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第48話 消えた保守室

古い学院図面を見つけた翌日。


放課後になると、レオンとミナは管理棟にあるクラリスの執務室を訪れた。

ガルドも呼んでいる。

第2保守室へ続く地下通路を調べるなら、閉ざされた扉や崩れた壁がある可能性を考えたためだった。


机の上には、ミナが資料室から借りた古い図面と、現在使われている学院案内図が並べられている。

クラリスは2枚を見比べ、第2実技場と管理棟の間を指でなぞった。


「古い図面が間違っている可能性は?」

「あります」


レオンが答える。


「増築の際に通路が埋められた可能性もある」

「それなら、工事の記録が残るはずです」


クラリスは棚から分厚い記録簿を取り出した。

学院内の増築と修繕についてまとめたものだった。

数ページをめくり、該当する年代を確認する。


管理棟の増築。

第2実技場の修復。

地下配管の交換。


いくつかの記録は見つかったが、第2保守室を閉鎖したという記述はなかった。


「部屋だけではなく、通路そのものが記録から消えていますね」


クラリスは古い図面へ視線を戻した。


「匿名の紙と関係があると思いますか?」

「まだ分かりません」

「では、今の段階で結びつけないでください。分からないものを、都合よく1つにまとめるのは危険です」

「はい」


クラリスは立ち上がり、壁に掛けられていた外套を取った。


「確認します。ただし、あなたたちだけでは行かせません」

「先生も来るのか?」

「当然です」


ガルドの問いに、クラリスは即答した。


「消された部屋が本当に存在するなら、学院の管理上の問題です。生徒だけで調べる話ではありません」


日が沈む前に、4人は管理棟の地下へ降りた。


学院の地下には、水道管や魔導灯の配線を確認するための保守通路がある。

壁には一定の間隔で灯りが設置されていたが、現在も使われている区域は限られていた。

古い図面に描かれた通路へ近づくにつれ、魔導灯の数が減っていく。


ガルドが携帯用の灯りを前へ掲げた。


「本当にこっちで合ってるのか?」

「図面では、この先」


ミナが古い図面を見ながら答える。


現在の案内図では、突き当たりになっている場所だった。

正面には石造りの壁があり、左右に続く通路はない。

壁の表面には汚れが積もり、長い間触れられていないように見える。


クラリスが壁へ手を当てた。

軽く叩く。

鈍い音が返ってきた。


「普通の石壁に聞こえますね」

「向こうは?」


ミナが壁を見つめる。

暗い瞳が、わずかに細くなった。


「魔力が流れてる」

「壁の中にですか?」

「向こう側」


クラリスは壁際へ顔を近づけた。

隙間から風が漏れていないかを確かめる。


「完全に埋められているわけではなさそうですね」


レオンは左手を壁へ向けた。


「ゼロスレッドを使う」

「短い範囲だけです」


クラリスが念を押す。


「異常を感じたら、すぐに切ってください」

「分かりました」


レオンは壁の端にある小さな亀裂へ、細いゼロスレッドを伸ばした。

糸は石の隙間を通り、壁の奥へ進んでいく。

数センチ。

さらに奥。

石材の厚さを越えたところで、糸の先端が空気へ抜けた。


壁の向こうには空間がある。


レオンは糸を下へ垂らした。

先端が床へ触れる。

さらに横へ動かす。

壁のすぐ向こうだけではなく、奥にも続いている。


「部屋があります」

「広さは?」

「まだ分かりません」


糸をさらに伸ばす。

左へ。

何もない。

右へ動かすと、固い物へ触れた。


箱か、棚。

形を確認しようと、糸を回り込ませる。


その瞬間だった。


左手へ鋭い感触が走った。


糸が切れた。


レオンはすぐに手を引いた。

自分で解除したのではない。

壁の向こうから、刃物で断ち切られたような感覚だった。


「誰かいる」


クラリスの表情が変わる。


「下がってください」


3人を背後へ動かし、自分が壁の前へ出た。

右手に風が集まる。


風属性魔法(エアフロウ)


