

「クラリス先生。技能鑑定室へ行くのでしょう?」

「ああ」

「私も見ていい?」

「試験官に聞いてくれ」

「そこは、いいと答えるところでしょう」

「俺が決めることじゃない」

「相変わらずね」


午前の授業が終わったあと、レオンは技能鑑定室へ向かった。


室内にはローガンとクラリス、技能鑑定を担当する教員がいる。

リゼットは見学を認められ、壁際に立っていた。


中央の台には、透明な鑑定水晶が置かれている。


「手を当てろ」


担当教員が指示した。


レオンが右手を置くと、水晶の内部に文字が浮かぶ。


熟練級アンコモンクラス


熟練加速アクセラレート


第78話でレオンの視界に現れたものと同じだった。


「進化は確認できた」


担当教員は水晶へ浮かぶ魔力の形を記録する。


「自覚している変化を説明しろ」

「理解した動きを、以前より早く再現できます」

「身体能力が上昇した感覚は?」

「ない」

「魔力量は?」

「変わっていません」

「未知の技術を見た場合は?」

「試していません」


ローガンが壁際に置かれた木剣を取った。


「今から見せる」


木剣を逆手に持ち、身体の後ろへ回す。

足を入れ替えながら刃を返し、反対側から振り下ろした。


通常の剣術とは異なる動きだった。


「やってみろ」


レオンは木剣を受け取る。


最初の持ち替えは見えた。

足を入れ替える位置も覚えている。


だが、なぜ背後へ剣を回したのかが分からない。

相手の攻撃を避けるためか、剣の勢いを保つためか、次の動作へつなげるためか。


見た形だけを再現しようとする。


刃を背後へ回した瞬間、手首が止まった。

足の位置と剣の向きが合わず、振り下ろしへ移れない。


「もう1回」


ローガンが言う。


レオンは再び試す。


今度は足を先に動かした。

それでも、剣を返す位置がずれた。


熟練加速アクセラレートは働かない。


何が正しく、何を修正するべきかを理解していないからだった。


「見ただけでは使えない」


レオンは木剣を下ろす。


「そのとおりだ」


ローガンは同じ動きをゆっくり行った。


「これは背後からの攻撃を避けながら、相手の武器を巻き込む動きだ。剣を回すことが目的ではない」

「避ける方向と、相手の武器の位置が必要になる」

「やってみろ」


ローガンが訓練用の棒を構える。


背後からレオンの肩を狙う位置。

振り下ろす速度は遅い。


レオンは木剣を逆手に持つ。


棒が動く。

身体を半歩ずらし、木剣を背後へ回す。


刃の腹が棒へ触れた。

そのまま巻き込もうとするが、手首の角度が浅い。


棒が外れた。


「失敗した理由は?」


ローガンが尋ねる。


「避けることを優先して、剣が身体から離れた」

「次は?」


「踏み込む距離を短くする」


もう一度。


棒が肩へ向かう。

レオンは最初より小さく動いた。


木剣を背後へ回す。

刃の腹が棒へ触れ、そのまま外側へ押し流した。


振り向きながら、木剣を相手へ向ける。


成功した。


2回目の修正で、動きがつながっている。


以前なら、足の距離、手首の角度、身体の向きを別々に確かめ、何度も繰り返す必要があった。


「もう1回やれ」


ローガンが棒の位置を変える。


今度は肩ではなく、腰を狙う。


同じ動きは使えない。

剣を回す高さを下げる必要がある。


レオンは最初の成功をそのまま繰り返さなかった。


棒の位置を見る。

身体をずらす距離を変え、木剣を低く回した。


刃が棒へ触れる。


だが、押し流す方向が悪い。

棒がレオンの脚へ当たった。


「失敗」


ローガンが言う。


「はい」

「進化したのに失敗したな」

「条件が変わった」

「なら、熟練加速は何をした?」


レオンは直前の動きを思い出す。


肩を狙われた場合と、腰を狙われた場合。

共通する部分と、変えなければならない部分。


避ける。

武器へ触れる。

相手の力を流す。


その3つは同じだった。


高さと、押し流す方向だけが違う。


「修正する場所を絞れた」

「次だ」


3回目。


棒が腰へ向かう。

レオンは身体をずらし、低い位置へ木剣を回す。


接触した瞬間、刃の角度を変えた。

棒がレオンの脚ではなく、身体の外側へ流れる。


振り向きながら木剣を止めた。


「成功だ」


担当教員が記録へ書き込む。


「未知の動作を即座に習得したのではない。目的を理解し、失敗原因を特定したあとの修正が早くなっている」

「反復作業と同じ流れね」


クラリスが言う。


「失敗し、理由を考え、修正する。ただ、その間に必要だった反復回数が減っている」

「正しく理解できれば、です」


レオンが答えた。


「間違って理解したら?」


リゼットが尋ねる。


室内に短い沈黙が生まれた。


「間違った動きを、早く身につける可能性がある」


レオンが言った。


担当教員がうなずく。


「熟練が早まることと、判断が正しいことは別だ。誤った原因を信じれば、誤った修正も定着しやすくなる」

「結果の確認が必要になる」


レオンは筆記試験の答案に書かれていた言葉を思い出した。


変更した結果まで確認すること。


「もう1つ問題がある」


ローガンはレオンの左手を見る。


