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第78話 積み上げた者たち

集団戦当日の朝。


レオンの左手には、治療用の布が巻かれていた。


指は動く。

握ることもできる。


だが、魔力を流すと手首の奥に熱が生まれた。


治療担当の教員から許可されたのは、ゼロスレッド1本を短時間だけ使うこと。

痛みや痺れが強くなった場合は、すぐに使用を中止するよう命じられている。


第6実技棟の掲示板には、集団戦の班分けが貼り出されていた。


レオンの班は6人。


レオン。

ガルド。

セイル。

ユリア。

ミナ。

ノア。


名前を確認したガルドが、両手を上げる。


「全員一緒じゃないか!」

「声が大きいわ」


ユリアが周囲を見る。


「班分けに文句を言っていると思われるでしょう」

「文句なんてないぞ。むしろ最高だ」

「だから意図的な班分けかもしれない」


セイルが掲示板の下部を指した。


班分けは、筆記と個人実技の結果だけで決めたものではない。

過去の授業、属性、役割、連携経験も考慮すると書かれている。


同じクラスの生徒だけで固めるとは限らない。

それでも、これまで何度も共に動いてきた6人が同じ班になったのは、偶然ではなかった。


「先生たちは、私たちが一緒のときに何ができるか見たいのかも」


ノアが言う。


「なら見せればいい」


ガルドが答えた。


「俺が前。レオンが後ろから糸を使って、セイルが走って、ユリアが凍らせる。ノアとミナは――」

「待って」


ミナがガルドの言葉を止める。


「レオンは糸をあまり使えない」

「そうだった」


ガルドがレオンの左手を見る。


「じゃあ、どうする?」

「まだ決めない」


レオンは集団戦の説明を読む。


試験は6人対6人。

制限時間は20分。


実技場の両端に、各班の紋章柱が1本ずつ置かれる。

相手側の紋章札を奪い、自陣まで持ち帰れば勝利。


時間内に決着しなかった場合は、紋章柱への到達回数、停止させた相手の数、自陣の防衛状況によって採点される。


致命傷につながる攻撃は禁止。

胸の判定札へ一定以上の衝撃を受けた者は、その場で停止しなければならない。


「最初に役割を決めすぎると、相手にも読まれる」


レオンが言った。


「でも、何も決めずに始めるの?」


ユリアが尋ねる。


「最初の位置だけ決める。相手を見てから変える」

「お前はどこにいる?」


セイルが尋ねた。


「中央より後ろ」

「糸を使わないなら、前へ出ない方がいいか」

「短剣は使える」

「昨日、脇腹にも攻撃を受けているでしょう」


ユリアがレオンを見る。


「無理に前へ出たら、私が止めるわ」

「どうやって?」

「足を凍らせる」

「味方への攻撃は禁止だ」

「治療よ」


ガルドが笑った。


「レオンを止める役はユリアに任せよう」

「お前も止められる側だ」

「なんでだよ!」


集合を知らせる鐘が鳴った。


6人は掲示板を離れ、指定された実技場へ向かった。


試験場は、屋外に作られた長方形の区域だった。


中央には石柱や低い壁が配置され、左右には浅い溝が続いている。

雪は取り除かれているが、地面の一部は凍っていた。


自陣の紋章柱には青い札。

相手側には赤い札が取り付けられている。


対戦する6人も、CクラスとDクラスから選ばれた混成班だった。


前衛は大剣使いと槍使い。

後方には土属性、火属性、風属性の生徒がいる。


最後の1人は、小型の盾を持っていた。


有名な上位生徒はいない。

だが、6人とも個人実技で大きな失敗をしていない。


集団戦では、1人の強さだけで順位は決まらない。


試験官が両班を確認する。


「開始前の相談時間は2分。相談終了後は、開始位置から出るな」


レオンは相手の並びを見る。


大剣と盾が前。

槍が中央。

属性魔法の3人が後方。


「最初はガルドが正面。ユリアとノアが紋章柱の近く」


レオンが言う。


「セイルは右。ミナは中央で魔力を見る。俺は左側を見る」

「攻めるのは?」


ガルドが尋ねる。


「決めない」

「本当に?」

「相手が何人を守りに残すか分からない」


相手の風属性がセイルを警戒している。

土属性はガルドの盾を見ていた。