細い風が壁の亀裂へ流れ込む。

完全に塞がれた空間なら、風は戻ってくる。

しかし、送り込まれた風は壁の向こうへ抜けていった。


奥に別の出口がある。


クラリスが壁の周囲を調べる。

右下の石へ触れたところで、わずかに動いた。


「仕掛けですね」


石を押し込む。

壁の内部から、何かが外れる音がした。


正面の石壁が、ゆっくりと奥へ動く。

長い間開かれていなかったように砂埃が落ち、黒い隙間が現れた。


ガルドが灯りを向ける。


壁の向こうには、古い通路が続いていた。

床には薄い埃が積もっている。

だが、その中央だけ、何度も踏まれたように埃が消えていた。


使われている。


クラリスが先頭に立った。


「私より前へ出ないでください」

「分かりました」

「ガルドは最後尾。ミナは魔力の流れを見てください」

「分かった」

「レオンは糸を使わないように」

「なぜですか?」

「切った相手が、どのような道具を持っているか分かりません。同じ方法を繰り返さないでください」


4人は古い通路へ入った。


空気は冷たく、湿っている。

壁には魔導灯の跡があったが、明かりはついていない。

代わりに、遠くから微かな金属音が聞こえてきた。


何かを閉じる音。


「前」


ミナが短く告げた。


通路の奥を、黒い影が横切った。

深くフードを被った人物が、金属製の工具箱を片手に持っている。


「止まりなさい!」


クラリスが叫ぶ。


フードの人物は振り返らなかった。

工具箱を持ったまま、奥へ走る。


クラリスが風を放つ。

狙いは人物ではなく、その前方だった。

風が通路を横切り、逃げ道を塞ごうとする。


フードの人物は壁へ手を伸ばした。

小さな金属音が鳴る。

直後、通路の脇にあった石扉が開いた。


「逃がすか!」


ガルドが走り出す。


「前へ出すぎないで!」


クラリスの声が飛ぶ。


ガルドは速度を落としたが、立ち止まりはしなかった。

レオンとミナも続く。


フードの人物が石扉の向こうへ入る。

クラリスが追いつく直前、扉が閉じ始めた。


ガルドが肩を入れる。

閉じる石扉を身体で受け止めた。


「重い!」


両足が床を滑る。

扉の隙間が少しずつ狭くなる。


レオンはガルドの横へ入り、両手で石扉を押した。

左手にはまだ、糸を切断された感触が残っている。

それでも、魔法は使わない。


クラリスが風を隙間へ集中させた。

扉が押し戻される。


「今です!」


4人が石扉の向こうへ滑り込む。

直後、扉が大きな音を立てて閉じた。


その先は、先ほどより狭い通路だった。

前方にはフードの人物の姿がある。

だが、距離は開いていた。


ミナが足を止める。


「魔力が2つ」

「2人いるのですか?」

「違う。人と、箱」


工具箱から魔力が流れている。


フードの人物は走りながら箱へ手を入れた。

何かを取り出し、床へ投げる。


小さな金属片が転がった。


「止まって!」


クラリスが叫ぶ。


全員が足を止めた直後、金属片から光が広がった。

床に刻まれていた術式が起動し、通路を塞ぐように透明な壁が現れる。


フードの人物はその向こう側へ消えた。


クラリスが透明な壁へ風を当てる。

表面が揺れるが、すぐには壊れない。


「追跡を続けますか?」


レオンが尋ねる。


クラリスは一瞬だけ考えた。

逃げた人物。

起動した術式。

閉じた石扉。

現在地も、学院の正式な図面には存在しない。


「いいえ。戻ります」

「逃げられます」

「この先に罠がいくつあるか分かりません。生徒を連れて進む距離ではありません」


クラリスは透明な壁の向こうを見た。


「ただし、何も得られなかったわけではありません」


術式を起動させるために投げられた金属片。

フードの人物は、それを回収できなかった。


光が弱まり、透明な壁が消える。

クラリスはすぐに金属片へ布を被せ、直接触れずに拾い上げた。


表面には、学院で使われているものとは異なる刻印がある。

古く、擦れていたが、数字の一部だけは読めた。


0。


第2保守室。

図面から消えた通路。

壁の向こうにいた人物。

そして、0と刻まれた金属片。


匿名の紙との関係は、まだ分からない。


だが、消されたはずの場所は、今も誰かに使われていた。

良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

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