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第40話 増えた視線

# 第40話 増えた視線


授業が終わると、レオンは教室に残って昨日の記録を整理していた。第2観測区画。対象B。観測段階2。そして、同行者2名の追加。紙へ書き出してみても、分からないことばかりだった。


「まだやってるのか?」


ガルドが大型盾を背負いながら尋ねる。


「忘れないうちに整理しています」


「忘れられるような内容じゃねえだろ」


「細部は忘れます」


「俺は閉じ込められたことも、盾を置いてきたことも忘れねえよ」


「盾は戻ってきた」


ミナが窓際から言う。


「だから余計に気味が悪いんだよ」


ガルドは机の横に置いた盾を見る。白い仮面の人物の攻撃を受けた傷も、持ち手の擦れも、そのまま残っていた。誰かが地下から回収し、この教室まで運んだ。それだけでも、相手が学院内を自由に動ける証拠になる。


レオンは記録用紙を鞄へ入れた。


「今日は別々に行動しましょう」


「何でだ?」


「観測されているなら、3人で行動し続けるより、相手の反応を確認できます」


ガルドが嫌そうな顔をする。


「また勝手に決めるなよ」


「提案です」


「危ねえと思ったら?」


「中庭で合流します。日が沈む前に戻らなければ、ほかの2人が探す」


ミナが小さく頷いた。


「それならいい」


ガルドもしばらく考えた後、肩をすくめる。


「分かった。ただし、何か見つけても1人で追うな」


「はい」


「絶対だぞ」


「分かっています」


3人は教室を出ると、廊下の分かれ道で別れた。ガルドは訓練場へ、ミナは図書塔へ、レオンは寮へ戻る道を選ぶ。


普段と同じ放課後だった。廊下を歩く生徒。教室から聞こえる笑い声。窓の外では、魔法実技の補習を受けている生徒たちが火球を飛ばしている。不自然なところはない。


それでも、危機察知デンジャーセンスが弱く反応していた。危険というほど強くはない。だが、何かがある。


レオンは歩く速度を変えず、廊下の窓へ目を向けた。ガラスに映った背後には、数人の生徒がいる。誰もこちらを見ていない。階段を下りても、反応は消えなかった。


寮へ向かう渡り廊下へ入ったところで、レオンは足を止めた。


背後の足音も止まる。


振り返る。


誰もいない。


「……気のせいではありません」


レオンは無属性魔法ゼロスレッドを床へ伸ばした。糸を廊下の端へ這わせ、柱の陰や階段の下を探る。人はいない。代わりに、窓枠の上で硬い物へ触れた。


糸を巻きつけ、手元へ引き寄せる。小さな黒い石だった。表面には細い溝が刻まれ、中心に米粒ほどの魔石が埋め込まれている。レオンが触れた瞬間、魔石の光が消えた。


「記録用の魔導器?」


構造は簡単だった。周囲の音や魔力の変化を短時間だけ保存する道具に似ている。誰かが、レオンの通る場所へ置いた。


レオンはそれを布へ包み、鞄へ入れた。追跡はしない。約束したからだ。


中庭へ向かうと、ガルドが先に待っていた。大型盾を地面へ置き、腕を組んでいる。


「早かったですね」


「訓練場に着く前に戻ってきた」


「何かありましたか?」


ガルドは無言で盾の裏側を見せた。持ち手の近くに、細い白い糸が結ばれている。


「教室を出た時にはなかった」


ミナも少し遅れて中庭へ現れた。手には、閉じた本を抱えている。


「ミナは?」


「本の間に入ってた」


差し出されたのは、小さな紙片だった。何も書かれていない。だが、端には数字の2が薄く刻まれていた。


レオンも黒い魔導器を取り出し、石のベンチへ置く。3人は並んだ物を見る。


黒い記録石。白い糸。数字の2が刻まれた紙。


「偶然じゃねえな」


ガルドが低い声で言う。


「観測段階2が始まった」


ミナが紙片へ触れる。


「何を観測してる?」


レオンはすぐには答えなかった。行動。魔力。判断。仲間との関係。何を見られているのかは分からない。だが、地下で追加された記録は間違いではなかった。


相手は、すでに3人を見始めている。


「相手の望む反応をしないようにしましょう」


レオンが言う。


「望む反応?」


「怖がる。離れる。地下へ戻る。誰かへ報告する。どれも相手が予想している可能性があります」


「なら、どうする」


「普段どおりに過ごします」


ガルドが眉を寄せた。


「こんな物を置かれてもか?」


「観測されていると分かった状態で、普段どおりに過ごせるか。それも見られているかもしれません」


ミナが黒い記録石を見る。


「面倒」


「はい」


「壊していいか?」


ガルドが拳を握る。


「調べてからにしてください」


「終わったら壊す」


「構いません」


ガルドは少しだけ満足そうに頷いた。


その日の夜。レオンは寮の机で、3人が見つけた物を順番に調べていた。


黒い記録石には、ほとんど情報が残っていない。触れた瞬間に内部の術式が焼き切れる仕組みだった。白い糸には魔力がない。数字の2が刻まれた紙にも、特殊な加工は見つからなかった。


ただの警告。あるいは、観測していると伝えるための印。


レオンは調査結果を帳面へ記す。


そのとき、扉の下から何かが差し込まれた。


白い紙だった。


レオンは椅子から立ち上がり、すぐに扉を開ける。廊下には誰もいない。足音も聞こえなかった。


紙を拾い上げる。表には、短い文章が書かれていた。


『観測対象は、観測者を探してはならない』


その下には、黒いインクで3つの印が並んでいた。


B。


そして、その左右に刻まれた2つの小さな丸。


……


レオンは紙を見つめた。


自分たちが相手を調べようとしていることまで、すでに知られている。観測されているのは、行動だけではない。


次に何をしようと考えるのか。


そこまで試されているようだった。


良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

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