レオンたちの戦い方を調べている可能性がある。


「相手が俺たちを知っていたら?」


ノアが尋ねる。


「最初は、知っていると思って動く」

「途中からは?」

「知っていることを利用する」


相談時間が終わった。


両班が開始位置へ移動する。


試験官が右手を上げた。


「始め!」


鐘が鳴る。


ガルドが正面へ進む。

セイルは右側へ走った。


相手の風属性がすぐに魔法を使う。

横から吹いた風が、セイルの進路を中央へ押し戻した。


セイルは逆らわない。

風に身体を乗せ、中央の石柱の陰へ移動する。


相手の予想より、内側へ入る速度が速くなった。


槍使いがセイルを止めようとする。


ガルドが前へ出た。

大盾で槍の穂先を受ける。


その横から大剣が振り下ろされた。


ガルドは盾を正面へ向けない。

僅かに傾け、剣を外側へ流す。


相手の大剣が地面へ当たった。


「右が空いた!」


ガルドが叫ぶ。


セイルはすでに動いていた。

大剣使いの脇を抜け、相手陣へ向かう。


相手の土属性が地面へ手を当てた。

セイルの前に土壁が立ち上がる。


ユリアが杖を振る。


土壁全体を凍らせない。

根元の右側だけを冷やし、土の動きを止める。


完成する前の壁が右へ傾いた。


セイルは左から回らず、傾いた壁の右側を駆け上がった。

上端を踏み、相手の後方へ跳ぶ。


相手の火属性が火球を放つ。


ノアの水滴が、火球の前へ集まった。

消すほどの水量はない。


それでも、火球の表面へ水が触れたことで、軌道が僅かに揺れる。


セイルは頭を下げた。

火球が髪の上を通過する。


相手陣まで、あと半分。


そのとき、盾を持つ生徒が自陣へ戻った。


セイルの進路を塞ぐ。


同時に、槍使いがガルドから離れる。

レオンたちの紋章柱へ向きを変えた。


相手はセイルを盾役へ任せ、別方向から攻めるつもりだった。


「ユリア、正面!」


レオンが叫ぶ。


ユリアは振り返らない。

杖を足元へ向け、槍使いが通る場所へ薄い氷を作る。


槍使いは足を止めた。

滑る場所へ踏み込まず、左へ進路を変える。


そこにはノアがいた。


ノアの周囲に浮いていた水滴が、一斉に動く。

槍の穂先ではなく、相手の踏み込む足を追う。


槍使いが前へ出る直前、水滴が地面へ落ちた。

凍った地面が濡れる。


槍使いの足が僅かに滑った。


ノアは攻撃しない。

相手の槍を水の膜で包み、動きを遅らせる。


ミナが中央から声を上げた。


「左から魔法が来る」


相手の火属性が、レオンたちの紋章柱へ狙いを変えていた。


ユリアとノアが槍使いを止めている。

ガルドは中央。

セイルは敵陣。


紋章柱の左側が空いている。


レオンは前へ出た。


火球が低い位置を進んでくる。

紋章柱へ直接当てるのではなく、守っている者を外へ動かすための攻撃だった。


短剣で受け流せる大きさではない。


ゼロスレッドを使えば、軌道を変えられる。


左手へ魔力を流す。


手首の奥に熱が走った。


1本だけ。


糸が火球へ伸びる。

表面へ巻きつけ、横へ引く。


火球の軌道が紋章柱から外れた。


糸を消す。


左手の指先が痺れている。


「レオン、下がって」


ミナが言った。


「まだ動く」

「糸の線が乱れてる」

「1本なら使える」

「次は分からない」


相手の火属性は、レオンが糸を使ったことを見ていた。


続けて2つの火球を作る。


同時に飛ばせば、1本の糸では両方を止められない。


「ノア!」


レオンが呼ぶ。


ノアは槍使いを見ていた。

レオンの声を聞き、すぐに水滴の半分を左へ向ける。


だが、火球が放たれるまでの時間は短い。


「柱の前ではなく、相手の足元!」


レオンが続けた。


ノアは火球を消そうとしなかった。

水滴を火属性の生徒の足元へ落とす。


相手が体勢を崩す。

2つの火球が別々の高さで放たれた。


1つは地面へ当たる。

もう1つは紋章柱の上を通過した。


レオンは糸を使っていない。


「止める場所は、魔法じゃなくてもいいのか」


ノアが言う。


「ああ」


第4複合実技場で、レオンが人形の攻撃を固定具へ当てさせた方法と同じだった。


攻撃を受けてから止める必要はない。

放つ前の相手を動かせばいい。


それをノアの水で行った。