「動きを早く覚えても、身体がその動きへ耐えられるとは限らない」

「昨日より痛みは減っています」

「今の動きは右手だ。ゼロスレッドは使っていない」

「使えば確認できます」

「確認しない」


ローガンは即座に止めた。


「熟練加速を得たことで、魔力経路が急に強くなったわけではない。筋力も持久力も変わっていない」

「身体も鍛えればいい」

「その順番を間違えるな。技術だけが先へ進めば、以前より早く身体を壊す」


レオンは左手を開いた。


昨日、ゼロスレッドは1本だけ自然に伸びた。

狙いどおりに動き、すぐに消えた。


同じことを、もう一度確かめたい。


だが、確かめるために糸を出せば、また左手へ負担がかかる。


止める判断も、理解して繰り返さなければ身につかない。


「今日は使いません」


レオンが答えた。


ローガンは僅かに目を細める。


「ようやく覚えたか」

「必要なら使います」

「まだ完全ではないな」


鑑定を終えたあと、6人は中庭へ集まった。


雪は止んでいる。

噴水の周囲だけが白く残り、中央の水は凍ったままだった。


ガルドは自分の評価用紙を広げている。


「俺の課題は筆記と作戦だ」

「作戦ではなく、周囲を見ることだろ」


セイルが言う。


「同じだ」

「違う」

「相手を見る。味方を見る。それから作戦を決める」

「分かっているじゃないか」

「さっきユリアに教えてもらった」

「自分で考えなさい」


ユリアは自分の評価を確認する。


「私は慎重になりすぎることがあるそうよ」

「失敗が少なかっただろ?」


ノアが尋ねる。


「失敗を避けるために、動くのが遅れた場面があったの。集団戦でも、レオンの指示を待った場所がある」

「指示する前に動いていたこともあった」

「だから、全部ではないわ。次は自分で判断する場面を増やす」


セイルの課題は、速さを使ったあとに味方から離れすぎること。


ノアは、広い範囲を調べようとして魔力を使いすぎること。


ミナは、確信が持てるまで情報を伝えないことだった。


誰にも、長所だけが書かれているわけではない。


成長した部分の隣には、次に直すべき場所がある。


「レオンは?」


ガルドが尋ねる。


「知識、安全管理、自分で全部やろうとすること」

「多いな」

「ガルドよりは少ない」


レオンは評価用紙を見せた。


筆記試験で判明した知識の不足。

個人実技で左手を限界まで使った判断。

集団戦では仲間へ任せられたが、最初に糸を使った際には自分だけで火球をそらそうとしたこと。


そして、新しく発現した熟練加速アクセラレート


理解した技能の修正は早くなる。

それでも、正しい判断を自動で選んではくれない。


「スキルが進化したら、もっと何でもできるようになると思ってたぞ」


ガルドが言う。


「前よりはできる」

「どれくらい?」

「まだ分からない」

「分からないことが多いな」

「試して、失敗して、確かめる」

「結局、前と同じじゃないか」


レオンは少し考えた。


「同じだ」

「進化した意味は?」

「次の失敗へ進むのが早くなる」

「言い方が悪くないか?」

「次の成功へ進むのも早くなる」

「最初からそっちを言え!」


セイルが小さく笑った。


「レオンらしいスキルだな」

「失敗するところが?」

「失敗したあとに止まらないところが」


入学試験では300位。


学院で最も低い順位から始まった。


魔法の知識も足りなかった。

無属性であることを理由に、できないと決められたこともある。


1年が過ぎ、年度末試験ではCクラス9位。


それでも、学院全体の上位ではない。

Sクラスには、今のレオンより強い生徒が何人もいる。


個人実技では、左手を動かせなくなった。

知らない知識には答えられず、初めて見る技術もすぐには使えない。


最下位ではなくなっただけだった。


「明日、クラスが決まるんだよな」


ガルドが学院中央棟を見る。


修了式では、進級判定と来年度のクラス編成が発表される。


年度末試験30位のガルドがCクラスへ残れるか。

Dクラス上位へ入ったミナとノアが昇格するか。


レオンたちの正式順位も、そこで決まる。


「俺たち、また別のクラスになるかもしれないのか?」


ガルドが尋ねる。


「可能性はあるわ」


ユリアが答えた。


「また上がればいい」


レオンが言う。


「簡単に言うなよ」

「簡単じゃないことは知ってる」

「なら、もう少し悩め」

「悩んでも発表は変わらない」


ガルドは納得していない顔をしていたが、それ以上は言わなかった。


教室。

実技場。

管理森林。

学院地下。


同じ場所にいたから、6人は一緒に動けたわけではない。


離れた場所でも、自分で考えて動けることを知った。

別のクラスになっても、積み上げた経験まで消えるわけではない。


熟練加速アクセラレートも同じだった。


反復作業ルーティンがなくなったわけではない。


失敗し、理解し、修正してきた1年間を残したまま、次へ進む形へ変わった。


学院の鐘が鳴る。


1年生最後の授業が、すべて終了した。


残るのは、明日の修了式だけだった。

良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。