正面では、ガルドが大剣使いと土属性の2人を引きつけている。


大剣を盾で流す。

土の杭が足元から伸びると、盾の下端を地面へ当てて受け止める。


だが、2人を相手にしながら前へは進めない。


「ガルド、3歩下がれ!」


レオンが叫ぶ。


「押されてるように見えるぞ!」

「それでいい!」


ガルドは盾を構えたまま下がった。


相手の大剣使いが追う。

土属性も距離を縮めた。


中央の低い壁を越え、2人が同じ場所へ入る。


ユリアが杖を向けた。


ガルドの盾の横。

相手2人が立つ場所だけに、氷が広がる。


大剣使いが足を取られる。

土属性は地面へ魔力を流そうとするが、凍った表面が魔力の広がりを遅らせた。


ガルドが盾を押し出す。


2人がまとめて後ろへ下がった。


その瞬間、中央の道が開く。


「セイル!」


レオンが呼ぶ。


敵陣にいたセイルが、紋章札へ向かわず引き返してきた。


盾役を引きつけたまま、中央の開いた道へ入る。


相手の盾役は、セイルを追って自陣から離れている。


ガルドが大剣と土属性を押し戻した。

ユリアとノアは槍使いを止めている。


相手の中央が空いた。


セイルはそのままレオンたちの側へ戻らず、低い壁を蹴って再び方向を変えた。


風を使う時間は一瞬だけ。


相手の紋章柱へ、最短距離で走る。


追いつける者はいなかった。


「取った!」


セイルが赤い紋章札を引き抜く。


だが、試験はまだ終わらない。


札を自陣まで持ち帰る必要がある。


相手の6人が一斉に向きを変えた。


セイルを追う。


「守るぞ!」


ガルドが叫ぶ。


レオンは周囲を見る。


相手の大剣使いと槍使いが正面。

風属性が右。

火属性が左。


土属性は、セイルの帰路へ壁を作ろうとしている。

盾役は紋章札を奪い返すため、セイルのすぐ後ろにいた。


全員が動いている。


レオンの左手では、すべてを止められない。


「セイル、左へ!」


セイルが左へ進路を変える。


相手の火属性が待っている方向だった。


「そっちは敵がいるぞ!」


ガルドが叫ぶ。


「ガルドは中央のまま!」


レオンは火属性の足元を見る。


先ほどノアの水滴が落ちた場所が、まだ濡れている。


「ユリア、火属性の前!」


ユリアが小さな氷を作る。


火属性の生徒が足を滑らせた。

魔法が途切れる。


セイルはその横を抜けた。


相手の風属性が風を放つ。


「ノア、セイルの後ろ!」


水滴がセイルの背後へ集まる。

風を止めるのではなく、その流れを水滴で見えるようにする。


セイルは後ろを振り返らない。

水滴が流れる方向を見て、風が弱い場所へ身体をずらした。


盾役が追いつく。

小盾をセイルの腕へぶつけ、紋章札を落とそうとする。


ミナが声を上げた。


「盾の右側、魔力が薄い」

「セイル、右へ落とせ!」


セイルは紋章札を守らなかった。


右側の地面へ投げる。


盾役の手が空を切った。


地面へ落ちる直前、ガルドが飛び込む。

大盾を片手で構え、もう片方の手で紋章札をつかんだ。


「取ったぞ!」


相手の大剣がガルドへ振り下ろされる。


ガルドは札を持ったまま、盾で受ける。

衝撃を正面から止めない。


盾を傾け、大剣を左へ流した。


その先に、槍使いがいた。

2人の武器がぶつかる。


「走れ、ガルド!」


セイルが叫ぶ。


「盾を持って走るのは得意じゃない!」


ガルドは言いながら自陣へ向かう。


土の壁が前に立ち上がった。


ユリアが根元を凍らせる。

ノアの水が上部へ当たり、土を柔らかくする。


それでも壁は完全には崩れない。


ガルドが盾を構えた。


「そのまま進む!」


壁へ体当たりするつもりだった。


「右へ2歩!」


レオンが叫ぶ。


ガルドは進路を変えた。


壁の右端。

ユリアが凍らせた部分と、ノアが水を当てた部分の境目。


最も脆くなっている場所だった。


ガルドの盾が土壁へ当たる。


壁の一部だけが崩れた。


人1人が通れる隙間。


ガルドが抜ける。


相手の風属性が最後の魔法を放とうとしていた。


レオンは左手を開く。


1本の糸で、腕を引けば止められる。


だが、魔力を流した瞬間、強い痛みが走った。


指先から糸が伸びない。


「出ない」


ミナが言った。


風属性の魔法が完成する。


ガルドの背中へ風が向かう。

体勢を崩せば、相手に追いつかれる。


レオンは糸を使うことをやめた。


風属性の生徒が立つ位置。

魔力を流す足。

杖を振る方向。


これまで何度も見てきた。


セイルが加速するとき。

クラリスが風を流すとき。

訓練人形が魔法を放つとき。


魔力を止める必要はない。


相手が杖を振る方向を変えればいい。


「セイル、石柱!」


レオンが叫ぶ。


セイルは意味を尋ねなかった。


中央の石柱へ足をかけ、風属性の視界へ飛び込む。


攻撃ではない。

相手の杖へも触れない。


ただ、魔法を放とうとしている正面を横切る。


風属性の生徒は、味方へ当てないよう杖をずらした。


放たれた風がガルドの横を通過する。


ガルドが自陣へ入った。


赤い紋章札を、青い柱へ押し当てる。


終了の鐘が鳴った。


「勝者、青班!」


試験官の声が実技場へ響く。


相手班の動きが止まる。


ガルドは紋章札を持ったまま、その場へ座り込んだ。


「勝ったぞ!」

「盾を持って走れないと言ってなかったか?」


セイルが尋ねる。


「必要なら走れる!」

「なら最初から走れ」

「重いんだぞ、これ!」


ユリアとノアも中央へ集まった。


ミナはレオンの左手を見る。


「最後まで、糸は出なかった」

「ああ」

「でも、前より早かった」

「何が?」


「決めるまで」


レオンは試合の最後を思い返す。


風属性が魔法を完成させる。

セイルを視界へ入れ、杖の向きを変えさせる。


考えた時間はほとんどなかった。


以前にも似た状況を経験している。


攻撃そのものではなく、攻撃する者を動かす。

相手が味方を避ける性質を利用する。

自分では届かない場所を、仲間へ任せる。


新しく思いついた方法ではない。


これまで理解し、何度も使ってきた判断だった。


ただ、その経験を選び出すまでの時間が、以前より短くなっていた。


試験官が6人を集める。


「戦闘終了後の確認を行う。負傷者は申告しろ」

「レオンの左手」


ミナがすぐに言った。


「俺が申告する前に言うな」

「言わないと思った」

「正しい判断よ」


ユリアも同意した。


治療担当の教員がレオンの左手へ触れる。

魔力を流し、経路の状態を確認した。


「糸は使ったのか?」

「最初に1本だけです。その後は出ませんでした」

「魔力経路が閉じているわけではない。むしろ、流れようとする力が強すぎる」


教員は眉を寄せた。


「強すぎる?」

「細い経路へ、必要以上に早く魔力が集まっている。身体が危険を感じて、出口を塞いでいるような状態だ」


レオンは左手を見る。


魔力を流そうとしても、糸は出ない。

だが、内側では何度も同じ経路へ力が集まっている。


試合中も続いていた。


糸を使わず、短剣を振らない間も、これまでの経験だけが次々に選ばれていた。


ガルドの盾。

セイルの移動。

ユリアの氷。

ノアの水滴。

ミナが見つけた魔力の薄い場所。


レオン自身が行った動きだけではない。


仲間の動きを見て、その意味を理解し、共に試した経験。


それらが、必要な瞬間に浮かんでいた。


「体内の魔力を一度落ち着かせる」


治療担当の教員が布の上から冷たい魔力を流す。


熱が引いていく。


同時に、レオンの意識の奥で何かが変わった。


これまで積み重ねてきた失敗が、一度に浮かぶ。


糸が届かなかった。

狙いを外した。

力を入れすぎた。

自分だけで止めようとして、間に合わなかった。


そのあとに行った修正も続く。


距離を変えた。

本数を減らした。

相手を直接狙わなかった。

仲間へ役割を渡した。


失敗と成功が、別々に浮かぶのではない。


失敗から修正へ進んだ順番そのものが、短くつながっていく。


次に同じ状況が起きたとき、最初の失敗から始める必要はない。


理解した場所から始められる。


左手の奥で、何度も閉じていた魔力経路が開いた。


ゼロスレッドが1本だけ伸びる。


レオンは魔力を流していない。


糸は暴れず、治療担当の教員の手を避けて床へ向かった。

そのまま、レオンが意識した場所で止まる。


「今、使ったのか?」


教員が尋ねる。


「使おうとはしていません」

「でも、狙った?」


レオンは床の一点を見る。


「ああ」


そこへ伸びると考えた。


それだけだった。


魔力を集める。

経路へ流す。

糸の形へ整える。

先端を動かす。


今まで必要だった手順が、1つにつながっている。


糸を消そうと考える。


その瞬間に、ゼロスレッドが消えた。


レオンの視界に、淡い文字が浮かぶ。


これまで何度も確認してきた、スキルを示す文字。


一般級コモンクラス


反復作業ルーティン


文字の輪郭が崩れる。


消えたのではない。


積み上げてきた失敗と修正を残したまま、別の形へ組み直されていく。


新しい文字が浮かんだ。


熟練級アンコモンクラス


熟練加速アクセラレート


理解済みの技能習熟を加速する。


レオンは表示を見続けた。


力が増えた感覚はない。


魔力量も変わっていない。

左手の痛みも残っている。


知らない魔法が使えるようになったわけでもない。


ただ、失敗を理解し、修正できた技能については、次の反復へ進むまでの時間が短くなっている。


「レオン?」


ガルドが顔をのぞき込む。


「どうした?」

「スキルが変わった」

「変わった?」


レオンは表示された名前を口にする。


熟練級アンコモンクラス熟練加速アクセラレート

「進化したのか!?」


ガルドの声が実技場全体へ響いた。


周囲にいた生徒たちが振り返る。


ユリアがすぐにガルドの腕を引いた。


「静かにしなさい!」

「だって、進化だぞ!」

「全員へ知らせる必要はないでしょう」

「もう聞こえている」


セイルが周囲を見る。


「ガルドだから仕方ない」

「俺のせいにするな!」


ミナはレオンの糸が消えた場所を見ていた。


「速くなっただけじゃない」

「何が違う?」


ノアが尋ねる。


「前は、身体が勝手に先へ動こうとしてた。今はレオンが決めてから、全部が一緒に動いた」

「制御できているのか?」


レオンは左手を開く。


もう一度糸を出そうとはしなかった。


「まだ分からない」

「試すなよ」


ローガンの声が後ろから聞こえた。


試合を記録していたらしく、採点板を持っている。


「今すぐ確認したいです」

「駄目だ」

「1本だけです」

「昨日も同じことを言ったな」

「昨日とは違う」

「スキルが変わっても、身体は昨日と同じだ」


ローガンは治療担当の教員を見る。


「使用を許可できる状態か?」

「今は休ませるべきです。経路の流れは整いましたが、負担が消えたわけではありません」

「聞いたな」

「はい」


レオンは左手を閉じた。


止める判断。


それも、この1年間で覚えたことだった。


ローガンは6人を見る。


「集団戦の結果は明日、ほかの試験と合わせて掲示する」

「今の試合は高得点だろ?」


ガルドが尋ねる。


「勝敗だけで点数は決まらない」

「勝ったのに?」

「開始前の相談、役割変更、味方への指示、負傷、魔力消費も見る」

「俺は紋章札を持ち帰ったぞ」

「最初に全員の役割を勝手に決めようとした」

「そこも見てたのかよ!」


ローガンは採点板へ何かを書き加えた。


「ただし、途中からは周囲を見ていた」

「点を上げた?」

「今ので下げるかもしれない」

「何も聞かなかったことにしてくれ!」


ガルドの声に、6人の緊張が少しだけ解けた。


レオンは仲間たちを見る。


個人実技では、すべてを1人で行おうとして左手が動かなくなった。


今日の集団戦では、糸を使えない時間の方が長かった。

それでも勝てた。


ガルドが守った。

セイルが走った。

ユリアが必要な場所を変えた。

ノアが魔法の流れを見せ、ミナが見えない弱点を見つけた。


レオンは、その経験をつないだ。


熟練加速アクセラレート


それは、失敗しなくなる能力ではない。


仲間より早く成長できる保証でもない。


理解していないことには使えない。

身体の限界も消えない。


それでも、理解するまでに重ねた失敗を無駄にせず、次の修正へ早く進める。


最下位から始めたレオンが、1年間かけて積み上げたもの。


そのすべてが、ようやく次の形になった。

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